継続感染における植物ウイルスと宿主植物との相互作用の季節性を解明

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ウイルスの生態学:自然生態系における植物とウイルスの関係を長期に研究

2019-11-01   京都大学

本庄三恵 生態学研究センター研究員、工藤洋 同教授らのグループは、植物体内のウイルス量変化や感染植物の遺伝子の応答を調べることによって、野生植物とそれに感染するウイルスとの関係が季節の中でどのように変化しているのかについて明らかにしました。

本研究グループは、アブラナ科のハクサンハタザオの自然生育地において、感染した同植物の体内でのカブモザイクウイルスの量の変化を3年間に渡って追跡調査しました。また、植物の葉で機能している全遺伝子を対象に、ウイルス感染がどのように遺伝子の働きを変化させるかについて、RNAシーケンシングを用いて四季を追って明らかにしました。その結果、カブモザイクウイルスは一度感染すると植物体内から排除されず、季節に応じて植物体内での分布を変化させながら継続的に保持されるとともに、ハクサンハタザオは感染状態でも、季節ごとにウイルスへの防御法を変えながら長期にわたって生存・成長し、開花・結実や栄養繁殖を行うことが明らかになりました。

本研究は年間を通して宿主植物とその体内のウイルスの季節変化を明らかにした初めての成果であり、これまで作物の病気として扱われてきた植物ウイルスを、生物多様性の構成要素として生態学の研究対象とするきっかけとなるものです。

本研究成果は、2019年10月30日に、国際学術誌「The ISME Journal」のオンライン版に掲載されました。

図:本研究のイメージ図

詳しい研究内容について

継続感染における植物ウイルスと宿主植物との相互作用の季節性を解明
―ウイルスの生態学:自然生態系における植物とウイルスの関係を長期に研究―

概要
京都大学生態学研究センターの本庄三恵 研究員、工藤洋 同教授らのグループは、野生植物とそれに感染す るウイルスとの関係が季節の中でどのように変化しているのかを、植物体内のウイルス量変化や感染植物の遺 伝子の応答を研究することで明らかにしました。
植物ウイルスはこれまで作物の病気の原因として詳しく研究されてきましたが、自然に生育する野生植物に ついての研究は限られてきました。最近の研究では、これまで考えられていた以上に多くのウイルスが野生植 物に感染していることが分かりつつあります。その一方で、自然の生態系では、植物ウイルスと宿主 ホスト) である野生植物との間には、共倒れしないような関係が築かれているのではないかと予想されていました。そ れは、感染した植物が完全に枯れてしまうことは、ウイルス自身の存続も危うくするからです。しかし、ウイ ルスは目に見えないことから、植物ウイルスがどのくらいの期間感染し続けるのか、どのような影響を植物に 与えているのかを継続的に調べるのが困難でした。また自然条件下で、季節によるウイルスの生態の違い、つ まり、どのように冬越ししているのか、植物体内での分布はどうか、いつ新芽に移動するのか、一年中植物に 影響を与えているのか、それともある季節だけに影響があるのかといったことは、ほとんど研究されてきませ んでした。
そこで研究グループは、感染した植物の体内でのウイルスの量の変化を 3 年間に渡って追跡調査するととも に、植物の葉で機能している全遺伝子を対象にウイルス感染がどのように遺伝子の働きを変化させるかについ て四季をおって明らかにしました。研究は、日本に自生するアブラナ科のハクサンハタザオとそれに感染する カブモザイクウイルスについて、同植物の自然生育地において実施されました。その結果、カブモザイクウイ ルスは一度感染すると植物体内から排除されず継続的に保持され続けるとともに、ハクサンハタザオは感染状 態でも長期にわたって生存 成長し、開花 結実や栄養繁殖を行うことが明らかになりました。カブモザイク ウイルスは種子には入ることができないので、感染個体でも健全な種子を生産します。その一方で、植物組織 内のウイルス量は季節に沿って大きく変化し、冬の間は下部の古い葉で過ごし、春先に先端の芽に移動して、 栄養繁殖でつくられる新しい植物での感染へと引き継がれることが明らかになりました。感染している植物と 健全な植物の葉で遺伝子の働きを比較したところ、その差が顕著となる季節は秋に限られていました。また、 植物が季節によってウイルスに対抗するための防御法を変えていることが明らかになりました。本研究は年間 を通して宿主植物とその体内のウイルスの季節変化を明らかにした初めての例であり、これまで作物の病気と して扱われてきた植物ウイルスを、生物多様性の構成要素として生態学の研究対象とするきっかけとなるもの です。全遺伝子の働きとウイルス量の同時測定という最新の分子遺伝学の手法 RNA シーケンシング)を用 いることで、これまで見えなかった植物と内在するウイルスとの関係を明らかにすることができました。自然 生育地の調査という地道な生態学の手法と最新の分子生物学の手法を組み合わせることが新たな成果につな がりました。本成果は、2019 年 10 月 30 日に国際学術誌「The ISME Journal」にオンライン掲載されました。

