花の数が100以上あるウワミズザクラを発見~研究素材や花⽊としての利⽤に期待~

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2021-10-20 森林研究・整備機構 森林総合研究所,戸隠を知る会

ポイント

  • ⼀つの花序につく花の数が100以上あるウワミズザクラの新しい品種を命名しました
  • 新品種は、発⾒した⻑野県のほか、宮城県から京都府の広い地域でも存在していました
  • 果樹育種などの研究素材や新たな花⽊としての利⽤が期待されます

概要

国立研究開発法人森林研究・整備機構森林総合研究所と⼾隠(とがくし)を知る会は、ウワミズザクラの新品種を発⾒し、フサザキウワミズザクラと命名しました。フサザキウワミズザクラは⻑野県⻑野市の⾃然林から発⾒されました。ウワミズザクラは⻑さ8〜10cmの花序軸に20〜50個の花を1本の花序軸につけますが、フサザキウワミズザクラは花序軸がさらに分枝して、それぞれに花をつけるのが特徴で、1つの花序に全体で100個を超える花をつけることもありました。調査を進めると、このような花をつける個体は、宮城県から京都府にかけて広い範囲でも⾒られることがわかりました。花序の変異を⽰す学術上の貴重な存在であることに加え、果樹育種などの研究素材や新たな花⽊として利⽤が期待されます。このフサザキウワミズザクラは、新しい品種として2021年10⽉20⽇発⾏の植物研究雑誌96巻5号に発表されました。

背景

バラ科ウワミズザクラ属*1ウワミズザクラ(Padus grayana (Maxim.) C.K.Schneid.)は、サクラ属に近縁の落葉⾼⽊で、北海道から九州に広く分布しています。冷温帯の森林でふつうに⾒られ、⽊材は家具や器具などとして利⽤されています。また蕾や若い果実の塩漬けを杏仁⼦(あんにんご)として⾷⽤にする地域もあります。ユーラシア⼤陸に広く分布する近縁のエゾノウワミズザクラは、ヨーロッパでは花⽊としても利⽤されており、⽇本でもウワミズザクラ類の園芸的利⽤が期待されています。

内容

2021年4⽉に⼾隠(とがくし)を知る会の林部⽒は、⻑野県⻑野市の⾃然林でこれまで⾒たことがない1本の⽊を⾒つけました。⼀⾒ウワミズザクラのようですが、花序*2形態異なります(図1)。そこで、サクラ類の分類に詳しい機関である森林総合研究所がこの樹⽊の研究に共同で取り組みました。
ふつうのウワミズザクラは⻑さ8〜10cmの花序軸に20〜50個の花をブラシのようにつける総状花序*3 です。ところが、この個体はほかの形態はウワミズザクラと違いはありませんが、花序軸がさらに分枝して、それぞれに花をつける複総状花序*3 でした。突然変異によって花序の形態が変化したと推定されました。ふつうであれば1個の花となる部分が、⼆次花序となって2〜14個の花をつけるため、全体では100個を超える花をつける花序も⾒られました。これまでウワミズザクラ属の樹⽊において、複総状花序は報告されておらず、きわめて特異的な変異と考えられました。
調査を続けると、⻑野市内で3個体、および新潟県妙⾼市で1個体の同様の花をもつものを新たに発⾒しました。またインターネット上で公開されている写真を利⽤して探索をおこなったところ、宮城県、東京都、京都府にも存在することがわかりました。この変異は全国に存在する可能性が⽰されたのです。
そこで、この突然変異のウワミズザクラを新しい品種フサザキウワミズザクラ(Padus grayana(Maxim.) C.K.Schneid. f. paniculata T.Katsuki & Hayashibe)と命名し、植物研究雑誌96巻5号で発表しました。学名の根拠となるホロタイプ標本は⻑野県環境保全研究所植物標本庫に収蔵されています。

図1 総状花序と複総状花序の違いがわかる写真
図1 フサザキウワミズザクラ(左)とふつうのウワミズザクラ(右)の花序

今後の展開

フサザキウワミズザクラの花は、とても⾒栄えがすることから(図2)、新たな花⽊としての利⽤が考えられます。⼀⽅、こうした突然変異の遺伝⼦を解析することで、花の構造や果樹育種の研究に貢献することも期待されます。フサザキウワミズザクラの形態が毎年同じように⾒られるのか、また、次世代にも受け継がれるのかといった点については、今後⻑期間の検証が必要です。今回の発⾒は⾃然観察から⽣まれましたが、⾝近な⾃然林の中には、よく観察するとほかにも貴重な遺伝資源が眠っているかもしれません。

図2 見栄えのするフサザキウワミズザクラの写真
図2 フサザキウワミズザクラが開花している様⼦

論文

タイトル:A new form of Padus grayana (Rosaceae) discovered at Nagano Prefecture, Japan(⻑野県で発⾒されたウワミズザクラの新品種)

著者:Toshio Katsuki(勝⽊俊雄・森林総合研究所) and Naoki Hayashibe(林部直樹・⼾隠を知る会)

掲載誌:The Journal of Japanese Botany(植物研究雑誌) 96巻5号(2021年10⽉)予定

用語解説

*1 ウワミズザクラ属
ヤマザクラやウメ、スモモ、ウワミズザクラなどを広義のサクラ属(Prunus)として分類することもあるが、近年ではこれらを細分化し、狭義のサクラ属(Cerasus)やスモモ属(Prunus)などに分類することが多い。この細分化した分類体系では、ウワミズザクラはPadus属として、ヤマザクラやスモモなどから区別される。

*2 花序(かじょ)
花のついた枝全体、および花のつきかたを表す植物学⽤語。ウワミズザクラ属は、総状花序*3 となることが特徴で、ひとつの花序に数⼗個の花がブラシ状につく。

*3 総状花序(そうじょうかじょ) 複総状花序(ふくそうじょうかじょ)
花序の型を表す植物学⽤語。花序軸にほぼ均等に花がつく特徴は同じだが、総状花序は1本の花序軸だけあるが、複総状花序は花序軸が分枝した⼆次花序軸もあることが特徴。

お問い合わせ先

研究担当者:
森林総合研究所 九州⽀所 地域研究監 勝⽊俊雄
⼾隠を知る会 担当 中村千賀(⻑野市⽴博物館分館 ⼾隠地質化⽯博物館 内)

広報担当者:
森林総合研究所 企画部広報普及科広報係

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