2021-12-07 医薬基盤・健康・栄養研究所
慢性腎臓病は、日本人の約1割が罹患し、重症化すると人工透析治療が必要となります。現在、わが国の透析患者は30万人以上にのぼり、患者の生活の質(QOL)低下と同時に医療費の大きな負担が深刻な問題となっています。増加し続けている人工透析患者数を減少させるためには、腎臓病の重症化を抑制することが重要です。
腎臓の機能は糸球体ろ過量※1を測定することで評価できますが、操作が煩雑なため日常診療で測定することは困難でした。そのため、簡便かつ精密に評価する方法の開発が必要でした。
この度、医薬基盤・健康・栄養研究所 KAGAMI プロジェクト 木村友則プロジェクトリーダー(兼、難治性疾患研究開発・支援センター長)と部坂篤 研究調整員、大阪大学大学院医学系研究科泌尿器科学 川村正隆医員(研究当時)、今村亮一准教授、 腎臓内科学 猪阪善隆教授らは、D-アミノ酸※2の一つであるD-セリンを測定することで、糸球体ろ過量を正確かつ迅速に評価できることを見出しました。
これにより、腎臓病の早期診断かつ適切な治療が可能となり、人工透析導入の抑制につながることが期待されます。
なお、本研究成果は12月6日(月)(日本時間)に、「eClinicalMedicine」オンライン版に掲載されました。
※用語解説
※1 糸球体ろ過量
重要な腎機能の一つであり、単位時間当たりに腎臓の糸球体でろ過される血液量を指す。腎臓は糸球体において血液をろ過することで血液を浄化しているが、腎臓の機能が低下すると糸球体ろ過量が低下する。
※2 D-アミノ酸
アミノ酸はタンパク質の構成要素であり、ほとんどのアミノ酸には鏡像異性体(キラル体)であるL-アミノ酸、D-アミノ酸が存在する。しかし、自然界に存在するアミノ酸は、ほとんどがL-アミノ酸のみである。最近の技術の進歩により、生体内にD-アミノ酸がごく微量存在し、様々な生理活性を持つことが分かってきた。今回注目しているD-セリンはL-セリンのキラル体である。