筋萎縮性側索硬化症患者に対する呼吸療法として強制的な吸気量を測定 新しい肺容量リクルートメント…

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筋萎縮性側索硬化症患者に対する呼吸療法として強制的な吸気量(Lung Insufflation Capacity)を測定する 新しい肺容量リクルートメント(Lung Volume Recruitment: LVR)機器についての報告

2020-05-27 国立精神・神経医療研究センター

国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター(NCNP)、病院(身体リハビリテーション部長:水野勝広、神経内科部長:高橋祐二、理学療法主任:寄本恵輔)は、2016年に当センタートランスレーション・メディカルセンターの協力により当院で開発・提供したLIC TRAINER(エルアイシートレーナー)を臨床で使用し、筋萎縮性側索硬化症患者に対する呼吸療法として強制的な深呼吸(Lung Insufflation Capacity)を測定する新しい肺容量リクルートメント(Lung Volume Recruitment: LVR)機器について原著論文を発表しました。

LIC TRAINERは、従来、研究機関で使用されていたLIC機器をNCNPが幅広く臨床での利用ができるよう独自に改良し、1)加圧時にリークしないよう高密閉性を付加したこと、2)高圧がかかった圧を解除する安全弁を装備し、安全性を確保したこと、3)ALS患者さんが自分で自発呼気弁をリークすることを可能にしたこと、などの新たな機能を付加し、更に使いやすくスタイリッシュなデザイン設計を施したものです(特許出願、商標登録済)。

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(開発時の詳しい情報)(詳細情報→<別紙1>
製造は、試作段階から当センターと共同開発を行い、LIC TRAINER関連技術の共同出願を行っているカーターテクノロジーズが行っており、販売は星医療酸器が行なっています。

本研究は、NCNPとして行われたもので、研究成果は、2020年5月26日(火)にProgress in Rehabilitation Medicineオンライン版に掲載されました。

■研究の背景
筋萎縮性側索硬化症(Amyotrophic lateral sclerosis:以下 ALS) 1)は、原因不明かつ根治困難な疾患であり、呼吸障害が生命予後を規定する因子となります。ALSの呼吸障害は拘束性換気障害を呈することで肺・胸郭の柔軟性が低下し、低換気に伴い高二酸化炭素血症となるため人工呼吸療法での対応が必要です。しかしながら、球麻痺症状2)が加わると気道クリアランスが悪化し、人工呼吸療法が継続できない要因になります。また、これまで気管切開をしてしまうと肺・胸郭の柔軟性評価は行うことが困難でありました。我々はこの課題を克服するため、LIC TRAINER®(LT) を臨床で使用しています。LTは球麻痺症状の進行や気管切開をしていても肺容量リクルートメント(Lung Volume Recruitment: LVR)手技としてLung insufflation capacity(LIC)の測定が可能であり、安全弁を内蔵している呼吸理学療法機器であります。

■研究の内容
この研究の目的は、ALS患者さんに対しLIC TRAINER(LT)を使用して、Lung insufflation capacity(LIC)の測定の有用性を検証することです。対象は、2014年4月から2017年12月に呼吸理学療法を受けたALS患者さん20名が参加しました。肺活量(VC)、最大強制吸気量maximum insufflation capacity: MIC)3)、および呼吸療法の開始時のLIC測定値を抽出し、患者さんを3つのグループに分け、グループAはVCの測定できない群、グループBはVCの測定はできましたが有効なMICが測定できなかった群、グループCはMICが有効に測定できた群としました。LICはすべてのグループで測定できました。グループCにおいて、MICとLICの値の有意差を分析しました。結果ですが、LICは、グループA(n1名)、B(10名)、C( 9名)で、それぞれVCは950ml、1863±595ml、および2980±1176 mlでした。グループAおよびBでは、VCまたはMICを測定できなかった場合でも、すべての患者でLICを測定できました。グループCでは、測定されたLIC値はMICよりも有意に大きかったです。結論として、LICはLTを使用して正常に測定できました。 LTを使用することで、LIC測定を簡単に実行できるようになり、ALS患者さんで呼吸療法を実行するための有用なデバイスである可能性が示唆されました。

