慢性活動性EBウイルス感染症を対象にJAK1/2阻害剤ルキソリチニブの有効性、安全性を確認する医師主導治験を開始

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2019/01/09 国立大学法人 東京医科歯科大学,国立研究開発法人 日本医療研究開発機構

東京医科歯科大学(学長:吉澤靖之、東京都文京区)医学部附属病院(病院長:大川淳)・大学院医歯学総合研究科先端血液検査学分野の新井文子准教授らのグループは、世界で初めて、慢性活動性EBウイルス感染症の患者を対象としたJAK1/2阻害剤の有効性、安全性を評価する医師主導治験を開始します。

本治験は国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)・難治性疾患実用化研究事業「慢性活動性EBウイルス感染症を対象としたJAK1/2阻害剤ルキソリチニブの医師主導治験」の支援により実施されます。

本治験の背景

CAEBVは、EBウイルスが持続感染したT細胞あるいはNK細胞が、死ににくく、かつ増えやすくなるとともに、発熱や肝障害などの全身の炎症症状が持続し、経過中、悪性リンパ腫や血球貪食症候群を合併する重篤な疾患です。本邦での年間発症者数は約30人と希少疾患に位置づけられています。世界的には日本、韓国、中国東部などの東アジアに報告が集中し、その他の地域では極めて稀とされてきました。しかし、2017年にWHOの造血器腫瘍分類に記載されてから周知が進み、欧米での報告も徐々に増えています。

EBウイルスはほぼすべての成人が感染している、ごくありふれたウイルスです。ひとたびヒトに感染するとリンパ球の一つであるB細胞(※1)に潜伏感染し、一生排除されることはありません。しかし、EBウイルスが、なぜ、一部のヒトでは、B細胞以外のリンパ球であるT細胞やNK細胞 (※1)へ持続感染し、CAEBV発症へ至るのか、そのメカニズムは十分解明されていません。また、CAEBVは化学療法の効果が乏しく、根治には造血幹細胞移植が必要で、有効な治療薬の開発は喫緊の課題です。

新井文子准教授の研究チームは、CAEBVの患者さんのEBウイルスに感染したT細胞とNK細胞で、転写因子STAT3が恒常的に活性化していること、チロシンキナーゼ(※2)JAK1/2の阻害剤であるルキソリチニブでSTAT3の活性化を抑えると、EBウイルスに感染したT細胞、NK細胞が増えにくく、死にやすくなるとともに、炎症原因物質であるサイトカイン(※3)の産生が抑制されることも明らかにしました(図1)。つまり、ルキソリチニブは、CAEBVに見られる持続する炎症症状の改善と、EBウイルス感染細胞の腫瘍化に対し効果をもたらすと期待されます。

現在、CAEBVに対し、熱、肝機能障害などの炎症症状(疾患活動性)を確実に抑えうる治療薬はありません。CAEBVの根治療法として同種造血幹細胞移植(※4)が行われますが、すべての患者さんに行える治療ではないことに加え、移植を行う前に疾患活動性を抑えておかないと、移植の成績が悪いことが明らかになっています。

以上を背景とし、このたび東京医科歯科大学は、疾患活動性をもつCAEBVを対象に、ルキソリチニブの有効性、安全性を評価する医師主導治験を実施します。ルキソリチニブは骨髄線維症、真性多血症に対し、すでに承認され、使用されている薬剤です。

図1 EBウイルスに感染したT細胞、NK細胞が増えにくく、死にやすくなるとともに、炎症原因物質であるサイトカイン(用語説明3)の産生が抑制される

本治験の概要

JAK1/2阻害剤ルキソリチニブが、CAEBVの治療薬になる可能性を検証するため、その有効性、安全性を確認する医師主導治験(第2相試験)を実施します。

対象は13歳以上のCAEBVで、発熱、肝障害、血管炎、皮膚炎、ぶどう膜炎の症状をもつ患者です。CAEBVから進行した悪性リンパ腫、白血病、治療が必要な他の感染症を持つ方などは除きます。治療薬は錠剤ですので錠剤が飲める方が対象となります。

募集期間:
2018年12月から2020年8月
予定人数:
最大10人
参加方法:
医療機関からの紹介
一般からの問い合わせ:
可(下記連絡先)

本治験の意義

世界で初めてCAEBVを対象として、治療薬の開発のために行われる治験です。

ルキソリチニブの効果が認められた場合、つまり炎症症状が抑えられた場合、患者さんの症状が改善する事に加え、移植の成績の改善とそれによる生命予後の改善が期待されます。

医師主導治験について

新しい薬が承認され、保険で使えるようになるためには新薬の臨床開発(治験)が必要です。以前は製薬企業だけが治験を行っていましたが、2003年7月に医師や歯科医師が治験を企画して医薬品開発にかかわることが認められました。このように医師や歯科医師が自ら治験を実施することを医師主導治験といいます。すでにある病気に対して使われている薬剤は、その適応(その薬剤で治療できる病気のこと)が細かく厳しく定められています。ほかの病気にも効くであろうことがわかっている薬剤でも、適応外であれば使うことができません。そこで東京医科歯科大学では、医師主導治験を積極的に行い、抗がん剤をはじめとする薬剤の適応を広げる取り組みを推進しています。

用語説明

※1 B細胞、T細胞、NK細胞:
白血球の一つ、リンパ球は、B細胞、T細胞、NK細胞に分類されます。リンパ球は、ウイルスや細菌などの病原体がヒトに感染すると勢いが増し、炎症(免疫反応)を起こして病原体を抑え、それらを駆逐します。
※2 チロシンキナーゼ:
細胞内に存在するリン酸化酵素。チロシンキナーゼが細胞内の蛋白質をリン酸化する事で、重要な情報が核へと伝達されていき、細胞の運命(生死、蛋白質の産生など)が決まります。
※3 サイトカイン:
炎症(免疫反応)の原因物質の一つ。T細胞、NK細胞は勢いが増すとサイトカインを産生し、免疫反応を起こして身体を守ります。しかし過剰に産生されると高熱などの炎症症状が続くほか、内臓の障害の原因になることがあります。
※4 同種造血幹細胞移植:
大量化学療法や全身放射線照射などを組み合わせた治療の後に、健常人由来の造血幹細胞を輸注(移植)し、患者さんの造血および免疫系を健常人由来の造血・免疫系に置き換える治療法です。

問い合わせ先

患者さん等からの治験に関するお問い合わせ先

東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科
先端血液検査学分野
新井 文子(アライ アヤコ)

報道に関すること

東京医科歯科大学 総務部総務秘書課広報係

AMED事業に関すること

日本医療研究開発機構 戦略推進部 難病研究課

医療・健康
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