腰部脊柱管狭窄症手術患者を対象とした間葉系幹細胞とバイオマテリアルを用いた再生医療の医師主導治験を開始

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2022-04-19 北海道大学病院,日本医療研究開発機構

ポイント
  • 腰部脊柱管狭窄症*1手術患者に対する医師主導治験を開始。
  • 北海道大学病院整形外科 須藤英毅特任教授らは、腰部脊柱管狭窄症に併発した椎間板ヘルニアを摘出した後に生じる空洞部分に、間葉系幹細胞とバイオマテリアル(生体材料)であるアルギン酸ゲルを埋め込む治療法を開発。
  • 北海道大学病院、我汝会えにわ病院、北海道整形外科記念病院において、合計45名を対象に実施する予定。
  • 本治験の結果によって、企業治験につなげることにより薬事承認を目指し、手術を要する腰部脊柱管狭窄症に対する次世代型の新しい再生治療の実現を期待。
研究の背景

中高年期に多くみられる腰部脊柱管狭窄症は、強い腰痛や下肢痛が生じる疾患であり、国内における患者数は約250万人と推定されています。このうち、特に椎間板ヘルニアを併発した症例(図1左上)に対する手術治療では脊髄神経を圧迫している椎間板も摘出します。しかし、椎間板は無血管野であり栄養供給に乏しく細胞分裂能も低いため、欠損あるいは変性した椎間板は自然再生しないといわれています。

現在の手術治療法は、椎弓形成術*2のあとにヘルニアを取り除くだけのため、椎間板内部が空洞化して組織の再生が障害されています。手術後も痛みが残る場合や、変性すべり症*3などに進行して再手術(脊椎固定術)になるリスクがあるため、従来の治療法に代わる新しい治療法の確立が望まれています。

今回の治験責任医師である須藤特任教授らは、これまでに日本医療研究開発機構(AMED)革新的医療技術創出拠点プロジェクト(シーズB:平成28年度、シーズC:平成30~令和2年度)の支援を得て、若年者に多い腰椎椎間板ヘルニアを対象に、ヘルニア摘出後の椎間板変性を予防する目的にアルギン酸を基盤とした硬化性ゲルを持田製薬株式会社と開発し(EBioMedicine 2018)、医師主導治験を実施してきました。

さらに、須藤特任教授らは、椎間板変性が椎間板ヘルニアよりも進んだ状態である腰部脊柱管狭窄症に対して、骨髄由来間葉系幹細胞(Bone Marrow-derived Mesenchymal Stem Cell:BMSC)*4と硬化性ゲルを組み合わせて使用することを目指してきました(図1)。これまでの基礎研究から、硬化性ゲルは移植したBMSCの流出を防ぎ、BMSCと椎間板細胞との相互作用によって組織の再生が促進されることが明らかになっています(EBioMedicine 2020)。


図1 椎間板ヘルニアを併発した腰部脊柱管狭窄症(左上)と細胞治療の概要

一方、島根大学医学部生命科学講座の松崎有未教授らは、ヒト骨髄液中のBMSCから分離採取される高品質かつ高純度なBMSC(Rapidly Expanding Cell, REC*5)を作製する技術を開発し、同大学発バイオベンチャー企業であるPuREC株式会社を設立しました。

須藤特任教授は、RECを硬化性ゲルと組み合わせてヒト椎間板組織に移植することを企図し、AMED革新的医療技術創出拠点プロジェクト(令和2年度)および再生医療実現拠点ネットワークプログラム(令和2~3年度)の支援を受けて非臨床試験を進め、安全性と有効性を確認してきました(EBioMedicine 2022)。

治験の概要

腰部脊柱管狭窄症に併発した椎間板ヘルニアを摘出した後に生じる空洞部分にRECと硬化性ゲルを埋め込む細胞治療を行い(図1)、その有効性と安全性を評価する探索的医師主導治験を実施します。本治験の結果によって、企業治験につなげることにより薬事承認を目指し、腰部脊柱管狭窄症に対する次世代型の新しい再生医療の実現を期待しています。このたび、治験計画書を医薬品医療機器総合機構(PMDA)に提出し、令和4年4月より治験を開始しました。

