発症前から身体機能に障害を有する脳梗塞患者に対する血管内治療の治療効果

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国内多施設共同研究「RESCUE-Japan Registry 2」のサブ解析

2021-07-26 国立循環器病研究センター,日本医療研究開発機構

国立循環器病研究センター(大阪府吹田市、理事長:大津欣也、略称:国循)の田中寛大脳卒中集中治療科医師、吉本武史脳神経内科医師、豊田一則副院長らを含めた国内多施設共同の研究チーム(RESCUE-Japan Registry 2; 主任研究者: 吉村紳一[兵庫医科大学脳神経外科]、坂井信幸[神戸市立医療センター中央市民病院脳神経外科])は、大規模登録研究のデータベースをもとに、発症前から身体機能に障害を有する脳梗塞患者に対する血管内治療が、内科治療のみと比較して脳梗塞後の障害を軽減させる可能性を示しました。本研究成果は、Journal of the American Heart Association誌に令和3年7月22日付でonline掲載されました。

背景

脳梗塞は脳に栄養を送る血管が閉塞する(詰まる)ことで麻痺や言語障害などの神経症状が現れる病気です。特に脳の太い血管(脳主幹動脈※1)が急に閉塞すると重症の脳梗塞を起こします。カテーテルと呼ばれる細い管を用いた治療(血管内治療)は、脳主幹動脈の閉塞による脳梗塞の障害を軽減する上でとても有効な治療法です。この血管内治療は、脳梗塞の発症前から身体機能に障害がある場合であっても、有効かつ安全に実施できる可能性が過去に報告されていましたが、血管内治療を実施しない場合(内科治療のみの場合)と比べた検証はいまだ実施されていませんでした。そのため今回、脳梗塞の発症前から身体機能に障害があった患者を対象として、血管内治療を受けた場合と受けなかった場合(内科治療のみの場合)の治療成績を比較しました。

研究手法と成果

わが国における脳主幹動脈急性閉塞症の治療実態とその成績を明らかにすることを目的とする多施設前向き研究(※2)である、RESCUE-Japan Registry 2に登録された内頚動脈あるいは中大脳動脈水平部閉塞症の患者のうち、脳梗塞発症前の身体機能として仕事や活動に制限がある、介助が必要、あるいは歩行ができなかった患者339名を対象としました。対象患者を血管内治療実施群(175名)と内科治療(薬物療法)のみを実施した群(164名)の2群に分類し、両群における脳梗塞発症3か月後の転帰(障害の程度)や、症候性頭蓋内出血(神経症状の悪化を伴う頭蓋内の出血合併症)の割合を比較しました。 主要評価項目である、”3か月後に脳梗塞発症前と同程度の身体機能レベルまで回復する患者の割合”は、血管内治療実施群(28.0%)の方が、内科治療のみを実施した群(10.9%)よりも有意に多い結果でした。両群間の患者背景(年齢・脳梗塞発症前の身体機能障害・併存疾患・脳梗塞の重症度・脳梗塞の大きさなど)を統計学的に調整した解析でも、血管内治療は内科治療と比較して、転帰良好に関連していました。懸念される症候性頭蓋内出血の合併は、血管内治療実施群(4.0%)と内科治療群(4.3%)で有意な差がありませんでした。

今後の展望と課題

今後、患者背景を合わせた前向きの臨床研究(※3)による検証は必要ですが、発症前から身体機能に障害があったとしても治療適応を十分に検討すれば、脳主幹動脈閉塞による急性期脳梗塞に対する血管内治療は、内科治療のみと比べて良好な転帰につながる治療になり得ると期待されます。実際の臨床現場では、脳梗塞の発症前から身体機能に障害がある患者に対して、血管内治療を実施するかしないか、といった重要な判断がしばしば求められます。本研究結果は、血管内治療の実施を検討する際の参考となる重要な報告と言えます。なお、本研究は観察研究であり、結果の解釈の際にはバイアス(両群間の患者背景の偏りや、治療方針を決定する際の各医師の判断の違い)への注意が必要です。

発表論文情報

著者:Kanta Tanaka, Hiroshi Yamagami, Takeshi Yoshimoto, et al
題名:Endovascular therapy for acute ischemic stroke in patients with prestroke disability
掲載誌:Journal of the American Heart Association(米国心臓協会の公式ジャーナル)

謝辞

本研究は、AMED(循環器疾患・糖尿病等生活習慣病対策実用化研究事業「循環器疾患の新たな治療法の開発に関する研究」)、厚労科研費、日本脳神経血管内治療学会、Medtronic社、Stryker社、Medicos Hirata社より資金的支援を受け実施されました。

用語解説
(※1)脳主幹動脈:脳に酸素や栄養を送っている複数の太い血管の総称です。大脳に血液を送っている内頚動脈・前大脳動脈・中大脳動脈・後大脳動脈や、小脳や脳幹に血液を送っている椎骨動脈・脳底動脈が含まれます。今回のサブ解析では、それらの血管の中でも特に血管内治療の良い適応である内頚動脈あるいは中大脳動脈水平部の閉塞を有する患者を対象としました。
(※2)多施設前向き研究:複数の研究施設が協力して実施する研究で、まず研究対象となる患者の最初の特性(例:詰まった血管の種類、年齢、性別、脳梗塞の重症度など)を測定し、その後、治療効果や合併症などの情報を収集しながら、研究対象の患者を追跡していく研究のこと。
(※3)前向きの臨床研究:今回報告した研究は多施設前向き研究ですが、血管内治療実施群では血管内治療の効果が得られやすい、逆に内科治療群では内科治療のほうが適している、と臨床医が判断しているため、両群の間で患者背景に違いがあります。そのために血管内治療の治療効果を正しく測定することが難しくなります。血管内治療と内科治療のいずれを実施するかをランダムに割り付け、患者背景を揃えた上で、血管内治療と内科治療の治療効果を比較することが必要です。

<参考図>治療毎の発症前及び発症3か月後転帰の比較>
・修正ランキンスケール:0は全く症候が無い、1は症候はあっても障害はなく日常の行動を行える、2は軽度の障害はあるが身の回りのことは介助なしに行える、3は中等度の障害があり何らかの介助を要するが歩行は介助なしに可能、4は中等度から重度の障害で歩行に介助を要する、5は重度の障害で寝たきり、6は死亡。

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