ビフィズス菌におけるヒトへの適応進化を発見

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母乳オリゴ糖トランスポーターの獲得形質がビフィズスフローラ形成を促す

2019-09-05 京都大学

片山高嶺 生命科学研究科教授らの研究グループは、2’-フコシルラクトース利用に関わるビフィズス菌の2つのトランスポーター(FL transporter-1およびFL transporter-2)を同定して詳細に解析すると共に、FL transporter-2の適応進化によって、ビフィズス菌が2’-フコシルラクトース以外のフコシル化母乳オリゴ糖を効率的に利用可能となり、このことがビフィズスフローラ形成に深く関わっていることを明らかにしました。

母乳哺育をすると乳児の腸内でビフィズス菌が増える(ビフィズスフローラを形成する)ことが100年近く前から知られており、それには母乳に含まれるオリゴ糖成分(母乳オリゴ糖)が関与していることが分かり始めてきました。これを受けて、欧米では母乳オリゴ糖の主成分の一つである2’-フコシルラクトースを調製乳に添加し始めていますが、ビフィズス菌がどのようにして2’-フコシルラクトースを利用しているのか、またそれが乳児腸管におけるビフィズスフローラ形成にどのような影響を及ぼしているのかは詳細には解明されていませんでした。

本研究成果は、調製乳への2’-フコシルラクトース添加の科学的根拠を示すだけでなく、今後、調製乳への母乳オリゴ糖添加にはビフィズス菌の特性を良く理解することが必要であることを示しています。

本研究成果は、2019年8月29日に、国際学術誌「Science Advances」のオンライン版に掲載されました。

図:本研究の概要図

書誌情報

【DOI】 https://doi.org/10.1126/sciadv.aaw7696

【KURENAIアクセスURL】 http://hdl.handle.net/2433/243878

Mikiyasu Sakanaka, Morten Ejby Hansen, Aina Gotoh, Toshihiko Katoh, Keisuke Yoshida, Toshitaka Odamaki, Hiroyuki Yachi, Yuta Sugiyama, Shin Kurihara, Junko Hirose, Tadasu Urashima, Jin-zhong Xiao, Motomitsu Kitaoka, Satoru Fukiya, Atsushi Yokota, Leila Lo Leggio, Maher Abou Hachem and Takane Katayama (2019). Evolutionary adaptation in fucosyllactose uptake systems supports bifidobacteria-infant symbiosis. Science Advances, 5(8):eaaw7696.

詳しい研究内容について

ビフィズス菌におけるヒトへの適応進化を発見
―母乳オリゴ糖トランスポーターの獲得形質がビフィズスフローラ形成を促す―

概要
母乳哺育をすると乳児の腸内でビフィズス菌が増える( ビフィズスフローラと呼ばれます)ことが 100 年近 く前から知られており、それには母乳に含まれるオリゴ糖成分( 母乳オリゴ糖)が関与していることが分かり 始めてきました。これを受けて、欧米では母乳オリゴ糖の主成分の一つである 2’-フコシルラクトースを調製 乳に添加し始めていますが、ビフィズス菌がどのようにして 2’-フコシルラクトースを利用しているのか、ま たそれが乳児腸管におけるビフィズスフローラ形成にどのような影響を及ぼしているのかは詳細には解明さ れていませんでした。
今回、京都大学大学院生命科学研究科 片山高嶺 教授らの研究グループは、2’-フコシルラクトース利用に関 わるビフィズス菌の2つのトランスポーター FL(transporter-1 および FL(transporter-2)を同定して詳細に 解析すると共に、FL( transporter-2 の適応進化によって、ビフィズス菌が 2’-フコシルラクトース以外のフコ シル化母乳オリゴ糖を効率的に利用可能となり、このことがビフィズスフローラ形成に深く関わっていること を明らかにしました。今回の成果は、調製乳への 2’-フコシルラクトース添加の科学的根拠を示すだけでなく、 今後、調製乳への母乳オリゴ糖添加にはビフィズス菌の特性を良く理解することが必要であることを示してい ます。
本研究成果は、2019 年 8 月 29 日に国際学術誌「Science(Advances」のオンライン版に公開されました。

1.背景
母乳栄養児の腸管では、ビフィズス菌優勢な細菌叢( ビフィズスフローラ)が形成されることが知られてい ます。私たちはこれまでの研究において、人乳に3番目に多く含まれる成分でありながら乳児自身の栄養には ならないオリゴ糖( 母乳オリゴ糖)をビフィズス菌が栄養源として利用することが可能であることを示してき ました。欧米では現在、母乳オリゴ糖の主成分の一つである 2’-フコシルラクトースが調製乳に添加されるよ うになっていますが、それにもかかわらず、2’-フコシルラクトースがどのようなメカニズムでビフィズス菌に 利用されているのか、また、そのことがビフィズスフローラ形成にどのように寄与しているのかということは 詳細には解明されていませんでした。

