個体の成長段階に合わせて葉の形を決める遺伝子を発見~作物の生産性向上に期待~

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2019-02-06 東北大学 大学院生命科学研究科,

科学技術振興機構(JST)

ポイント

  • 葉の形態形成に関与することが知られていたBLADE ONPETIOLE(BOP)遺伝子が、葉の基部側の成長を決定し、葉の伸長を調整するマスター遺伝子であることを発見しました。
  • 成長につれてBOP遺伝子の作用力が変化することで植物は葉を伸ばし、効率よく成長できることが分かりました。
  • 植物形態の多様性の理解だけでなく、作物の生産性向上にもつながる発見です。

東北大学 大学院生命科学研究科の経塚 淳子 教授らのグループは、これまで葉の形態形成に関与する遺伝子の1つとして知られていたBLADE ONPETIOLE(BOP)遺伝子が、葉の基部側の成長を決定するマスター遺伝子注1)であり、個体の成長段階に合わせてBOP遺伝子のはたらきを変化させ、イネの葉の形を段階的に調節することを発見しました。本研究は、葉の形態が成長に応じて変化するしくみを初めて明らかにしたもので、植物の柔軟な形づくりの解明につながる重要な発見です。葉の形は作物の収量に大きく影響するため、本研究は作物の生産性の向上にも貢献することが期待されます。

本研究成果は、2019年2月6日の「Nature Communications」誌(電子版)に掲載されます。

本研究は、科学技術振興機構(JST) 戦略的創造研究推進事業 チーム型研究(CREST)および文部科学省 科学研究費補助金の支援を受けて行われました。

<研究内容>

植物は幹や枝を伸ばし、その先に葉を茂らせて光合成を行い、糖分を作り出します。枝葉の形状は植物の種類ごとに独特ですが、葉の形状は光合成を効率よく行うために重要です。従って、葉をどのように伸長させ展開するかは、植物の成長と繁殖の成否を決する問題です。

イネ科植物の葉は、基部側の葉鞘(ようしょう)と先端側の葉身(ようしん)と呼ばれる2つの部分から構成されています(図1)。BLADE ONPETIOLE(BOP)(ボップ)遺伝子が葉の形態形成に関与することは知られていましたが、その詳細な機能は不明でした。経塚教授のグループは、イネのBOP遺伝子のはたらきを破壊すると葉身だけの葉がつくられ、BOP遺伝子を人工的に強くはたらかせると葉鞘だけの葉がつくられることを見いだしました(図1、2、3)。この発見により、BOP遺伝子が葉鞘の形成を決定するマスター遺伝子であることが明らかになりました。

葉鞘と葉身は、葉鞘が葉を支え、葉身が光合成を行うという別々の役割を担っています。このため、一枚の葉の葉鞘と葉身の比率は、その葉がつくられる時点の植物体の成長段階に合わせて変化させる必要があります(図4)。イネの生涯を通して、それぞれの葉の葉鞘と葉身の比率を決めるのはBOP遺伝子で、BOPが強くはたらくと葉鞘の比率が高く、はたらきが弱まると葉身の割合が高い葉、すなわち細長い葉がつくられることが分かりました。

植物は成長につれて、葉だけではなくさまざまな形質が変わります。これまでに植物の幼若期の特徴がmiR156という短いRNAによって決定されていることは知られていましたが、miR156がどのように植物に「幼さ」をもたらしているのかは分かっていませんでした。miR156がBOPのはたらきを調節することにより、葉の形を幼若期の状態にしていることも、本研究によって初めて明らかになりました(図5)。

葉鞘と葉身の比率は作物の収量に大きく影響します。本研究は、生物の形づくりの仕組みという観点から重要な成果であるだけでなく、作物の生産性の向上という観点からも重要です。

<参考図>

図1

図1

 BOPは葉鞘の形成を決定するマスター遺伝子である。
BOPの作用が強いと葉鞘の割合が高く(左)、BOPの作用が弱まると葉身の割合が高くなる(右)。

図2

図2

 イネの第1葉はすべて葉鞘で構成される。イネの3つのBOP遺伝子の作用力が低下すると葉身の割合が高くなる(白→)。BOPをすべて失うと、第1葉が葉身(緑→)になる。黄矢頭は葉鞘と葉身の境界を表す。

図3

図3

 BOP遺伝子の過剰発現により、葉鞘だけをもつ葉を形成するイネ。

図4

図4

 それぞれの葉の葉鞘と葉身の比率は成長につれて変化する。
1は発芽後最初の葉、2は2番目の葉(以下同様)を表し、Fは最後の葉、F-1は最後のひとつ前の葉を表す。黄矢頭(左図)は葉鞘と葉身の境界を表す。

図5

図5

 miR156はBOPの作用をコントロールすることにより、葉を幼若期の状態(葉鞘の割合が高い)にする。

<用語解説>

注1)マスター遺伝子
ある細胞が特定の器官に分化するための指令スイッチとしてはたらく遺伝子。その遺伝子が欠損すると分化が起こらず、強制的にはたらかせると、本来は分化しない細胞からの特定の器官への分化が起こる。

<論文情報>

タイトル
BLADE-ON-PETIOLE genes temporally and developmentally regulate the sheath to blade ratio of rice leaves
著者名
Taiyo Toriba, Hiroki Tokunaga, Toshihide Shiga, Nie Fanyu, Satoshi Naramoto, Eriko Honda, Keisuke Tanaka, Teruaki Taji, Jun-Ichi Itoh, Junko KyozukaDOI10.1038/s41467-019-08479-5

<お問い合わせ先>

<研究に関すること>

経塚 淳子(キョウヅカ ジュンコ)
東北大学 大学院生命科学研究科 教授

<JST事業に関すること>

川口 哲(カワグチ テツ)
科学技術振興機構 戦略研究推進部 ライフイノベーショングループ

<報道担当>

高橋 さやか(タカハシ サヤカ)
東北大学 大学院生命科学研究科 広報室

科学技術振興機構 広報課

細胞遺伝子工学
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