先天性無歯症に対する分子標的薬の開発~USAG-1を標的分子とした歯再生治療~

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2021-02-15 京都大学,福井大学,日本医療研究開発機構

概要

これまで先天性無歯症1)には成人以降に義歯や歯科インプラントによる人工歯を用いた代替治療が施行されてきました。根治的な治療として歯の再生治療の開発が望まれていましたが、細胞リソース、コストや安全性などの問題で、臨床応用まで至っていませんでした。

今回京都大学大学院医学研究科高橋克准教授(研究当時、現:公益財団法人田附興風会医学研究所北野病院歯科口腔外科主任部長)、杉並亜希子同研究員(研究当時、現:トレジェムバイファーマ社研究員)、福井大学学術研究院医学系部門菅井学教授、愛知県医療療育総合センター発達障害研究所時田義人主任研究員、大阪大学蛋白質研究所高木淳一教授らの研究グループは、先天性無歯症モデルEDA遺伝子欠損マウスに、BMPシグナルを活性化するマウス抗USAG-12)中和抗体を単回投与することにより、歯の形成が回復することを見出しました。さらに、野生型マウスに投与することで、完全な形の新しい歯を再生することにも成功しました。今後、先天性無歯症治療薬として、臨床応用に向けた開発を行う予定です。

本研究成果は、2021年2月13日(日本時間)に国際学術誌「Science Advances」に掲載されます。

背景

無歯症には先天性の症例が存在し、通常6本以上の歯の欠損を認める症例が遺伝性とされ、その発症頻度は全人口の0.1%と報告されています。原因遺伝子として、EDA、MSX1、WNT10A、RUNX2などが同定され、その多くがマウスとヒトで共通です。症候群性先天性無歯症である無汗性外胚葉異形成症(Ectodermal Dysplasia Anhydrotic:EDA)は、10万出生あたり15.8人と希少疾患に該当します。先天性無歯症患者は、顎骨の発達期である幼少期より無歯症となるため、成長期にオーラルフレイル3)の状態となり、栄養確保や成長に悪影響を及ぼします。現在、成人以降に義歯や歯科インプラントによる人工歯を用いた代替治療を施行するしかなく、根治的な治療として歯の再生治療の開発が強く望まれていました。これまで組織工学的な手法による歯の再生研究が数多く試みられてきましたが、細胞リソース、コストや安全性などの問題で、臨床応用まで至っていません。その一方、がん、関節リウマチ等多様な疾患において数多くの分子標的薬が開発されています。

そこで細胞を用いない臨床展開が可能な歯を再生する「歯再生治療薬」として、USAG-1蛋白(BMP(骨形成蛋白)/Wntのアンタゴニスト)をターゲットとした分子標的薬(USAG-1蛋白の機能を抑制する中和抗体)の開発を試みました(図1)。


図1 USAG-1中和抗体

研究手法・成果

今回、各種先天性無歯症モデルマウス(EDA、Msx1遺伝子欠損マウス)と過剰歯モデルマウスのUSAG-1遺伝子欠損マウス4)の交配により、先天性無歯症の欠損歯の形成が回復することを確認しました。活性のあるUSAG-1組み換え蛋白を作製し、USAG-1を標的分子とする性質の異なる5個の中和抗体を獲得することができました。BMP、WNTシグナルをそれぞれ活性化または両者を同時に活性化する3種類の中和抗体が存在しました(図1)。マウス抗USAG-1抗体は、先天性無歯症モデルEDA遺伝子欠損マウスにおいて、単回腹腔内投与することにより、無歯症が回復することを見出しました(図2)。さらに、そのうちの1個は野生型マウスに投与することで、完全な形の新しい歯を再生することにも成功しました。マウスは永久歯のみの1生歯性5)であるばかりでなく、歯の本数も切歯1本大臼歯3本と歯の退化傾向が顕著です。今後の臨床展開を目指すためには、マウス以外のヒトの歯式6)に近いモデル動物での検討が必須です。イタチ科に属する肉食性の哺乳小動物のフェレットは、2生歯性5)で歯式もほぼヒトに類似しています。フェレットに生後、マウス抗USAG-1中和抗体を腹腔内投与することで、上顎前歯部に永久歯の次の世代の歯である第3生歯を誘導することも確認することができました。マウス、フェレットに投与することによって、in vivoで歯を再生することのできたマウス抗USAG-1抗体はいずれもBMPシグナルを活性化する中和抗体でした。

