次世代多目的コホート研究(JPHC-NEXT研究)からの成果
2021-04-14 国立がん研究センター,国立成育医療研究センター,国立高度専門医療研究センター医療研究連携推進本部(JH)
発表のポイント
- 妊婦自身の出生体重と、妊娠高血圧症候群および妊娠糖尿病の発症リスクとの関連について、日本並びにアジアの女性で初めて報告した疫学研究です。
- 自身の出生体重が3000g未満の日本人女性では、妊娠高血圧症候群を発症するリスクが高いことを確認しました。
概要
国立研究開発法人国立がん研究センター(理事長:中釜斉、所在地:東京都中央区)と国立研究開発法人国立成育医療研究センター(理事長:五十嵐 隆、所在地:東京都世田谷区)の研究グループは、妊娠を経験した日本人女性約4万6千人を対象に、自身の出生体重と、妊娠期における妊娠高血圧症候群、妊娠糖尿病との関連を調査しました。その結果、自身の出生体重が3000g未満の女性では、妊娠高血圧症候群のリスクが高いことが認められました。
本研究成果は、妊婦自身の出生体重と妊娠高血圧症候群および妊娠糖尿病との関連について、日本並びにアジアの女性で初めて報告したもので、研究成果は疫学専門誌「Journal of Epidemiology」にて発表されました(2021年4月13日WEB先行公開)。
本研究は、「多目的コホートに基づくがん予防など健康の維持・増進に役立つエビデンスの構築に関する研究(次世代多目的コホート研究(JPHC-NEXT研究)」(主任研究者 津金昌一郎 国立がん研究センター 社会と健康研究センター長)の成果で、国立高度専門医療研究センター医療研究連携推進本部の支援を受け実施しました。
研究背景
これまでの研究から、出生体重が少ない女性は、その成人期において高血圧、糖尿病や心疾患などのリスクが高いことが報告されています。また、欧米の疫学研究において、出生体重が少ない女性は、妊娠時にも妊娠糖尿病などを発症するリスクも高いことが報告されていますが、日本人を対象とした研究は行われておらず、日本人での関連についてはよくわかっていませんでした。そのため、本研究では、日本人女性を対象として、出生体重と妊娠高血圧症候群および妊娠糖尿病のリスクとの関連を調べました(図1)。
図1. 低出生体重で生まれた女性は、自身が妊娠した時に妊娠高血圧症候群、妊娠糖尿病のリスクと関連があるか(注:低出生体重とは出生時の体重が2500g未満のこと)
調査方法
平成23-28年(2011-16年)に、次世代多目的コホート研究対象地域(秋田県、岩手県、茨城県、長野県、高知県、愛媛県、長崎県)にお住まいで、本研究に同意いただいた40-74歳の方々のうち、妊娠を経験した女性約4万6千人を対象に、自身の出生体重と、妊娠期における妊娠高血圧症候群、妊娠糖尿病との関連を調べました。
自身の出生体重と、妊娠時の妊娠高血圧症候群、妊娠糖尿病の有無は調査開始時のアンケートの回答から情報を得ました。そして、自己申告による自身の出生体重が3000-3999gを基準とした、その他の出生体重(1500g未満、1500-2499g、2500-2999g、4000g以上)と、妊娠高血圧症候群と、妊娠糖尿病の有無との関連を検討しました。その際、地域、出生年、教育歴、高血圧または糖尿病の家族歴、受動喫煙年数、身長、年上の兄弟の有無、初回妊娠時年齢、喫煙習慣、20歳時の体格を統計学的に調整しこれらの影響をできるだけ取り除きました。
研究結果
その結果、出生体重が3000-3999gのグループと比較して、2500-2999g、1500-2499gおよび1500g未満のグループで、妊娠高血圧症候群のリスクが統計学的に有意に高かったという関連がみられました(図2)。出生体重が4000g以上の場合においても、同様に、妊娠高血圧症候群のリスクは高くなっていましたが、統計学的に有意な関連はみられませんでした。
出生体重と妊娠糖尿病については、出生体重が3000-3999gのグループと比較して、1500-2499g のグループで妊娠糖尿病のリスクが高いという関連がみられましたが、その他のグループでは関連がみられませんでした(図3)。
図2.出生体重が3000-3999gの女性を基準とした場合の妊娠高血圧症候群との関連
図3.出生体重が3000-3999gの女性を基準とした場合の妊娠糖尿病との関連
今回の結果からみえてきたこと
本研究は、アジアの女性において、出生体重とその後の妊娠高血圧症候群および妊娠糖尿病との関連を報告した初めての研究です。
本研究の結果から、出生体重が3000g未満であった女性では、妊娠期における妊娠高血圧症候群のリスクが高かったことと関連がみられました。これまでに、欧米の先行研究では、出生体重と妊娠高血圧症候群のリスクとの関連が報告されており、本研究においても同様の関連がみられました。メカニズムは明確ではありませんが、低出生体重児は、血管の内皮機能が弱いことや、腎機能が低下しやすいことが報告されており、このことが妊娠時に妊娠高血圧症候群のリスクと関連がみられた理由の一つと考えられました。
一方で、欧米での先行研究では出生体重が多い場合に、妊娠高血圧症候群と関連があることが、報告されています。しかし、本研究では、出生体重が4000g以上(巨大児)であった女性は、妊娠高血圧症候群のリスクは高かったのですが、統計学的に有意な関連はみられませんでした。この理由には、今回の参加者には、出生体重が4000g以上と回答した女性の人数が少なかったことが考えられました。
