抗がん剤の有効性と小児血液遺伝病の病態理解へ
2020-08-07 京都大学
岡本祐介 生命科学研究科研究員、高田穣 同教授らの研究グループは、造血幹細胞にSLFN11タンパク質が高いレベルで存在することに気づき、SLFN11とDNA損傷感受性の関係を解析しました。
最近、がん細胞がSLFN11タンパク質を保持していれば、抗がん化学療法によるDNA損傷後細胞死となり、持っていなければ生き残って治療抵抗性であることがわかり、がん治療法の選択上重要であるとして注目を集めています。一方、小児の遺伝病で白血病などの原因となる「ファンコニ貧血」の細胞は、DNA損傷に非常に弱く、その造血幹細胞は体内で自然発生するDNA損傷によって細胞死に陥ります。
本研究において、ヒト細胞をゲノム編集し、SLFN11を持たないファンコニ貧血細胞を作り出したところ、細胞の生存率が上昇しました。さらに、DNA損傷後のゲノムの状態を一分子レベルで観察したところ、この細胞ではゲノム分解が起こらないことがわかりました。つまり、SLFN11はDNA損傷部位でゲノム分解を促進し、DNA損傷を悪化させていることがわかりました。本研究は、SLFN11タンパク質の「がん」と「ファンコニ貧血」への臨床応用を考える上で重要な発見です。今後はSLFN11が制御する因子との関連について研究を進める予定です。
本研究成果は、2020年8月1日に、国際学術誌「Blood」のオンライン版に掲載されました。
図:本研究の概要図