ウニの殻に癭を作るエボシガイの生態と進化史を解明

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2020-03-03   京都大学

山守瑠奈 人間・環境学研究科博士課程学生、加藤真 同教授は、有毒ウニの殻に癭(えい:寄生者が宿主の組織を異常に発達させて形作る、こぶ状の構造)を作るエボシガイの仲間、ガンガゼタマエボシ(和名・新称)を採集し、その生態や進化史を明らかにしました。

エボシガイは、ダーウィンが研究に没頭したフジツボの仲間の節足動物で、固着生活をしながら、長い羽状の脚(蔓脚)でプランクトンを漉し取って食べる生活をしています。ガンガゼタマエボシは、有毒ウニの一種である沖縄のガンガゼ上で発見し、記録されて以来30年間、見つかっていませんでした。

今回、本研究グループは、このガンガゼタマエボシをガンガゼの近縁種であるガンガゼモドキ上で再発見しました。その生態を調べた結果、ガンガゼタマエボシはウニの殻を肥大化させて癭を作りますが、ウニに寄生するのではなく、萎縮した脚で周囲の粒状有機物を食べる生活をしていることがわかりました。また系統解析の結果、ガンガゼタマエボシはカニに付着するエボシガイ類を起源とすることが明らかになりました。これは、このエボシガイ類がカニからウニへと寄主転換することによって、形態と食性を大きく変化させたことを示しています。

本研究成果は、2020年2月27日、国際学術誌「iScience」のオンライン版に掲載されました。

図:ガンガゼタマエボシの宿主転換の模式図

書誌情報

【DOI】 https://doi.org/10.1016/j.isci.2020.100885

【KURENAIアクセスURL】 http://hdl.handle.net/2433/245878

Luna Yamamori, Makoto Kato (2020). Shift of Feeding Mode in an Epizoic Stalked Barnacle Inducing Gall Formation of Host Sea Urchin. iScience, 100885.

詳しい研究内容について

ウニの殻に癭(えい)を作るエボシガイの生態と進化史を解明

概要
京都大学大学院人間・環境学研究科山守瑠奈 博士課程学生と加藤真 同教授は、有毒ウニの殻に癭(えい)1)を作るエボシガイの仲間、ガンガゼタマエボシ(和名・新称)を採集し、その生態や進化史を明らかにしました。
エボシガイは、ダーウィンが研究に没頭したフジツボの仲間の節足動物で、固着生活をしながら、長い羽状の脚(蔓脚)でプランクトンを漉し取って食べる生活をしています。ガンガゼタマエボシは、有毒ウニの一種である沖縄のガンガゼ上で発見・記載されて以来 30 年間、見つかっていませんでした。今回、山守氏と加藤教授は、このガンガゼタマエボシをガンガゼの近縁種であるガンガゼモドキ上で再発見しました。その生態を調べた結果、彼らはウニの殻を肥大化させて癭を作り、しかしウニに寄生するのではなく、萎縮した脚で周囲の粒状有機物を食べる生活をしていることがわかりました。また系統解析の結果、ガンガゼタマエボシはカニに付着するエボシガイ類を起源とすることが明らかになりました。これは、このエボシガイ類が
カニからウニへと寄主転換することによって、形態と食性を大きく変化させたことを示しています(図 1)。
本成果は、2020 年 2 月 27 日、米国の国際学術雑誌「iScience」にオンライン掲載されました。

1.背景
エボシガイ類は、甲殻類をはじめ魚類、貝類、クラゲ、漂流物等様々な生物や構造物に付着して、長い羽状の蔓脚でろ過食生活をしています。しかし、中にはイソギンチャクに寄生してその触手を食べるものや、深海サメに寄生してサメの体内に張り巡らせた根っこ状の構造から養分を吸収するものもいます。ガンガゼタマエボシは、蔓脚が萎縮するという際立った特徴を持つエボシガイですが、沖縄のガンガゼ上で発見・記載されて以来 30 年間、見つかっていませんでした。
今回私たちは、ガンガゼタマエボシを沖縄のガンガゼモドキ上で再発見し、その生態や系統を調べる機会を得ました。

2.研究手法・成果
ガンガゼタマエボシは、ガンガゼモドキの下面の殻に癭( えい)を形成し、その中に数個体が寄り添うように付いていました(図 2A)。得られた標本をもとに、①CT スキャンで癭の断面構造を、②安定同位体分析で食性を、③遺伝子解析で系統関係を調べました。その結果、ガンガゼタマエボシは、①柄部の先端を錨のようにウニの殻に突き刺して、ウニの殻の肥厚を誘導していることがわかりました( 図 2B)。また、②エボシガイの体の炭素同位体と窒素同位体の比率が海中の粒状有機物のものとほぼ一致したことから、ガンガゼタマエボシはプランクトン食でも寄生でもなく、周囲の粒状有機物を食べていることがわかり、③系統的に近縁となった仲間がカニ類を宿主とするものであったことから、カニ類に付着生活をするエボシガイ類から起源したことがわかりました。
以上の 3 つの成果より、このエボシガイ類は、カニ類からウニへの寄主転換に伴って、宿主への付着方法が接着から投錨へ、食性がプランクトン食から粒状有機物食へと激変したことがわかります。タマエボシは頑丈で永続的な癭に守られつつ(カニは脱皮をするので、付着基盤としては短命)、その狭い空間の中で、相互交尾をし、成長を犠牲にしつつ繁殖を繰り返しているという驚くべき生活が浮かび上がりました。


図 2: A. ウニの棘の間で生活し、短い蔓脚を出して餌を採るガンガゼタマエボシ B. 柄部の先端をウニの殻の肥大部に突き刺しているガンガゼタマエボシ

3.波及効果、今後の予定
エボシガイ類には、サメに寄生するネエボシのように、寄主の体内に根を広げて、口からではなく根から養分を取るようになったものが知られています。ガンガゼタマエボシが粒状有機物を食べることを明らかにした本研究は、エボシガイ類の食性の進化・多様化過程の理解に新しい視点を与えました。また、ウニは脊椎動物と同じ新口動物に属しており、タマエボシがウニの癭形成を誘導する機構の解明は、脊椎動物の組織の癌化機構の解明につながる可能性があると考えられます。

4.研究プロジェクトについて
本研究は科研費( 15H02420、加藤)および日本学術振興会研究助成金( 18J22890、山守)の支援を受けて行われました。

<用語解説>
1)癭((えい):寄生者が宿主の組織を異常に発達させて形作る、こぶ状の構造。寄生者は癭をシェルターのように利用して暮らします。海洋で見られる癭は数少ないですが、陸上では多くの昆虫や菌類等が植物の葉に癭を作ることが知られています。

<研究者のコメント>
本研究では、ウニの殻の上に癭を作って暮らすエボシガイの生態や系統を明らかにしました。癭を作るエボシガイは、世界でただこの種類だけ。彼らのを探そうと沖縄本島の海岸線を一周しましたが、見つかったのは北部のただ一箇所の海岸のみでした。埋め立てによって次々と海岸が失われていく中、まだ生き残っていてくれた彼らに感謝すると共に、豊かな海岸が守られていくことを願ってやみません。

<論文タイトルと著者>
タイトル:Shift of feeding mode in an epizoic stalked barnacle inducing gall formation of host sea urchin
(ウニの殻上にえいを形成する体表共生性エボシガイの食性の変化)
著 者:山守瑠奈・加藤真
掲 載 誌:iScience  DOI:10.1016/j.isci.2020.100885

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