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■研究の意義・今後の展望
本研究の意義として、これまでALS患者さんの呼吸障害を捉えることが困難であった進行した球麻痺や気管切開している患者さんであってもLIC TRAINERを利用することで肺や胸郭の柔軟性を評価することができるようになったことです。また、ALS患者さんはMICよりLICを測定することの方が肺や胸郭の柔軟性を維持拡大することの効果が大きいことも示唆しています。
現在、LICやMICが上手にできるALS患者さんとそうでない患者さんに分け、追跡調査を実施しています。また、LIC TRAINER®を使用した肺容量リクルートメント(Lung Volume Recruitment: LVR)練習により、肺合併症や生命予後などの改善にどの程度寄与しているかという研究をしております。
今後の展望として、臨床利用を拡大するための啓発活動や患者さんにより優しく、有効性を確認できるLIC TRAINER®の開発を行っていきたいと考えています。

■用語解説
1) 筋萎縮性側索硬化症(ALS)
ALSとは、中年以降に発症し、上位運動神経と下位運動神経が選択的にかつ進行性に変性・消失し、数年で死に至る主に孤発性(非遺伝性)の神経変性疾患(古典的ALS)として捉えられてきました。しかしながら、家族性ALSの原因遺伝子が相次いで同定され、孤発例にも遺伝子変異が見られることが分かっています。
ALSの臨床症状は、筋萎縮と筋力低下が主体であり、進行すると上肢の機能障害、歩行障害、構音障害、嚥下障害、呼吸障害などが生じます。病状の進行は早く自然経過では数年の経過で呼吸不全に陥る場合が多いです。しかし、人工呼吸療法等を含めたALS療養のケアが発展し、長期生存例もおり、地域社会の支援を獲得することで療養生活が構築されています。
引用文献:筋萎縮性側索硬化症診療ガイドライン2013
http://www.neurology-jp.org/guidelinem/pdf/als2013_01.pdf
2) 球麻痺
ALSの初期症状や進行期に、球麻痺(bulbar palsy)として、発声,発語,嚥下,咀嚼,表情の障害を起こします。これは上位運動神経障害により起こり、臨床症状として、流涎、嚥下困難、コミュニケーション等に支障をきたします。
3) 最大強制吸気量maximum insufflation capacity: MIC)
MICとは、呼気を測定しますが、最大に耐えうる患者さんが息溜めを保持することができる外側からの強制的な補助吸気量をいいます。そのMICの下限は、肺活量に応じた残気量であり、 吸気補助におけるMICの上限は、舌咽頭呼吸、1方向弁あり/なしの蘇生バック、従量式の NIVであり、このMICテクニックは一般的には圧制限をかけない方法で行います。

■原著論文情報
・論文名: Lung Insufflation Capacity with a New Device in Amyotrophic Lateral Sclerosis: Measurement of the Lung Volume Recruitment in Respiratory Therapy
・著者名: Keisuke Yorimoto, Yosuke Ariake, Takako Saotome, Madoka Mori-Yoshimura, Tadashi Tsukamoto, Yuji Takahashi, Yoko Kobayashi
・掲載誌: Progress in Rehabilitation Medicine ,2020
・DOI :https://doi.org/10.2490/prm.20200011
・URL :https://www.jstage.jst.go.jp/article/prm/5/0/5_20200011/_pdf/-char/en

■助成金
本成果は、以下の研究助成金によって得られました。
2018年4月 – 2019年3月国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター理事長研究推進経費(研究代表者:寄本恵輔)

■お問い合わせ先

【研究・開発に関するお問い合わせ】
国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター 病院
身体リハビリテーション科 理学療法主任
寄本恵輔(よりもと けいすけ)

【製造に関するお問い合わせ】
カーターテクノロジーズ株式会社
関根 敦(せきね あつし)

【販売に関するお問い合わせ】
株式会社 星医療酸器 営業本部
呼吸器領域リレーション推進プロジェクト
営業企画室・学術知財管理課
担当:加藤 正行(かとう ゆきまさ)

【報道に関するお問い合わせ】
国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター(NCNP)
総務課広報係

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