波及効果、今後の予定

超高齢化社会の健康寿命延伸に向けた先制医療への取り組みが、日本の健康・医療戦略の重要な施策となっており、オーラルフレイルを改善するための「食」が取り上げられ、歯の重要性が再認識されてきています。歯は、ヒトでは大臼歯が1生歯性である以外は2生歯性で、歯数は厳密に制御されています。本邦における歯の欠損を有する患者は、高齢者を中心に3000万人以上と報告されています。そこで、最初の対象疾患を先天性無歯症として、原因遺伝子の変異をバイオマーカーとし、分子標的薬としてUSAG-1の中和抗体(抗体製剤)を投与し、歯を萌出させる治療法を想定しています(図2)。さらには、永久歯の後継歯(第3生歯)を形成させることにより一般の歯を再生するという歯科治療における“ゲームチェンジング”な貢献が期待される治療法の確立を目指します。


図2 先天性無歯症に対する分子標的治療

研究プロジェクトについて

本研究は、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)の創薬支援推進事業、難治性疾患実用化研究事業、創薬等ライフサイエンス研究支援基盤事業(BINDS)、京都大学のGAPファンドプログラム、インキュベーションプログラム、日本学術振興会(JSPS)の科学研究費補助金事業など、多くの支援を受けています。

本研究は、以下の施設の共同研究で行われました。

京都大学大学院医学研究科感覚運動系外科学講座口腔外科学
准教授 高橋克(研究当時、現:公益財団法人田附興風会医学研究所北野病院歯科口腔外科主任部長)
教授 別所和久
研究員 杉並(旧姓村島)亜希子(研究当時、現:トレジェムバイオファーマ株式会社研究員)
研究員 喜早ほのか(研究当時、現:トレジェムバイオファーマ株式会社代表取締役社長)
福井大学学術研究院医学系部門分子遺伝学
教授 菅井学
准教授 南部由希子
愛知県医療療育総合センター発達障害研究所周生期学部
主任研究員 時田義人
大阪大学蛋白質研究所蛋白質化学研究分野分子創製学
教授 高木淳一
研究員 三原恵美子
京都大学ウイルス・再生医学研究所再生組織構築研究部門生体材料学
教授  田畑泰彦
京都大学大学院医学研究科医学統計生物情報学
講師 魚住龍史
用語解説
1)先天性無歯症
乳歯もしくは永久歯が先天的に欠如している状態で、一部の歯が欠如している部分的無歯症と、すべて欠如している全部性無歯症がある。
2)USAG-1
Uterine sensitization associated gene-1の略語で、別名Sclerostin domain containing 1(SOSTDC1)、ectodin、Wnt modulator in surface ectoderm(WISE)とも呼ばれている。
3)オーラルフレイル
噛んだり、飲み込んだり、話したりするための口腔機能が衰えることを指す。
4)USAG-1遺伝子欠損マウス
通常は退化消失してしまう歯の芽を賦活化することにより、歯を増やすことができることが明らかとなったマウス。
5)生歯性
1生歯性とは、一生の間に1本しか歯が生えないが、2生歯性では乳歯と永久歯と二世代あって歯が生え変わること。これに対しワニなど爬虫類の多くは、多生歯性(一生の間に何度も歯が生え変わる)特徴がある。
6)歯式
歯の生えるパターンで、ヒトでは、切歯2本、犬歯1本、小臼歯2本、大臼歯3本。大臼歯以外は乳歯から永久歯へと歯が生え変わる。
論文タイトルと著者
タイトル
Anti-USAG-1 therapy for tooth regeneration through enhanced BMP signaling(BMPシグナルを介した抗USAG-1療法による歯の再生)
著者
A. Murashima-Suginami, H. Kiso, Y. Tokita(責任著者), E. Mihara, Y. Nambu, R. Uozumi, Y. Tabata, K. Bessho, J. Takagi, M. Sugai(責任著者), K. Takahashi(責任著者)
掲載誌
Science Advances
お問い合わせ先

研究に関すること
高橋克(たかはしかつ)
京都大学大学院医学研究科口腔外科・准教授(研究当時、現:公益財団法人田附興風会医学研究所北野病院歯科口腔外科主任部長)

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