90歳以上の脳梗塞患者に対する血管内治療の治療効果

2021-03-02

国内多施設共同研究「RESCUE-Japan Registry 2」のサブ解析

国内多施設共同研究「RESCUE-Japan Registry 2」のサブ解析

2021-03-02 国立循環器病研究センター,日本医療研究開発機構

国立循環器病研究センター（大阪府吹田市、理事長：小川久雄、略称：国循）の藤田恭平元脳血管内科医師（現東京医科歯科大学）、田中寛大脳卒中集中治療科医師、豊田一則副院長らを含めた国内多施設共同の研究チーム（RESCUE-Japan Registry 2；主任研究者：吉村紳一［兵庫医科大学脳神経外科］、坂井信幸［神戸市立医療センター中央市民病院脳神経外科］）は、大規模登録研究のデータベースをもとに、90歳以上の高齢者における急性期脳梗塞に対する血管内治療が、内科治療のみと比較して脳梗塞後の障害を軽減させる可能性を示しました。本研究成果は、Stroke誌に令和3年3月1日付でonline掲載されました。

背景

脳梗塞は脳に栄養を送る血管が閉塞する（詰まる）ことで麻痺や言語障害などの神経症状が現れる病気です。特に脳の太い血管（脳主幹動脈）が急に閉塞すると重症の脳梗塞を起こします。カテーテルと呼ばれる細い管を用いた治療（血管内治療）は、脳主幹動脈の閉塞による脳梗塞の障害を軽減させる上でとても有効な治療法です。この血管内治療は、80歳以上の高齢者においても有効かつ安全であることが過去に報告されていましたが、より高齢である90歳以上の脳梗塞患者で、血管内治療が有効かつ安全に実施可能かどうかは、検証されていませんでした。

研究手法と成果

わが国における脳主幹動脈急性閉塞症の治療実態とその成績を明らかにすることを目的とする多施設前向き研究であるRESCUE-Japan Registry 2に登録された患者のうち、90歳以上で内頸動脈あるいは中大脳動脈水平部が閉塞している患者150名を対象としました。対象患者を血管内治療実施群（49名）と、内科治療（薬物療法）のみを実施した群（101名）の2群に分類し、両群における脳梗塞発症3か月後の転帰（障害の程度）や、症候性頭蓋内出血（神経症状の悪化を伴う頭蓋内の出血合併症）の割合を比較しました。主要評価項目である、“3か月後に身の周りの事が自力で出来る、もしくは脳梗塞発症前と同程度の機能レベルまで回復する患者の割合”は、血管内治療実施群（28.6％）の方が、内科治療のみを実施した群（6.9％）よりも有意に多い結果でした。両群間の患者背景（年齢・併存疾患・脳梗塞の大きさ・重症度など）を統計学的に調整した解析でも、血管内治療実施群は内科治療群と比較して、転帰良好に関連していました。懸念される症候性頭蓋内出血の合併は、血管内治療実施群（0％）と内科治療群（3.9％）で有意な差がありませんでした。

今後の展望と課題

今後、患者背景を合わせた前向きの臨床研究による検証は必要ですが、90歳以上であっても治療適応を十分に検討すれば、脳主幹動脈閉塞による急性期脳梗塞に対する血管内治療は、内科治療のみと比べて良好な転帰に繋がる治療になり得ると期待されます。90歳以上という年齢のみで、血管内治療の適応から除外すべきではないと考えられます。また、90歳以上の高齢者の脳主幹動脈閉塞は、日常診療でもしばしば経験します。本研究結果は、血管内治療の実施を検討する際に参考となる報告です。世界有数の超高齢社会である本邦より発信された貴重な研究成果と言えます。

本研究は観察研究であり、結果の解釈の際にはバイアス（両群間の患者背景の偏りや治療方針を決定する際の各医師の恣意的な要素）への注意が必要です。

発表論文情報

著者: Kyohei Fujita, Kanta Tanaka, Hiroshi Yamagami, et al
題名: Outcomes of large vessel occlusion stroke in patients aged 90 years or older
掲載誌: Stroke（米国心臓協会・米国脳卒中協会機関誌）

謝辞

本研究は、AMED（循環器疾患・糖尿病等生活習慣病対策実用化研究事業「循環器疾患の新たな治療法の開発に関する研究」）、厚労科研費、日本脳神経血管内治療学会、Medtronic社、Stryker社、Medicos Hirata社より資金的支援を受け実施されました。

参考図　治療毎の発症前及び発症3ヶ月後転帰の比較

修正ランキンスケール0は全く症候が無い、1は症候はあっても障害はなく日常の活動を行える、2は軽度の障害はあるが身の回りのことは介助なしに行える、3は中等度の障害があり何らかの介助を要するが歩行は介助なしに可能、4は中等度から重度の障害で歩行に介助を要する、5は重度の障害で寝たきり、6は死亡。0～2が自宅復帰可能。
血管内治療実施群の方が、脳梗塞後の障害が軽減する結果でした。

3か月後修正ランキンスケール（mRS）の分布