治験責任医師
北海道大学病院整形外科 須藤 英毅
治験デザイン及び登録期間
腰部脊柱管狭窄症の診断で手術適応のある20歳以上75歳以下の被験者を対象に、椎弓形成術に続く椎間板ヘルニア摘出術後に生じた空洞部へ、硬化性ゲルに混ぜたRECを埋植、硬化性ゲルのみを埋植、何も埋植せず、の3群で多施設共同無作為化二重盲検比較試験として実施し、安全性や有効性を評価します。北海道大学病院、えにわ病院、北海道整形外科記念病院を合わせて45名(15名×3群)の治験を予定しています。登録期間は令和4年4月から令和6年3月までの予定です。
研究資金および治験製品の提供

本治験は、AMED再生医療実用化研究事業(研究開発代表者:須藤英毅)の支援により実施します。治験製品に用いるRECはPuREC株式会社から、硬化性ゲルは持田製薬株式会社から各々提供を受けます。

用語解説
*1 腰部脊柱管狭窄症
脊柱管は背骨、椎間板、関節、黄色靱帯などに囲まれたトンネル状の構造をしており、その中に脊髄神経が通っています。主に加齢によって椎間板が膨らんだり黄色靱帯が厚くなって脊柱管が狭くなると、脊髄神経が圧迫を受けて腰痛や下肢痛を発症する病気が腰部脊柱管狭窄症です。
*2 椎弓形成術
脊髄神経を圧迫している骨や靭帯を切除します。
*3 変性すべり症
椎間板が変性して不安定になり、脊椎がずれて脊髄神経を圧迫することで下肢痛等の症状が出現します。
脊椎を安定化させるために、金属を用いた脊椎固定術が必要になります。
*4 骨髄由来間葉系幹細胞(Bone Marrow-derived Mesenchymal Stem Cell:BMSC)
骨髄に存在する幹細胞の一種であり、骨や軟骨に対する再生医療への応用が期待されています。
*5 REC
LNGFR(CD271)とThy1(CD90)の2種の細胞表面のマーカーを認識する抗体を用いることで、極めて効率よくヒト骨髄液から分離採取されたBMSC。RECは従来方法で分離したBMSCと比較し、A)均一な細胞集団である、B)細胞老化を示していない、C)細胞の大部分が増殖期にある、D)高い分化能(含、骨分化能)を示す、E)遊走性を示すといった特徴を有しています。従来のBMSCと比べて高品質かつ高純度であるため、組織の再生がより効率よく進むことが期待されています。
AMED事業の支援
  • 革新的医療技術創出拠点プロジェクト・橋渡し研究加速ネットワークプログラム:シーズB「椎間板再生治療における組織修復材の開発」(平成28年度)
  • 革新的医療技術創出拠点プロジェクト・橋渡し研究戦略的推進プログラム:シーズC「椎間板再生治療における組織修復材の開発」(平成30年度~令和2年度)
  • 革新的医療技術創出拠点プロジェクト・橋渡し研究戦略的推進プログラム:preB「混合性腰部脊柱管狭窄症に対する高純度同種間葉系幹細胞(REC)を用いた新規治療法の開発」(令和2年度)
  • 再生医療実現拠点ネットワークプログラム・技術開発個別課題「高純度同種間葉系幹細胞(REC)と硬化性ゲルを用いた腰部脊柱管狭窄症に対する細胞治療」(令和2年度~令和3年度)
  • 再生医療実用化研究事業「腰部脊柱管狭窄症に対するREC/dMD-001の安全性と有効性に係る探索的医師主導治験」(令和4年度~)
お問い合わせ先

治験について
北海道大学大学院医学研究院 脊椎・脊髄先端医学分野 特任教授 須藤 英毅(すどう ひでき)

報道について
北海道大学病院総務課総務係(〒060-8648 札幌市北区北14条西5丁目)

AMED事業について
国立研究開発法人日本医療研究開発機構
再生・細胞医療・遺伝子治療事業部 再生医療研究開発課

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