2.研究手法・成果
今回、私たちはビフィズス菌の母乳オリゴ糖トランスポーターに着目し、2’-フコシルラクトース取り込みに 関わる2つのトランスポーター FL(transporter-1 および FL(transporter-2)を同定し、それらの生化学的・ 構造学的な解析を行いました。また、乳児糞便中の細菌遺伝子や母乳オリゴ糖を解析することで、特に FL( transporter-2 が乳児腸管におけるビフィズスフローラ形成に重要であることを明らかとしました。興味深い ことに、FL(transporter-1 と FL transporter-2 の間には一部にアミノ酸置換が見られ、そのアミノ酸置換によ って FL transporter-2 が 2’-フコシルラクトースのみならず他のフコシル化オリゴ糖( 例えば 3-フコシルラク トース)を効率的に認識できるようになったことが分かりました。乳児糞便には5種程度のビフィズス菌が生 息していますが、それらのゲノムを調べたところ FL(transporter-2 を持つものが殆どでした。つまり、FL  transporter-2 に見られる適応進化がビフィズスフローラ形成に重要な役割を果たしていることが推察されま した。
将来的に 2’-フコシルラクトース以外の母乳オリゴ糖も調製乳に添加する動きがありますが、それと同時に、 ビフィズス菌が有する母乳オリゴ糖の利用能を良く調べる必要があると考えられます。

3.波及効果、今後の予定
乳児期に形成される腸内細菌叢が一生にわたってヒトの健康に影響を及ぼすことが明らかにされて以降、 WHO は半年間の母乳哺育を薦めていますが、社会構造の変化に伴って調製乳による哺育が増加し続けていま す。調製乳をより人乳に近づける目的で、今後も母乳オリゴ糖の合成法開発が進められていくと思いますが、 本研究の成果は、母乳オリゴ糖を介したビフィズスフローラ形成を詳細に解明するためのフレームワークを示 したと言えます。

4.研究プロジェクトについて
本研究は、石川県立大学 阪中幹祥 助教 (現:デンマーク工科大学 研究員)・谷内寛之 修士課程学生 (現: 天野エンザイム株式会社)・杉山友太 研究員( 現:京都大学 研究員)・栗原新 准教授( 現:近畿大学 講師)・ 片山高嶺 教授 (兼任)、デンマーク工科大学 Morten  Ejby  Hansen 博士課程学生・Maher  Abou  Hachem 教 授、森永乳業株式会社 吉田圭佑 研究員 ・小田巻俊孝 主席研究員 ・清水( 肖)金忠 基礎研究所所長、滋賀県 立大学 廣瀬潤子 准教授、帯広畜産大学 浦島匡 教授、農研機構 北岡本光 ユニットリーダー( 現:新潟大学 教授)、北海道大学 吹谷智 講師・横田篤 教授、コペンハーゲン大学 Leila  Lo  Leggio 教授と共同で行われ、 京都大学からは、後藤愛那 日本学術振興会特別研究員・加藤紀彦 助教・片山高嶺 教授が参加しました。また本研究は、財団法人発酵研究所、日本学術振興会、デンマーク自然科学研究ファンド、およびカールスバー グ財団より助成を受けました。

<研究者のコメント>
母乳オリゴ糖は人乳に 10~20( g/L 程度含まれており、母親は乳腺において多大なエネルギーを消費しなが ら 糖1分子を伸長させるには ATP が 1 分子必要です)オリゴ糖を合成して児に与えています。母乳オリゴ 糖トランスポーターに見られる適応進化は、ヒトとビフィズス菌の共進化(・共生を支える基盤だと思いますが、 なぜ、そこまでしてヒトは乳児期においてビフィズス菌と共生するという進化をしてきたのか、つまり、ビフ ィズスフローラの乳児における生理的意義を解明するというのが私たちの次の課題です。

<論文タイトルと著者>
タ イ ト ル : Evolutionary  adaptation  in  fucosyllactose  uptake systems  supports  bifidobacteria-infant  symbiosis (フコシルラクトース取り込み系における適応進化がビフィズス菌と乳児の共生を支え ている)
著 者:Mikiyasu  Sakanaka,  Morten  Ejby  Hansen,  Aina  Gotoh,  Toshihiko  Katoh,  Keisuke   Yoshida,  Toshitaka  Odamaki,  Hiroyuki  Yachi,  Yuta Sugiyama,  Shin  Kurihara,  Junko  Hirose,  Tadasu  Urashima, Jin-zhong Xiao, Motomitsu Kitaoka, Satoru Fukiya, Atsushi  Yokota, Leila Lo Leggio,  Maher Abou Hachem, and Takane Katayama
掲 載 誌:Science Advances  DOI:未定

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