温室効果ガスを光照射で水素や化学原料に変換 ~高性能な光触媒を開発~

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2020-01-28   東京工業大学,物質・材料研究機構,高知工科大学,九州大学,静岡大学,科学技術振興機構

ポイント
  • 光照射のみでメタンの二酸化炭素改質反応を起こすことに成功。
  • 複合光触媒を開発し、従来の光触媒とは異なる反応機構を解明。
  • 地球温暖化ガスの有効利用策として期待。

東京工業大学 物質理工学院 材料系の庄司 州作 博士後期課程3年と宮内 雅浩 教授、物質・材料研究機構の阿部 英樹 主席研究員、高知工科大学の藤田 武志 教授、九州大学 大学院工学研究院の松村 晶 教授、静岡大学の福原 長寿 教授らの共同研究グループは、低温でメタンの二酸化炭素改質反応、ドライリフォーミング注1)を起こすことができる光触媒材料の開発に成功しました。

ロジウムとチタン酸ストロンチウム注2)からなる複合光触媒を開発し、光照射のみでドライリフォーミングを達成しました。加熱を必要としないため、燃料の消費が大幅に抑えられるとともに、ヒーターなどによる加熱による触媒の劣化が起こらず長期間安定的に反応を継続することができ、地球温暖化ガスを有効利用できる方策として期待されます。

ドライリフォーミングは温室効果ガスのメタンと二酸化炭素を有用な化学原料に変換できる魅力的な反応ですが、800度以上の加熱が必要で、かつ加熱による触媒凝集並びに炭素析出による劣化の問題から、実用化には至っていません。

本研究成果は2020年1月27日(英国時間)、英国科学誌「Nature Catalysis」にオンライン掲載されます。

本研究はJST 戦略的創造研究推進事業 CREST 研究領域「多様な天然炭素資源の活用に資する革新的触媒と創出技術」(研究総括:上田 渉)における研究課題「高効率メタン転換へのナノ相分離触媒の創成」(研究代表者:阿部 英樹)において実施しました。

ドライリフォーミング反応は温室効果ガスであるメタンと二酸化炭素から、水素と一酸化炭素の合成ガスに変換することができます(CH4+CO2→2CO+2H2)。生成した合成ガスはアルコールやガソリン、化学製品を製造する化学原料となるため、ドライリフォーミング反応は天然ガスやシェールガス注3)の有効利用および地球温暖化抑止のために注目されています。

しかし、この反応を効率よく進行させるためには800度以上の高温が必要となり、大量の燃料消費と高温条件における触媒の劣化が問題となっていました。本研究グループは、光エネルギーを使ってドライリフォーミング反応を起こす光触媒注4)を開発しました。従来の光触媒反応は水中の水素イオンが反応の媒体となって駆動する一方、乾燥条件で進行するドライリフォーミングに適した光触媒の探索が重要なポイントでした。

開発した光触媒はチタン酸ストロンチウムに金属ロジウムがナノスケールで複合されています(図1)。この光触媒はチタン酸ストロンチウムとロジウム塩水溶液を密閉容器内で加熱処理することにより簡便に合成することができます。

この光触媒に紫外線を照射すると、加熱をしない条件でも50パーセントを超えるメタンと二酸化炭素転換率を示しました。従来型の熱触媒で同じ性能を出すためには、500度以上の加熱が必要となることから、本研究グループの開発した光触媒の性能の高さが分かります。

図2aに光触媒の各温度での活性を示します。点線は熱力学的に計算される熱触媒の性能上限値ですが、本研究グループが開発した光触媒に光照射を行うことで、熱触媒の性能上限値を大きく上回りました。また、この光触媒による水素と一酸化炭素の生成速度は、メタンと二酸化炭素の消費速度の2倍となりました(図2b)。このことから、光照射でドライリフォーミング反応が化学量論的注5)に進行し、副反応がほとんど起こっていないことが示唆されました。なお、光触媒として従来からよく知られる二酸化チタンを用いた場合は、本研究で用いたチタン酸ストロンチウムのような高い性能を示しません。

この光触媒の耐久性を調べたところ、長期にわたり安定であることが分かりました。図3は反応前の光触媒(a)と反応後の光触媒(b)の超高解像度の電子顕微鏡写真を示しています。反応の前後でチタン酸ストロンチウムおよび、複合したロジウムに変化がないのに対し、従来型の熱触媒の代表であるニッケルを担持したアルミナの場合では、反応の前後で大きな変化が観察されました(c-d)。

反応後に見られるチューブ状の物質は触媒表面で析出、成長したカーボンチューブであり触媒劣化、反応器の破壊の原因となります。すなわち、光触媒では加熱による触媒劣化が抑制されたのみでなく、工業的に致命的な副反応となる炭素析出が劇的に抑制されました。

次に、反応メカニズムを明らかにするため、開発した光触媒に対して実際の触媒反応の条件下で電子スピン共鳴法注6)の解析を行ったところ、光照射によって生じた電子と正孔の電荷が反応を駆動していることが分かりました。ドライリフォーミングは二酸化炭素の還元反応を含むため、種々の光触媒の中でも高い電子の還元力を持つチタン酸ストロンチウムが好適であることが分かりました。

