家庭内の電力使用データを活用し、認知機能低下を予測するモデル作成に世界で初めて成功

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2021-10-08 国立循環器病研究センター

国立循環器病研究センター(大阪府吹田市、理事長:大津欣也、略称:国循)の予防医学・疫学情報部の中奥由里子(リサーチフェロー)、尾形宗士郎(上級研究員)、西村邦宏(部長)らの研究グループおよび東京電力パワーグリッド株式会社(東京都千代田区、代表取締役社長 社長執行役員:金子禎則、以下「東電PG」)は、居宅内の電力使用データを用いて、各家電の使用状況から認知機能低下を予測するモデル作成(以下、「本研究」)に世界で初めて成功し、スイスのSensors誌に2021年9月17日付で掲載されました。

■研究概要

【背景】

現在超高齢社会に突入している日本では、認知症の患者数が増加しています。認知症に至ると根治治療薬がなく、その前段階である軽度認知障害(MCI)は可逆的であるため、早期発見・介入につなげることで、認知症の発症を抑制することに注目が集まっています。

しかしながら、現状では、煩雑な認知機能検査や患者の受診への抵抗などにより、認知症の発見が遅れがちとなっています。そこで本研究は、家庭内での電力使用データと年齢・教育歴などの基本情報を用い、認知機能低下を予測するモデル作成を行いました。

【方法】

2019年4月~2020年7月の間、宮崎県延岡市の65歳以上の高齢者を対象として、本研究に参加し、電力使用データを取得できた78名を対象に解析を行いました。なお、認知症スクリーニング検査であるMini-mental State Examination (MMSE) 27点以下を認知機能低下、28点以上を認知機能正常と定義しています。また、電力使用データについては、東電PGの子会社の株式会社エナジーゲートウェイ(東京都港区、代表取締役社長:林博之)が提供する高精度電力センサーにて収集・分析(1)し得られた主な家電ごと(IH(電磁誘導調理器)、電子レンジ、エアコン、冷蔵庫、洗濯機、掃除機など)の使用状況を含むデータを使用しています。

家電ごとの使用時間について、被験者ごとにランダム切片とした一般化線形混合モデルを用いて、認知機能低下のありなしの2群を比較しました。加えて、一般化線形モデルを用いて、年齢、教育歴などの基本情報と、電力使用時間の季節ごとの平均値の変数を加えた予測モデルを作成し、予測性能を評価しました。

(1)電力使用データの分析には、東電PGが協業するインフォメティス社の機器分離推定技術(Non-Intrusive Load Monitoring)を含む電力分析技術を使用しました。

【結果】

認知機能低下群は、認知機能正常群と比較してIH(電磁誘導調理器)の使用時間が短く、電子レンジの春と冬の使用時間が短く、エアコンの冬の使用時間が短い傾向がみられました(図1)。また、電力使用時間の季節ごとの平均値の変数と年齢、教育歴などの基本情報を加えた予測モデルの予測性能は、精度 82%でした。

【結論と意義

本研究において、基本情報と電力使用データを用いた予測モデルにより、認知機能低下を高精度に予測することに成功しました。高齢者が自宅で生活できるように、家電毎の使用状況や被験者の生活行動をモニタリングする技術や基盤については、既に多くの論文で報告されていますが、本研究のように機器分離技術を実際に用いて認知機能低下を予測した報告は世界初の研究結果となります。

本予測モデルにより、家庭にある分電盤に高精度電力センサーを設置するだけで、AIを活用した機器分離技術による各家電の使用状況から、認知機能低下を予測することができます。ご自宅での家電の使用をモニタリングすることは、対象者の身体または精神への侵襲性が低く、簡易な方法であるため、認知機能低下を早期発見するためのスクリーニング法として基盤整備され、認知機能低下疑いの方の病院受診につながることを期待しています。

今後、宮崎県延岡市にて本研究の成果である認知機能低下の予測モデルを活用した研究・サービスの検討を進める予定です。国循・東電PGは、持続可能な社会基盤の構築を目指すとともに、高齢者の便利で安心な暮らしの実現に貢献していきます。

■発表論文情報

著者: Yuriko Nakaoku, Soshiro Ogata, Shunsuke Murata, Makoto Nishimori, Masafumi Ihara, Koji Iihara, Misa Takegami and Kunihiro Nishimura

題名:AI-Assisted In-House Power Monitoring for the Detection of Cognitive Impairment in Older Adults

掲載誌:Sensors

■謝辞

本研究は、下記機関より資金的支援を受け実施されました。

・国立研究開発法人国立循環器病研究センター 循環器病研究開発費(21-1-6)

(図1)

家庭内の電力使用データを活用し、認知機能低下を予測するモデル作成に世界で初めて成功

図1. 認知機能低下群と、認知機能正常群の家電使用時間
認知機能低下群は認知機能正常群と比較して IH(電磁誘導調理器)の使用時間が短く、電子レンジの春と冬の使用時間が短く、エアコンの冬の使用時間が短い傾向がみられる。

医療・健康
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