新型コロナウイルス変異株・オミクロン株BA.2系統に対する治療薬の効果を検証

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2022-03-10 東京大学医科学研究所

発表のポイント

  • 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の治療薬が、オミクロン株BA.2系統(注1)の培養細胞における感染や増殖を阻害するかどうかを解析した。
  • 抗体薬(注2)のカシリビマブ・イムデビマブ、チキサゲビマブ・シルガビマブ、ソトロビマブは、オミクロン株BA.2系統の感染を阻害することが示された。
  • 抗ウイルス薬(注3)のレムデシビル、モルヌピラビル、ニルマトレルビルは、オミクロン株BA.2系統の増殖を抑制することが示された。
 発表概要
  • 2021年末に新型コロナウイルスの変異株・オミクロン株が確認されて以来、本変異株による爆発的流行が世界規模で続いています。オミクロン株は、4つの系統(BA.1、BA.1.1、BA.2、BA.3)に分類されます。BA.1系統に属する株が国内を含めた世界の流行の主流ですが、デンマーク、インド、フィリピン、スウェーデンなど一部の国々では、BA.2系統に属する株が主流となっています。
  • 国内では、カシリビマブ・イムデビマブ、ソトロビマブの抗体薬、あるいはレムデシビル、モルヌピラビル、ニルマトレルビル・リトナビルの抗ウイルス薬がCOVID-19に対する治療薬として承認を受けています。しかし、これらの治療薬がオミクロン株BA.2系統に対して有効かどうかについては、明らかにされていませんでした。
    東京大学医科学研究所ウイルス感染部門の河岡義裕特任教授らの研究グループは、オミクロン株BA.2系統に対する治療薬の効果を調べました。
  • はじめに、4種類の抗体薬(バムラニビマブ・エテセビマブ、カシリビマブ・イムデビマブ、チキサゲビマブ・シルガビマブ、ソトロビマブ)がオミクロン株BA.2系統の培養細胞への感染を阻害(中和活性(注4))するかどうかを調べました。
  • その結果、バムラニビマブ・エテセビマブのオミクロン株BA.2系統に対する中和活性は、著しく低いことがわかりました(表)。それに対して、カシリビマブ・イムデビマブ、チキサゲビマブ・シルガビマブ、ソトロビマブは、本変異株に対して中和活性を維持していることが判明しました。しかし、これらの抗体薬のBA.2系統株に対する効果は、従来株(中国武漢由来の株)に対する効果と比較して低いことがわかりました。
  • 続いて、オミクロン株に対する3種類の抗ウイルス薬(レムデシビル、モルヌピラビル、ニルマトレルビル)の効果を解析しました。いずれの薬剤も培養細胞におけるオミクロン株の増殖を抑制することがわかりました(表)。

新型コロナウイルス変異株・オミクロン株BA.2系統に対する治療薬の効果を検証

本研究グループは、COVID-19治療薬がオミクロン株BA.2系統の増殖を効果的に抑制するかどうかをCOVID-19の動物モデルを用いて、引き続き検証する予定です。
本研究を通して得られた成果は、医療現場における適切なCOVID-19治療薬の選択に役立つだけでなく、オミクロン株BA.2系統のリスク評価など行政機関が今後の新型コロナウイルス感染症対策計画を策定、実施する上で、重要な情報となります。
本研究成果は、2022年3月9日(米国東部時間 午後5時)、米国医学雑誌「New England Journal of Medicine (NEJM)」のオンライン速報版で公開されました。
なお、本研究は、東京大学、国立感染症研究所、国立国際医療研究センターが共同で行ったものです。また、本研究は、日本医療研究開発機構(AMED)新興・再興感染症に対する革新的医薬品等開発推進研究事業並びに厚生労働科学研究費補助金新興・再興感染症及び予防接種政策推進研究事業の一環として行われました。

 発表雑誌

雑誌名:「New England Journal of Medicine (NEJM) 」(3月9日オンライン版)

論文タイトル:Efficacy of Antiviral Agents against the SARS-CoV-2 Omicron Subvariant BA.2

著者:

Emi Takashita*, Noriko Kinoshita, Seiya Yamayoshi, Yuko Sakai-Tagawa, Seiichiro Fujisaki, Mutsumi Ito, Kiyoko Iwatsuki-Horimoto, Peter Halfmann, Shinji Watanabe, Kenji Maeda, Masaki Imai, Hiroaki Mitsuya, Norio Ohmagari, Makoto Takeda, Hideki Hasegawa, Yoshihiro Kawaoka*
DOI:10.1056/NEJMc2201933

URL:https://www.doi.org/10.1056/NEJMc2201933

 問い合わせ先

<研究に関するお問い合わせ>
東京大学医科学研究所 ウイルス感染部門
特任教授 河岡 義裕(かわおか よしひろ)

<報道に関するお問い合わせ>
東京大学医科学研究所 国際学術連携室(広報)

 用語解説

(注1)オミクロン株BA.2系統:
ウイルス感染は、コロナウイルス粒子表面に存在するスパイク蛋白質を介してウイルス粒子が宿主細胞表面の受容体蛋白質に結合することで始まる。実用化されたあるいは開発中のCOVID-19に対する抗体薬は、このスパイク蛋白質を標的としており、その機能を失わせる(中和する)ことを目的としている。オミクロン株BA.2系統は、そのスパイク蛋白質に少なくとも31ヶ所の変異を有する。

(注2)抗体薬:
カシリビマブ・イムデビマブ(販売名:ロナプリーブ注射液セット)は令和3年7月19日に特例承認を受けた。ソトロビマブ(販売名:ゼビュディ点滴静注液)は令和3年9月27日に特例承認を受けた。チキサゲビマブ・シルガビマブ(開発コード:AZD7442)は臨床試験中。https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000888699.pdfを参照。

(注3)抗ウイルス薬:
レムデシビル(販売名:ベクルリー点滴静注液)は令和2年5月7日に特例承認を受けた。モルヌピラビル(販売名:ラゲブリオ)は令和3年12月24日に特例承認を受けた。ニルマトレルビル・リトナビル(販売名:パキロビッドパック)は令和4年2月10日に特例承認を受けた。https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000888699.pdfを参照。

(注4)中和活性:
抗体が持つウイルスの細胞への感染を阻害する機能。

有機化学・薬学
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