自己免疫疾患とアレルギー疾患に共通した遺伝的特徴を明らかに~複数の免疫疾患を横断的に検討した大規模ゲノム解析~

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2022-06-27 大阪大学,理化学研究所,日本医療研究開発機構

研究成果のポイント
  • 複数の免疫疾患(自己免疫疾患・アレルギー疾患)を対象に横断的な大規模ゲノム解析を計84万人に対して実施した。
  • 自己免疫疾患とアレルギー疾患は遺伝学的に大別される一方で、部分的には共通してリスクとなる遺伝子領域が存在しており、本研究では新たに疾患間で共通する遺伝子多型※1を4カ所同定した。
  • 免疫疾患をターゲットにした新規創薬やドラッグ・リポジショニング※2への寄与が期待される。
概要

大阪大学大学院医学系研究科の大学院生の白井雄也さん(博士後期課程)、岡田随象教授(遺伝統計学/理化学研究所生命医科学研究センター システム遺伝学チーム チームリーダー)らの研究グループは、バイオバンク・ジャパン(日本)※3・UKバイオバンク(英国)※4などから収集された計84万人のヒトゲノム情報の解析を行い、自己免疫疾患とアレルギー疾患に共通した遺伝的特徴を明らかにしました。対象疾患には両バイオバンクで共通して登録されている、関節リウマチ※5、バセドウ病※6、1型糖尿病※7、気管支喘息※8、アトピー性皮膚炎※9、花粉症※10が含まれ、追認解析として全身性エリテマトーデス※11、乾癬※12を対象とした検証が行われました(図1)。


図1 本研究の概略

自己免疫疾患とアレルギー疾患は異なる疾患群と考えられていますが、一部の遺伝子領域においては共有される遺伝的リスクに関する報告があり、その全容解明が望まれていました。今回、研究グループは、自己免疫疾患とアレルギー疾患を対象にゲノムワイド関連解析(GWAS)※13を行い、複数の集団に対して横断的な統合解析を行いました。その結果、ゲノム情報に基づき自己免疫疾患とアレルギー疾患を分類することができる一方で、部分的には共通した遺伝子多型が存在することを明らかにしました。今回の研究で新たに同定した遺伝子多型は、PRDM2、G3BP1、HBS1L、POU2AF1領域に存在しており、それぞれの遺伝子の発現量を変化させることで疾患リスクに関与することが示唆されました。複数の免疫疾患に関わるリスク遺伝子が明らかになることにより、複数疾患をターゲットにした新規創薬やドラッグ・リポジショニングへの応用が期待されます。

本研究成果は、英国科学誌「Annals of the Rheumatic Diseases」に、2022年6月27日(月)午前0時(日本時間)に公開されました。

研究の背景

自己免疫疾患とアレルギー疾患は異なる疾患群と考えられている一方で、先行研究において、共通した遺伝的要因が部分的に存在することが知られていました。さらに、疫学研究の結果からはアレルギー疾患の存在により自己免疫疾患の発症リスクが増加することが報告されています(Krishna MT et al. Eur Respir J. 2019)。そのため、2つの疾患群で共通した病態の存在が示唆されていましたが、これまで自己免疫疾患、アレルギー疾患を統合した大規模なゲノム研究は報告されていませんでした。今回、日本人集団と欧米人集団のバイオバンクリソースを活用して自己免疫疾患とアレルギー疾患を対象とした大規模なGWASを行うことで、多様な集団間を通して2つの疾患群の共通点や違いを明らかにすることを試みました。

研究の内容

今回、研究グループは、バイオバンク・ジャパン(日本)・UKバイオバンク(英国)などにより収集された計84万人のヒトゲノム情報の解析を行いました。解析対象には、両バイオバンクで共通して登録されていた自己免疫疾患(関節リウマチ、バセドウ病、1型糖尿病)とアレルギー疾患(気管支喘息、アトピー性皮膚炎、花粉症)が含まれ、追認解析には全身性エリテマトーデスや乾癬も対象としました。自己免疫疾患とアレルギー疾患はゲノム情報からも2群に分類することができ、その違いは、「自己免疫疾患においては疾患リスクがHLA遺伝子※14領域に集中していること」、「アレルギー疾患においては疾患リスクがサイトカイン遺伝子領域に偏ってゲノム上に散在していること」に起因していました。一方、部分的には共通の疾患リスクを示す遺伝子領域も存在しており、本研究では4カ所の遺伝子多型が新規に同定されました。その中には、東アジア人集団において特異的に観測されるG3BP1領域の遺伝子多型や、多様な集団間で共通した効果を示すPOU2AF1領域の遺伝子多型などがありました(図2)。G3BP1はⅠ型インターフェロン発現に関わる遺伝子であり、POU2AF1はB細胞において抗体産生に関わる遺伝子です。これらの領域の遺伝子多型はそれぞれの遺伝子発現量を減少させることで疾患リスクを低下させることが示唆されました。また、本研究では自己免疫疾患との統合解析を通して、アレルギー疾患の遺伝的リスクに自然免疫※15に関わる遺伝子や免疫細胞が関連していることも明らかになりました。


図2 自己免疫疾患とアレルギー疾患のリスクを減少させる遺伝子多型

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

本研究成果により、免疫システムの異常とヒトゲノムの関連の解明が加速することが期待されます。また、本研究で同定した疾患間で共通する遺伝子は免疫系を制御する鍵遺伝子として、マルチターゲットの創薬標的となる可能性があります。

特記事項

本研究成果は、2022年6月27日(月)午前0時(日本時間)に英国科学誌「Annals of the Rheumatic Diseases」(オンライン)に掲載されます。

