2018-06-07 岡山大学,琉球大学,東京大学,ブルネイ大学,ドイツ・ミュンスター大学,産業技術総合研究所
発表のポイント
- 生まれたての稚サンゴを使って、共生藻を持つサンゴと持たないサンゴの飼育実験に成功。
- サンゴ礁を形成するサンゴ(造礁サンゴ)は体内の共生藻が光合成をすることで、サンゴ体内のpH環境が変わり、骨格成長が促進されることが判明しました。
- 生物多様性の高いサンゴ礁が形成され、成長するには、サンゴと共生藻の健全な共生関係が重要であることが示唆されました。
岡山大学の井上麻夕里准教授、琉球大学の中村崇准教授、酒井一彦教授、東京大学の川幡穂高教授、横山祐典教授、ブルネイ大学の田中泰章助教、産業技術総合研究所地質情報研究部門の鈴木淳研究グループ長、ドイツ・ミュンスター大学のニコラス・グッソーネ博士の研究グループは、幼生が定着、変態した直後の稚サンゴを用いて、共生藻を持つサンゴと持たないサンゴを作成し、海水温などを変化させた水槽で飼育することに成功しました。本研究成果は6月6日、アメリカ地球化学会の学術誌「Geochimica et Cosmochimica Acta」に掲載されました。
共生サンゴは非共生サンゴに比べ、炭酸カルシウムからなる骨格の成長量が大きいことが分かっていますが、今回井上准教授らのグループは、実験期間中に成長したサンゴ骨格の化学分析を行うことで、この違いがサンゴ体内のpH上昇に起因していることを発見しました。共生藻がサンゴ礁の成長に重要であることは昔から報告されていましたが、具体的な役割についてはよく分かっていませんでした。今回の成果はこの謎の解明に大きく寄与し、サンゴが共生藻のほとんどを失ってしまう「サンゴの白化」が、いかにサンゴ礁の成長を阻害するものであるかが示されました。
発表内容
<現状>
高い生物多様性を誇り、観光や漁業資源、さらには天然の防波堤として人々の暮らしを支えているサンゴ礁の礎は、生き物である造礁サンゴの骨格成長により築かれています。サンゴの骨格は炭酸カルシウムからできていますが、この骨格形成と成長メカニズムには不明な点が多いのが現状です。これまでに共生藻の行う光合成によるエネルギー供給がサンゴの成長にとって重要であることが報告されていますが、エネルギー供給以外の具体的な役割については、いまだ明らかにされていませんでした。
図1.共生/非共生サンゴの温度制御飼育実験の結果。27-29˚Cの通常の温度であれば共生サンゴ(写真左)の方が骨格成長量が高く、温度が31˚C以上の高温になると、白化(写真右)により骨格成長が低下した。どの温度区でも共生/非共生サンゴの間にpHの代替指標であるU/Ca比に有意差が見られた。
<研究成果の内容>
井上准教授らの研究グループは、共生藻がサンゴの骨格成長に果たす役割を特定するために、幼生が定着、変態した直後の稚サンゴ(初期ポリプ)を用いて、共生藻を持つポリプと持たないポリプを作成し、これらを温度や塩分、海水中の二酸化炭素濃度をコントロールした水槽で飼育しました。その結果、従来の報告通り、共生サンゴの方が非共生サンゴに比べ、骨格の成長量が大きくなることを先行研究にて示しました(Inoue et al., 2012)。そして、今回この骨格の一部についてpHの代替指標とされているウラン・カルシウム比(U/Ca)など6項目の化学分析を行ったところ、全ての実験を通してU/Ca比だけに、共生サンゴと非共生サンゴとの間に有意な差が見られました。このことから、共生サンゴでは、共生藻が光合成を行う際にサンゴ体内の二酸化炭素を消費し、体内のpHが上昇することで、より石灰化しやすい環境となっていることが明らかになりました。
<社会的な意義>
造礁サンゴはサンゴ礁を形成しているだけでなく、その骨格には過去の海水温なども記録されており、昔の気候を知ることができる地質学的試料としても価値があります。しかしながら、そもそもどのようにして成長しているのか、という基本的なことはよく分かっておらず、さまざまな分析を行って得られた今回の結果は画期的なものであると言えます。
また、将来的には本研究成果が白化が進むサンゴ礁の保護にも繋がるものと考えています。
論文情報
論文名:A simple role of coral-algal symbiosis in coral calcification based on multiple geochemical tracers
邦題名:様々な地球化学的分析に基づくサンゴの石灰化に果たす共生藻の役割
掲載紙:Geochimica et Cosmochimica Acta
著者:Mayuri Inoue, Takashi Nakamura, Yasuaki Tanaka, Atsushi Suzuki, Yusuke Yokoyama, Hodaka Kawahata, Kazuhiko Sakai, Nikolaus Gussone
DOI:10.1016/j.gca.2018.05.016
URL:https://doi.org/10.1016/j.gca.2018.05.016
研究資金
本研究は、一般財団法人キヤノン財団、環境省地球環境研究総合推進費(RF-1009)、独立行政法人日本学術振興会(JSPS)「科学研究費助成事業」(若手A・15H05329,研究代表:井上麻夕里)の支援を受けて実施しました。
先行研究
M. Inoue, K. Shinmen, H. Kawahata, T. Nakamura, Y. Tanaka, A. Kato, C. Shinzato, A. Iguchi, H. Kan, A. Suzuki, and K. Sakai. Estimate of calcification responses to thermal and freshening stresses based on culture experiments with symbiotic and aposymbiotic primary polyps of a coral, Acropora digitifera. Global Planet. Change, 92-93, 1-7 (2012).