1.背景
日本を含む温帯域において、環境のもっとも顕著な変化は季節として現れます。そのため、植物をはじめと するほとんどの生物が、季節に応じた生活のスケジュールを持っています。植物ウイルスは、一度感染すると 植物が枯れるまで体内にとどまり続けますが、宿主 ホスト)が長く生存する場合に植物体内でいったいどの ような季節動態を示すかといったウイルスの生態を明らかにする研究は行われていませんでした。最近の研究 手法の発達により、RNA シーケンシングという手法を用いて野生植物に感染するウイルスの量と宿主植物の 遺伝子の働きを同時測定することが可能となりました。そこで、植物ウイルスと宿主植物の応答を、本来の自 然の生育地で研究をすることを目的とした、いわゆるウイルスの生態学研究を始めました。

2.研究手法・成果
植物は移動しないので、自然条件下でウイルスと宿主の関係を長期にわたって研究することができるという 利点がありました。また、自然生育地において研究することが、ウイルスと宿主の本来の季節性を観測すると いう点で重要となります。日本に自生する植物であるアブラナ科の常緑多年生草本ハクサンハタザオとそれに 感染するカブモザイクウイルスについて、同植物の自然生育地で3年間の調査を実施しました。葉を採集して、 ウイルス感染の有無と感染している場合はウイルスの量を調べました。また、春分 夏至 秋分 冬至の 4 回 にわたって、ウイルス感染の有無と宿主植物の遺伝子の働きを調べました。遺伝子の働きは、遺伝子から作ら れる分子であるメッセンジャーRNA を取り出し、その量の変化を調べます。また、カブモザイクウイルスの 本体も RNA なので、同時に調べることができました。
その結果、それぞれのハクサンハタザオ株ごとに単一のカブモザイクウイルスの系統が長期にわたって感染 し続けていることが明らかとなりました。ウイルス量および宿主の応答は季節によって大きく変化し、冬に展 開した葉ではウイルス量が比較的低く抑えられていることがわかりました。また、温度を操作することで、ウ イルスの増殖と新しい葉への移動が温度に依存することを実験的に確かめました。植物の防御応答は季節によ って異なり、春はサリチル酸経路、秋は RNA サイレンシング関連の遺伝子の働きが、ウイルスの感染によっ て増えていました。サリチル酸経路による防御は、ウイルス、バクテリア、カビなど対象の広い対抗手段、RNA サイレンシングはウイルスに的を絞った対抗手段で、植物が季節に応じて防御方法を変えていることが初めて 明らかになりました。そのほかの遺伝子における応答は秋に一時的に起きており、ウイルスの感染による症状 は主に秋にだけ現れている可能性があります。その一方で、冬の間でも植物の下の方に位置する比較的古い葉 にはウイルスが多く蓄積しており、それが春先に上方に移動して、ハクサンハタザオの脇芽に栄養繁殖によっ て新たに作られる植物に感染することがわかりました。日本のような四季がある気候の下では、植物ウイルス がどのように冬越ししているかを明らかにすることが、長期的な継続感染の仕組みを理解する上でも重要であ ることがわかりました。全遺伝子の働きとウイルス量の同時測定という最新の分子遺伝学の手法と、自然生育 地の調査という地道な生態学の手法とを組み合わせることが新たな成果につながりました。

3.波及効果、今後の予定
本研究は年間を通して宿主植物とその体内のウイルスの季節変化を明らかにした初めての例であり、これま で作物の病気として扱われてきた植物ウイルスを、生物多様性の構成要素として研究対象とするきっかけとな るものです。植物ウイルスの動態は、作物を含む植物の季節スケジュールを理解するうえで必須の基礎情報の 一つであり、今後予想される地球環境の変化に対する対応策を立てる上でも重要な情報を与えます。自然生育 地での遺伝子機能の研究は我が国がリードしている分野であり、今後、植物を含めた幅広い生物群からのデー タ取得が必要であると考えられます。

4.研究プロジェクトについて
本研究は、主に以下の研究費の支援を受けました。
○ JST クレスト (CREST)植物頑健性領域 JPMJCR15O1 (研究代表者・ 工藤洋)
○ 科学研究費基盤研究 S 26221106 (研究代表者・ 工藤洋)

<研究者のコメント>
自然生育地で生物の生活を丹念に観察するという生態学のアプローチが、植物ウイルスの理解に貢献するこ とを示すことができたと思います。ウイルスは作物の病原体として重要な研究対象ですが、生態系の構成要素 の一つとしてその生活の様子を丹念に研究することの重要性を感じています。野外研究には時間がかかります が、地球環境の成り立ちを理解するためには避けては通れません。自然界で起きている生物現象の中には、ま だまだ手を付けられていないことがたくさんあります。今後も、分子生物学の最新の手法を導入して、新たな 生態学研究を展開したいと考えています。

<論文タイトルと著者>
タイトル:Seasonality in interactions between a plant virus and its host in a persistent infection. (訳:継続感染における植物ウイルスと宿主植物との相互作用の季節性)
著 者: Mie N. Honjo, Naoko Emura, Tetsuhiro Kawagoe, Jiro Sugisaka, Mari Kamitani, Atsushi J. Nagano, and Hiroshi Kudoh[京都大学生態学研究センター 本庄三恵 研究員(責任著者)、同 榮 村奈緒子 研究員、同 川越哲博 研究員、同 杉阪次郎 研究員、同 神谷麻梨 博士課程大学院生 研 究当時、現 :龍谷大学研究員)、同 永野惇 研究員 (研究当時、現 :龍谷大学准教授)、同 工藤洋 教授(責任著者)]
掲 載 誌: The ISME Journal  DOI:10.1038/s41396-019-0519-4

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