次世代がん精密医療への応用に期待~体内でのがんリン酸化シグナルを高精度に定量する技術を開発~

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2019-12-26   国立がん研究センター

概要

国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所プロテオームリサーチプロジェクト・創薬標的プロテオミクスプロジェクトの足立淳プロジェクトリーダー、朝長毅上級研究員、阿部雄一協力研究員と国立研究開発法人国立がん研究センター朴成和消化管内科長(中央病院副院長)らは、内視鏡検査で採取した直後に凍結した微量の生検検体(注1)から、1万個を超えるリン酸化部位を測定し、患者毎のリン酸化シグナル(注2)の特性を明らかにする技術を開発しました。

本研究成果は、がんの増殖や薬剤感受性を決定するのに重要なリン酸化酵素の活性をみることのできる技術の臨床応用を可能にしたものであり、新たながん治療の開発に応用可能であると考えられます。2019年12月10日(日本時間)にTheranostics電子版に掲載されました。

医薬基盤・健康・栄養研究所と国立がん研究センターは、2017年1月より包括的な連携・協力の推進に関する協定を締結し、革新的な創薬の実現や科学技術の発展・継承に寄与する研究等を推進しており、本研究成果はその取り組みによるものです。

背景

がんのゲノム情報を調べて新たな治療につなげる「がん精密医療(注3)」が日本でも本格的に開始されました。その中でも胃がんや大腸がんなどの消化器がんは、具体的な治療に結びつく割合が低いため、より多くのがん患者に対応することができる次世代型「がん精密医療」の実現が求められています。

抗がん剤として用いる分子標的治療薬(注4)の多くはタンパク質に直接作用するため、がん細胞内のタンパク質全体(プロテオーム)の情報は、治療法の選択に有用であると期待されています。特にタンパク質のリン酸化修飾を介したリン酸化シグナルはがん細胞のさまざまな機能を制御し、リン酸化シグナルを標的にした抗がん剤も多数開発されていることから、「がん精密医療」への応用が期待されています。しかし、手術検体(注5)等を用いてリン酸化シグナルを解析する場合、手術操作による阻血(注6)などの影響のため、体内の状況を反映したデータを取得することが困難でした。

研究手法・成果

内視鏡用の生検鉗子(注7)を用いて採取された生検検体を採取後20秒以内に液体窒素で凍結させることで、リン酸化シグナルの変化を極力抑えたサンプルの採取法を構築しました。5名の胃がん患者からそれぞれがん部・非がん部を採取し、生検検体に特化したリン酸化プロテオーム解析(注8)によって合計で10162個のリン酸化部位を同定しました。がん部と非がん部ではリン酸化プロファイルは大きく異なり、がん部位では細胞周期に関連するタンパク質、DNA損傷に応答するタンパク質のリン酸化が亢進していることが確認されました。また患者毎に比較すると、リン酸化情報から取得したキナーゼ活性プロファイルは患者毎の特異性が高く、「がん精密医療」を実行していく上で、その重要性が示唆されました。

波及効果・今後の予定

本技術は、その他の種類のがんにも適用することが可能であり、生検検体は経時的に採取することができるため、治療前の治療法の選択だけではなく治療後の変化をみることで、患者毎に治療の効果判定を迅速に行うことや適切な併用薬の選択が可能になることが期待されます。このような次世代型「がん精密医療」が実現すれば、個々の患者に適した薬剤の提供、医療費の抑制、臨床試験の成功率の向上につながる可能性が高まります。

研究費

国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)

革新的がん医療実用化研究事業

研究開発課題名:リン酸化プロテオゲノミクスを基盤としたオンデマンドパスウェイミクス解析による胃癌最適医療の構築

研究開発代表者:足立 淳

用語解説

注1 生検検体

病気の診断を行うために、特殊な針や内視鏡を用いて臓器組織の一部を採取したもの。

注2 リン酸化シグナル

細胞内外の刺激に対して細胞膜上・細胞質中のタンパク質が、リン酸化反応を介して、情報伝達を行うこと。がん細胞の増殖、転移、細胞死などに重要な役割を果たしている。

注3 がん精密医療

がん患者が個々に有する遺伝子・タンパク質・代謝物等の特徴から個人レベルで最適な治療方法を分析・選択し、それを施すこと。

注4 分子標的治療薬

体内の特定の標的分子を狙い撃ちし、その機能を抑えることによって、病気を治療する目的で開発された薬剤。

注5 手術検体

手術で切除された組織や臓器から採取した検体。

注6 阻血

手術を行うときに、出血を抑えるために血流を一時的に止めること。

注7 生検鉗子

がん組織の一部を掴んで採取するための、はさみに似た形の医療器具。

注8 リン酸化プロテオーム解析

タンパク質のリン酸化修飾に特化して測定する解析手法。リン酸化修飾ペプチドの濃縮技術、質量分析計およびデータ処理技術の発展により、近年急速に解析深度が向上している。

論文情報

原題:    Comprehensive characterization of the phosphoproteome of gastric cancer from endoscopic biopsy specimens.

邦題:             胃がん内視鏡生検検体リン酸化プロテオームの包括的な特性解析

著者名:         阿部雄一、平野秀和、庄司広和、多田亜沙、磯山純子、覚道明美、軍司大悟、

本田一文、朴成和、足立淳、朝長毅

掲載誌:         Theranostics

DOI:             10.7150/thno.37623

問い合わせ先

国立研究開発法人 医薬基盤・健康・栄養研究所

プロテオームリサーチプロジェクト・創薬標的プロテオミクスプロジェクト
足立 淳

国立研究開発法人国立がん研究センター

企画戦略局広報企画室

AMED事業に関する問い合わせ先
国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)

戦略推進部 がん研究課

医療・健康
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