神経難病GM1ガングリオシドーシス治療薬開発への期待
2021-08-02 医薬基盤・健康・栄養研究所
新生児約10万人に1人発症するGM1ガングリオシドーシス(*1)は、有効な治療法のない神経難病です。
弊所疾患モデル小動物研究室(鈴木治研究リーダー)と鳥取大学研究推進機構研究基盤センター(檜垣克美准教授)は、AMED(*2)の事業である創薬支援推進事業・創薬総合支援事業(創薬ブースター)の支援を受け、共同研究「GM1-ガングリオシドーシス脳病態に有効な新規低分子シャペロン治療薬の探索」を実施し、その成果として、GM1ガングリオシドーシスモデルマウス(*3)を用いたin vivo薬効試験により、低分子化合物の経口投与によるシャペロン療法(*4)が有効であることを見出しました。
今回、このシャペロン療法の開発技術を含む共同研究成果が製薬企業(GCファーマ社)へ導出され、GM1ガングリオシドーシス治療薬開発に向けた取り組みへと向かうことになりました。( http://www.globalgreencross.com/eng/community/news_list.do https://www.tottori-u.ac.jp/item/18704.htm#ContentPane )
疾患モデル小動物研究室では、引き続き、ヒトの難病の病態を反映する多くの難病モデルマウスを開発し提供して行くことで、難病治療薬開発に貢献して参ります。
*1【GM1ガングリオシドーシス】
GM1ガングリオシドーシスは、GLB1遺伝子(ライソゾーム酵素の一種,βガラクトシダーゼをコードする遺伝子)の変異によって引き起こされる遺伝性のライソゾーム病(*5)の一つで、新生児約10万人に1人発症する神経難病です。現在、有効な治療法はありません。
*2 AMED :国立研究開発法人日本医療研究開発機構
*3【GM1ガングリオシドーシスモデルマウス】
マウスの内因性Glb1遺伝子を持たず、ヒトの変異型GLB1遺伝子を発現するマウス。弊所にて遺伝子改変技術を用いて開発された疾患モデルマウスの一例です。ヒトGM1ガングリオシドーシスの病態を反映した疾患モデルマウスとして広く使われています。
*4【シャペロン療法】
シャペロンとは、他の蛋白質や蛋白質複合体の適正な折りたたみ(フォールディング)を助けるタンパク質又は化合物の総称です。ライソゾーム病に対するシャペロン療法とは、低分子化合物を用いて変異酵素蛋白質の適正なフォールディングを誘導することで変異酵素蛋白質を安定化し、ライソゾーム内の酵素蛋白量を増加させ、酵素活性を復元する治療法です。シャペロン化合物の投与により、細胞内酵素の基質処理能力がある閾値以上になれば、疾患の発症抑制が期待できます。また、低分子化合物はヒト遺伝子組換え酵素製剤と異なり、血液脳関門を通過し、酵素補充療法では治療が不可能であった中枢神経症状の治療の可能性が期待されています。
*5【ライソゾーム病】
ライソゾーム病は、ライソゾーム内に存在する水解酵素(加水分解酵素)や補酵素などの遺伝的欠損により、ライソゾーム内に未分解の脂質や糖脂質などが異常に蓄積し、肝臓・脾臓の腫大、骨変形、中枢神経障害など、様々な症状を呈する疾患群で、現在60種の疾患が含まれます。酵素補充療法がいくつかの疾患に対し行われていますが、中枢神経障害には有効性が低く、新規治療法の開発が行われています。
本件に対する問い合わせ先
国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所
医薬基盤研究所 難治性疾患研究開発・支援センター
疾患モデル小動物研究室 研究リーダー
鈴木 治
国立研究開発法人 医薬基盤・健康・栄養研究所 実験動物研究資源バンク (nibiohn.go.jp)