肺がん免疫チェックポイント療法の効果を予測するバイオマーカーを発見

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2019-09-06   川崎医科大学,長崎大学,広島大学,理化学研究所

【概要】
川崎医科大学免疫腫瘍学教室 岡 三喜男 特任教授、長崎大学病院 がん診療センター福田 実 准教授、広島大学大学院医系科学研究科分子内科学 服部 登 教授、理化学研究所 医科学イノベーションハブ推進プログラム がん免疫データ多層統合ユニット 垣見 和宏ユニットリーダーの共同研究グループは、非小細胞肺がんに対する免疫チェックポイント療法(抗 PD-1 抗体療法:オプジーボまたはキイトルーダ)の効果を予測しモニタリングする血清バイオマーカーを世界で初めて同定しました。
川崎医科大学の岡 三喜男 特任教授の研究グループは、長年、がん細胞に特異的に発現するがん抗原と、それに対する患者の免疫反応について研究をしてきました。その中でも肺腺がんに特異的に発現する XAGE1抗原と、肺扁平上皮がんに発現する NY-ESO-1抗原に注目し、これら抗原に対する患者血清中の抗体を測定しました。抗 PD-1 抗体療法を行った非小細胞肺がん75例を解析した結果、抗体を有する肺がん患者の65%(11/17)に奏効、抗体をもたない患者では 19%(11/58)に奏効し、両者の間に有意な差がみられ、抗体陽性患者では有意に生存期間が延長しました。さらに非喫煙者には抗 PD-1 抗体療法が効かないとされていたが、非喫煙の抗体陽性患者には奏効し、うち 1 例では完全にがんが消失しました。興味深いことに、抗体は効果に伴って低下し、効果のモニタリングにも有用でした。
研究成果の論文は、世界肺癌学会の公式誌 Journal of Thoracic Oncology にオンラインで公開されました。これらの研究は、川崎医科大学、長崎大学、広島大学、東京大学、理化学研究所との共同研究です。

【研究の背景】
免疫チェックポイント療法(抗PD-1抗体療法)は、2018年にノーベル賞を受賞した京都大学の本庶 佑教授が開発し世界的に注目され、多くのがん種にその適応が拡大しています。しかし、その単剤での効果が限定的(肺がんでは約 20%)で高額なため、医学的また社会的に世界中で大きな問題となっています。そこで、この治療が有効な患者を事前に予測するバイオマーカーが求められ、その探索研究が競争的に世界中で行われ、米国では膨大な研究予算が充てられています。

【ポイント】
現在、抗 PD-1 抗体療法の効果を予測する検査法として、腫瘍細胞の PD-L1検査が保険承認され、また腫瘍の遺伝子変異数やリンパ球浸潤が有望とされています。しかし、これらは繰り返し検査ができず、患者に身体的また経済的にも負担がかかり、実用的ではありません。岡教授の血清バイオマーカーは簡便、安価、迅速(20 分以内)で繰り返し検査ができ、理想的な検査法です。
さらに、この血清バイオマーカーは他のバイオマーカーとは全く独立した因子であり、併用検査によって効果予測がより正確になることが期待されます。

【研究成果の意義】
この簡便な血清バイオマーカーによって、効く患者の選択、予後予測、治療期間の設定が可能となり、患者の身体的また経済的な負担を軽減できます。さらに他のがんの免疫チェックポイント療法に検査法の適応拡大が期待され、世界の医療費節減に多大な貢献が期待されます。

【今後の展開】
日本発および世界初の血清バイオマーカーの一般実用化を迅速に行うべく、産学連携により開発を進めています。また、更に開発を加速するため、公的研究費の獲得に取り組んでいきます。

【論文情報等】
雑誌 : Journal of Thoracic Oncology
題目 : Serum Antibody against NY-ESO-1 and XAGE1 Antigens Potentially Predicts Clinical Responses to Anti-PD-1 Therapy in Non-Small-Cell Lung Cancer
doi : https://doi.org/10.1016/j.jtho.2019.08.008.

<問合せ先> 研究について
川崎医科大学 免疫腫瘍学教室特任教授 岡 三喜男 (おか みきお)

<問合せ先> 広報について
川崎医科大学 事務部庶務課課長 國府島 貞司 (こうじま ていじ)

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