新型コロナウイルス感染症の重症化に特徴的なT細胞の異常を発見

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2020-10-09 熊本大学,日本医療研究開発機構

ポイント

  • 新型コロナウイルス感染症の重症患者肺組織のT細胞の遺伝子解析を行い、重症患者では、T細胞に内在してT細胞の反応を止めるブレーキの分子が働かなくなり、多数のT細胞が過剰に反応していることが分かりました。
  • このブレーキの分子が働かなくなる理由はまだ不明です。

概要説明

英インペリアル・カレッジ・ロンドンの小野昌弘准教授(熊本大学国際先端医学研究機構客員准教授)と熊本大学ヒトレトロウイルス学共同研究センター佐藤賢文教授の共同研究グループは、新型コロナウイルス感染症患者の肺組織のT細胞を対象とした遺伝子解析を実施することにより、重症化に特徴的なT細胞の異常を発見、重症患者ではT細胞に内在するブレーキが働かなくなった結果、T細胞が過剰に反応し、重症化を引き起こしている可能性を明らかにしました。これまで新型コロナウイルス感染症の重症患者のT細胞に何らかの異常があることは示唆されてきましたが、詳細は不明でした。今回の研究により、新型コロナウイルス感染症患者の一部がどのように重症化するかが一歩明らかになり、新型コロナウイルス感染症の肺炎重症化回避にむけた今後の基礎研究・臨床研究につながることが期待されます。

本研究は英国医学研究協議会(MRC)、文部科学省科学研究費助成事業(新学術領域:シンギュラリティ生物学)ならびに日本医療研究開発機構(AMED)医療分野国際科学技術共同研究開発推進事業戦略的国際共同研究プログラム日・英共同研究、新興・再興感染症研究基盤創生事業(多分野融合研究領域)、エイズ対策実用化研究事業の支援を受け、令和2年10月8日(英国時間6時00分)に科学雑誌「Frontiers in Immunology」に掲載されました。

説明

背景

新型コロナウイルス感染症は現在も拡大が続いており、我々の日常生活、社会・経済活動に甚大な影響を及ぼしています。感染者の大部分は無症状やごく軽症であるのに、なぜ一部が重症化するかは未解明の大きな疑問です。これまで指摘されている重症化のリスク因子には高齢・糖尿病・肥満・高血圧などがあります。また、重症患者では、血液中の炎症性物質(炎症性サイトカイン)の量が増え免疫系が過剰反応していることが知られる一方で、免疫細胞の司令塔「T細胞」が血液中で著しく減少していることが認められています。しかしながら、これらの知見についての医学的意味はまだ不明です。

研究の内容

T細胞は、ウイルスを特異的に認識することで免疫系の活性を調整・指揮する細胞です。本研究では、このT細胞に注目して、肺炎重症化の原因について研究を行いました。T細胞は、新型コロナウイルス感染症においても、ウイルス排除ならびに免疫獲得に重要な役割を果たしています。中でもCD4+ T細胞(ヘルパーT細胞)は、ウイルスを攻撃する「細胞傷害性T細胞」や抗体を産生する「B細胞」の成熟・活性化を促進し、ウイルスを体内から排除する重要な働きをしています。その一方で、一部のCD4+ T細胞は高度に活性化すると転写因子FoxP3を発現して、いわゆる抑制性T細胞(制御性T細胞)となり、T細胞反応を抑制するブレーキ役として働きます。今回の研究では、中国武漢の新型コロナウイルス感染症患者の肺組織の遺伝子データを使用して、その中に存在するCD4+ T細胞の活性ならびに遺伝子の特徴を調べました。

成果

本研究において、最先端のバイオインフォマティクス解析技術を用いて、重症化肺炎患者の肺組織ではT細胞が著明な活性化を示している一方で、FoxP3の誘導が阻害されており、T細胞の反応を止めるブレーキ機能に異常があることを見出しました。すなわち、ブレーキ機能が低下することで多くのT細胞が過剰反応し、新型コロナウイルス感染症患者の肺炎が重症化している可能性が示されました。

図1.本研究で提唱する新型コロナウイルス感染症重症化の免疫学的機序

展開

本研究は重症化肺炎と免疫細胞であるT細胞異常の関連性を明らかにしたものであり、新型コロナウイルス感染症患者における肺炎重症化メカニズム解明につながる新たな知見を見出しました。本研究を足がかりに、より詳細な病態解明がなされることで、新型コロナウイルス感染症の重症化を抑制する薬剤開発や重症化リスクの診断に貢献する可能性があります。

用語解説
*転写因子
遺伝子発現(遺伝子のON/OFF)を制御するタンパク質。発現する転写因子によってどのような細胞になるかが決定される。
論文情報
論文名
T-cell hyperactivation and paralysis in severe COVID-19 infection revealed by single cell analysis
著者
Bahire Kalfaoglu, José Almeida-Santos, Chanidapa Adele Tye, Yorifumi Satou, Masahiro Ono
掲載誌
Frontiers in Immunology
doi
10.3389/fimmu.2020.589380
URL
https://www.frontiersin.org/Immunological_Tolerance_and_Regulation/10.3389/fimmu.2020.589380/abstract
お問い合わせ先

熊本大学国際先端医学研究機構

AMED事業に関すること
日本医療研究開発機構
国際戦略推進部 国際戦略推進課

医療・健康細胞遺伝子工学
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