2023-08-31 京都大学
進行した腎不全患者では、腎臓からの老廃物や余剰な水分の排泄が滞ることで様々な症状が引き起こされます。その治療として自らの腎臓の機能を補う腎代替療法が必要となり、その治療法の一つである腹膜透析は拘束時間が短いことや緩徐な除水が行われることから患者さんのQuality of Lifeに優れているとされています。しかし、腹膜透析には長期の施行により腹膜機能が劣化し、他の腎代替療法が必要になるという弱点がありました。
横井秀基 医学研究科講師、柳田素子 同教授、石村拓也 同研究生らの研究グループはMMP-10(マトリックスメタロプロテアーゼ10)という物質に着目し、MMP-10遺伝子が欠損しているマウスにおいて、腹膜の肥厚や線維化が軽減していることを明らかにしました。MMP-10は悪性腫瘍や傷の修復に関与していることが知られていましたが、本研究は初めて腹膜障害におけるMMP-10の役割を明らかにしました。また、MMP-10は転写因子NF-κBを介して腹膜の炎症を引き起こすことも明らかにしました。さらに、腹膜透析を受けている患者さんの血中MMP-10濃度が腹膜障害の程度と相関していることも明らかにし、今後長期的な腹膜透析の継続に向けて重要な治療ターゲットになることが期待されます。
本研究成果は、2023年8月29日に、国際学術誌「Kidney International」にオンライン掲載されました。
傷害された腹膜では中皮下の線維化や炎症細胞・微小血管の増加、中皮細胞の脱落が見られ、老廃物とグルコースの透過性亢進が引き起こされる結果腹膜透析液中への水分排泄が抑制される。MMP-10を欠損したマウスではそれらの変化が抑制されていた。
研究者のコメント
「MMPはもともと細胞外基質を分解する働きが主に注目されていましたが、近年ではその他にも転写因子の調整やサイトカインの活性化など複数の働きがあることがわかっています。MMP-10は病態や臓器によって働きが異なり、病態に良い作用も悪い作用も報告されています。今回腹膜におけるMMP-10の役割について示すことができましたが、さらに詳細な分子学的機序を解明するために研究を進めていきたいと考えています。」
詳しい研究内容について
腹膜の炎症・線維化におけるMMP-10の役割を解明―腹膜透析の長期施行にむけた新たな治療ターゲットに―
研究者情報
研究者名:横井 秀基
研究者名:柳田 素子
書誌情報
【DOI】
https://doi.org/10.1016/j.kint.2023.08.010
【書誌情報】
Takuya Ishimura, Akira Ishii, Hiroyuki Yamada, Keisuke Osaki, Naohiro Toda, Keita P. Mori, Shoko Ohno, Yukiko Kato, Takaya Handa, Sayaka Sugioka, Akie Ikushima, Haruomi Nishio, Motoko Yanagita, Hideki Yokoi (2023). Matrix metalloproteinase-10 deficiency has protective effects against peritoneal inflammation and fibrosis via transcription factor NFκΒ pathway inhibition. Kidney International.