さらに、同位体注7)を用いた詳細な解析により、チタン酸ストロンチウム内の格子酸素のイオンが反応の媒体として作用していることを明らかにしました(図4)。これまでよく知られている光触媒反応である水の分解や二酸化炭素還元などの人工光合成反応では、反応の媒体として水素イオンが使われていましたが、本研究の光触媒反応は格子酸素イオンを媒体とする新しい反応で、さまざまな気相反応への展開が期待できます。

本研究では光触媒として紫外線応答型のチタン酸ストロンチウムを使っていますが、実用化に向けては太陽光の主成分を成す可視光の利用が重要です。一方で、本研究では酸素イオンが媒体となるエネルギー製造型反応の機構を初めて見いだし、今後この新しい反応機構をもとに、可視光を吸収できる光触媒材料に展開することも可能です。本研究成果が天然ガスやシェールガスの有効利用につながるとともに、温室効果ガス低減に貢献できると期待されます。また、低温で合成ガスを製造することができるため、既往の工業的手法と組み合わせることでガソリン製造などの施設の大幅な簡略化と効率化が望めます。

温室効果ガスを光照射で水素や化学原料に変換 ~高性能な光触媒を開発~

図1 開発した光触媒

(a)開発した光触媒の透過型電子顕微鏡観察像。

(b)同光触媒粒子の高倍率観察像。数十ナノメートル(nm)の大きさのチタン酸ストロンチウムに対し、1~2nmほどのロジウムのクラスターが高分散で複合化されている。

図2 光触媒の各温度での活性および水素と一酸化炭素の生成速度
図2 光触媒の各温度での活性および水素と一酸化炭素の生成速度

(a)触媒活性の温度依存性(濃度1パーセントのメタンと二酸化炭素の混合ガスを使用)

(b)温室効果ガスの消費速度と合成ガスの生成速度

図3 光触媒および従来型熱触媒の反応前後の電子顕微鏡像

図3 光触媒および従来型熱触媒の反応前後の電子顕微鏡像

(a)光触媒の反応前(b)光触媒の反応12時間後

(c)従来型熱触媒の反応前(d)従来型熱触媒の反応5時間後

図4 光触媒によるドライリフォーミングの反応機構

図4 光触媒によるドライリフォーミングの反応機構

(a)→(b)光照射によってチタン酸ストロンチウム(SrTiO3)に生じた電子と正孔のうち、電子がロジウム(Rh)へ注入される。

(b)→(c)ロジウムへ注入された電子と二酸化炭素分子が反応し、一酸化炭素と酸素イオンを生成する。酸素イオンはチタン酸ストロンチウムの格子に入る。

(c)→(d)チタン酸ストロンチウムにある酸素イオン、光励起した正孔、そして、メタンが反応して水素と一酸化炭素を生成する。

注1)ドライリフォーミング
メタン改質反応の1つ。反応式はCH4+CO2=2H2+2COで表される。天然ガスの主成分であると同時に主要な温室効果ガスでもあるメタンと二酸化炭素を化学原料に転換することができるため、天然ガス有効利用と地球温暖化抑止の観点から注目されている。
注2)ロジウムとチタン酸ストロンチウム
ロジウムは原子番号45の元素。元素記号はRhで表される。チタン酸ストロンチウム(SrTiO3)はストロンチウムとチタンの複合酸化物で、ペロブスカイト型の結晶構造をとる。
注3)シェールガス
粘板岩層(シェール)の隙間に貯留された、メタンやエタンを主成分とする化石燃料の1つ。存在自体は古くから知られていたが、この10年、技術の進歩により、特に北米を中心として、商業ベースでの採掘が可能になった。
注4)光触媒
光を吸収し触媒作用を示す物質の総称。酸化チタンが代表的な光触媒として知られている。
注5)化学量論的
化学式通りの反応物量と生成物量を示す状態。ドライリフォーミングであれば、反応物と生成物の比が1:2になる場合に化学量論的に反応が進行したといえる。
注6)電子スピン共鳴法
不対電子を持つイオン、ラジカルなどの検出が可能な実験手法。光触媒の中の電子や正孔など、多くの情報を得ることができる。
注7)同位体
同一の原子番号で質量数が異なる物質。酸素の場合、質量数が16、17、18の同位体があり、地球上の99.8パーセントの酸素の質量数は16である。本研究では質量数18の酸素を触媒の中に導入し、質量分析装置を使ってその反応過程を追跡した。
“Photocatalytic uphill conversion of natural gas beyond the limitation of thermal reaction systems”
DOI:10.1038/s41929-019-0419-z

宮内 雅浩(ミヤウチ マサヒロ)
東京工業大学 物質理工学院 材料系 教授

中村 幹(ナカムラ ツヨシ)
科学技術振興機構 戦略研究推進部 グリーンイノベーショングループ

東京工業大学 広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

物質・材料研究機構 経営企画部門 広報室

高知工科大学 広報課

九州大学 広報室

静岡大学 総務部 広報室

科学技術振興機構 広報課

有機化学・薬学
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