物体の意味処理に関わる皮質脳波ネットワークをはじめて検出

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2021-07-01 京都大学

池田昭夫 医学研究科特定教授、下竹昭寛 同助教、佐藤直行 公立はこだて未来大学教授、松本理器 神戸大学教授らの研究グループは、分散表現と神経回路モデルを基盤とした脳波解析手法を提案し、物体の意味処理に関わる皮質脳波ネットワークをはじめて検出しました。

物体の意味記憶にとって脳の前側頭葉底面が特に重要であることが知られています。このことは「意味の分散表現」と脳活動の対応づける近年の研究でも支持されています。実際の意味処理では、前側頭底面とそれに関連する脳部位がネットワークとして働くと考えられますが、それら脳部位間の機能的結合と分散表現の関連はこれまで調べられてきませんでした。

本研究では、本研究グループの先行研究の神経回路モデルシミュレーションを基盤として、単語分散表現と脳波の機能的結合(クロススペクトルパワー)の関連を調べる新しい解析手法を開発しました。開発した手法を用いて、絵画呼称課題における10名の皮質脳波データを解析し、物体の意味処理に関わる脳波ネットワークを調べました。

物体の意味処理のサブプロセスについて、前側頭底面を含む3種類の皮質脳波ネットワークが関連することを明らかにしました。第1に、線画提示後0.2~0.8秒の期間では、後部紡錘状回を含むハイガンマ波(90~150 Hz)ネットワークが分散表現と関連がありました。これは視覚関連の意味処理に関わるものと考えられました。次に、線画提示後0.4~1秒の期間は、前部下側頭回・後部中側頭回を含むベータ波(15~40 Hz)ネットワークが分散表現と関連しました。このベータ波はより詳細な意味表現と関連することが示されたため、特に、意味の統合的な処理に関わるものと考えられました。最後に、発声直前(0.6~0秒前)には広範囲にわたるシータ波(4~8 Hz)ネットワークが分散表現と関連しました。シータ波は音節の数と関係することが示されたため、発話準備(特に音節レベル)に関連すると考えられました。

以上の結果は、先行研究の結果と合致するもので、本研究で開発した解析手法の妥当性を示すものです。さらに、意味処理のサブプロセスと、異なる周波数帯の脳波ネットワークとが関連することはこれまで報告のない新しい知見です。

近年の機械学習の発展により、単語の分散表現だけでなく、画像や音声情報など多様な分散表現を用いられています。今回開発した解析手法は単語分散表現以外の他の分散表現にも応用することができます。この応用の広がりによって、多数の脳領域が連動して働く仕組みを明らかにする手がかりが得られると期待されます。
本研究成果は、2021年5月4日に、国際学術誌「Cerebral Cortex」のオンライン版に掲載されました。

本研究の概要図
図:本研究の概要図

詳しい研究内容≫

研究者情報
研究者名:池田昭夫
研究者名:下竹昭寛

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