また、これまでに出生体重が少なかった場合、成人後の糖尿病のリスクが高いことが報告されており、本研究では、成人後の糖尿病との関連と同様、出生体重が少ない(1500-2499g)グループでは、妊娠糖尿病のリスクが高いという関連がみられました。しかし、さらに出生体重が少ない(1500g未満)グループでは妊娠糖尿病との関連がみられませんでした。この理由として出生体重が1500g未満のグループの人数が少なかったことが考えられました。
本研究の限界点として、妊娠から出産までの期間が把握できていないことや出生時体重を自己申告で行っていることなどがあげられます。
次世代多目的コホート研究(JPHC-NEXT研究)について
コホート研究とは、特定の要因に曝露した集団と曝露していない集団を一定期間追跡し、疾患の罹患率や死亡率を比較することで、要因と疾患との関連を調べる観察研究です。観察研究にはいくつかの手法がありますが、コホート研究は他の観察研究よりも時間とコストがかかる一方、曝露要因(原因)と疾病の罹患や発症(結果)を時間の流れに沿って追跡することから、因果関係を明らかにする手法としてより望ましいと考えられています。
国立がん研究センターを中心に、日本人での食習慣・運動・喫煙・飲酒等とがん・心筋梗塞・脳卒中等の関係を明らかにし、生活習慣病予防と健康寿命の延伸に役立てるために2つのコホート研究を行っています。
一つは、1990年に開始された多目的コホート研究です。戦前、戦中、戦後すぐに生まれた日本各地の約14万人を対象に、20年以上にわたって生活習慣や生活環境と疾病の発症について追跡調査をしています。全国の11保健所や国立循環器病研究センター、大学、研究機関、医療機関などと共同で実施しており、日本における大規模で、かつ長期追跡を行っているコホート研究のひとつです。これまでに多数の生活習慣病における予防要因・危険要因を明らかにしています。
もう一つは、戦後の新たな生活習慣との関連についても調査するため2011年から開始した次世代多目的コホート研究になり、約11万人を対象としています。
多目的コホート研究
次世代多目的コホート研究
発表論文
雑誌名: Journal of Epidemiology
タイトル: Association between birth weight and risk of pregnancy induced hypertension and gestational diabetes in Japanese women: JPHC-NEXT study.
著者名: Kohei Ogawa, Naho Morisaki, Aurelie Piedvache, Chie Nagata, Haruhiko Sago,Kevin Y. Urayama, Kazuhiko Arima, Takayuki Nishimura, Kiyomi Sakata, Kozo Tanno, Kazumasa Yamagishi, Hiroyasu Iso, Nobufumi Yasuda, Tadahiro Kato, Isao Saito, Atsushi Goto, Taichi Shimazu, Taiki Yamaji, Motoki Iwasaki, Manami Inoue, Norie Sawada, Shoichiro Tsugane
DOI: https://doi.org/10.2188/jea.JE20200302
URL: https://www.jstage.jst.go.jp/article/jea/advpub/0/advpub_JE20200302/_article
本研究への支援
今回の研究は、電子化医療情報を活用した疾患横断的コホート研究情報基盤整備事業の一環で行われました。この事業は、国内の6つの国立高度専門医療研究センター(国立がん研究センター、国立国際医療研究センター、国立循環器病研究センター、国立精神・神経医療研究センター、国立成育医療研究センター、国立長寿医療研究センター)で、健常人を対象としたコホート研究を実施している機関と連携して、疾患横断的コホート研究基盤を形成し、健康寿命延伸に資するエビデンスの構築をめざして行われています。
国立がん研究センター研究開発費(2020-J-4)
「多目的コホート研究に基づくがん予防など健康の維持・増進に役立つエビデンスの構築に関する研究」
国立がん研究センター運営費交付金及び国立高度専門医療研究センター医療研究連携推進本部(JH)横断的研究推進費
「電子化医療情報を活用した疾患横断的コホート研究情報基盤整備事業」
国立高度専門医療研究センター医療研究連携推進本部について
国立高度専門医療研究センター医療研究連携推進本部(Japan Health Research PromotionBureau:JH)は、我が国の6つの国立高度専門医療研究センターの資源・情報を集約し、それぞれの専門性を生かしつつ有機的・機能的連携を行うことによって、世界最高水準の研究開発・医療を目指した新たなイノベーションを創出することを目的とし、2020年4月に発足した横断的組織です。
国立高度専門医療研究センター医療研究連携推進本部
報道関係からのお問い合わせ先
本研究成果に関するお問い合わせ
国立研究開発法人国立成育医療研究センター
企画戦略局 広報企画室 村上・近藤
国立研究開発法人国立がん研究センター 疫学予防研究グループ内
リサーチニュース担当:井平光
機関窓口
国立研究開発法人国立がん研究センター
企画戦略局 広報企画室