タイトル
“Multi-trait and cross-population genome-wide association studies across autoimmune and allergic diseases identify shared and distinct genetic components.”
著者名
Yuya Shirai1,2, Yoshimitsu Nakanishi2-5, Akari Suzuki6, Hachiro Konaka7, Rika Nishikawa8, Kyuto Sonehara1, Shinichi Namba1, Hiroaki Tanaka1,9, Tatsuo Masuda10,11, Moto Yaga2, Shingo Satoh2, Mayuko Izumi2, Yumiko Mizuno2, Tatsunori Jo2, Yuichi Maeda2,4,12, Takuro Nii2,12,13, Eri Oguro-Igashira2,12, The Biobank Japan Project14, Takayuki Morisaki15,16, Yoichiro Kamatani17, Shingo Nakayamada9, Chikako Nishigori8, Yoshiya Tanaka9, Yoshito Takeda2, Kazuhiko Yamamoto6, Atsushi Kumanogoh2-4,18, Yukinori Okada1,18-21
所属
  1. 大阪大学大学院医学系研究科 遺伝統計学
  2. 大阪大学大学院医学系研究科 呼吸器・免疫内科学
  3. 大阪大学免疫学フロンティア研究センター 感染病態分野
  4. 大阪大学先導的学際研究機構 生命医科学融合フロンティア研究部門
  5. 大阪大学大学院医学系研究科 先端免疫臨床応用学共同研究講座
  6. 理化学研究所生命医科学研究センター 自己免疫疾患研究チーム
  7. 日本生命病院 呼吸器・免疫内科
  8. 神戸大学大学院医学系研究科 内科系講座皮膚科学教室
  9. 産業医科大学医学部 第一内科学講座
  10. 大阪大学大学院医学系研究科 産婦人科学
  11. 大阪大学大学院医学系研究科保健学専攻 再生誘導医学協働研究所
  12. 大阪大学大学院医学系研究科 免疫制御学
  13. 国立病院機構大阪刀根山医療センター 呼吸器内科
  14. 東京大学医科学研究所 バイオバンク・ジャパン
  15. 東京大学医科学研究所 癌・細胞増殖部門 人癌病因遺伝子分野
  16. 東京大学医学部附属病院 内科診療部門
  17. 東京大学大学院新領域創成科学研究科 メディカル情報生命専攻 複雑形質ゲノム解析分野
  18. 大阪大学感染症総合教育研究拠点(CiDER)
  19. 理化学研究所生命医科学研究センター システム遺伝学チーム
  20. 大阪大学免疫学フロンティア研究センター 免疫統計学
  21. 東京大学大学院医学系研究科 遺伝情報学

本研究は、日本医療研究開発機構(AMED)ゲノム医療実現バイオバンク利活用プログラム:B-cureのうち、ゲノム研究バイオバンク(旧:疾患克服に向けたゲノム医療実現プロジェクト(オーダーメイド医療の実現プログラム))、免疫アレルギー疾患実用化研究事業「免疫オミクス情報の横断的統合による関節リウマチのゲノム個別化医療の実現」、ゲノム医療実現推進プラットフォーム事業・先端ゲノム研究開発:GRIFIN「次世代ゲノミクス研究による乾癬の疾患病態解明・個別化医療・創薬」の一環として行われ、大阪大学大学院医学系研究科バイオインフォマティクスイニシアティブの協力を得て行われました。

用語説明
※1 遺伝子多型
ヒトゲノム配列を構成しているDNAの配列の個体差であり、集団中に1%以上の頻度で存在するものと定義されることが多い。
※2 ドラッグ・リポジショニング
既存薬を転用して新たな疾患の治療薬として開発する方法。
※3 バイオバンク・ジャパン(BBJ:BioBank Japan)
日本人集団27万人を対象とした生体試料バイオバンクで、ゲノム解析が終了した人数は約20万人とアジア最大である。オーダーメイド医療の実現プログラム(実施機関:東京大学医科学研究所。ゲノムDNAや血清サンプルを臨床情報と共に収集し、研究者へのデータ提供や分譲を行っている。
URL:https://biobankjp.org/index.html
※4 UKバイオバンク(UKB:UK Biobank)
英国全域の40~69歳の約50万人の人々からゲノムデータと表現型データが集められた世界最大規模の生体試料バイオバンク。世界中の研究者にリソースを提供しており、中高年で有病率の高い疾患(がん、心血管疾患、糖尿病、認知症など)を中心に様々な疾患の遺伝的・環境的要因の解明に貢献している。
URL:https://www.ukbiobank.ac.uk/
※5 関節リウマチ
自身の免疫反応により関節に炎症が起こり、関節の腫れや痛みが生じる自己免疫疾患。進行に伴い関節の変形や機能障害を来す。
※6 バセドウ病
自己抗体により甲状腺が刺激され、甲状腺ホルモンが過剰に分泌される自己免疫疾患。動悸・体重減少・手の震えといった甲状腺機能亢進症状を来す。
※7 1型糖尿病
自身の免疫反応により膵臓のβ細胞が破壊されることで、インスリン分泌能が低下し血糖値が上昇する自己免疫疾患。
※8 気管支喘息
慢性炎症が気道に生じることで変動を持った気道狭窄症状や咳嗽を来すアレルギー疾患。
※9 アトピー性皮膚炎
かゆみを伴う湿疹が慢性的に改善と悪化を繰り返すアレルギー疾患。
※10 花粉症
花粉を吸いこむことでくしゃみ・鼻水といった鼻炎や目のかゆみなどを来すアレルギー疾患。
※11 全身性エリテマトーデス(SLE)
関節、皮膚、腎臓、神経などを中心に全身のさまざまな臓器に炎症や障害を起こす自己免疫疾患。
※12 乾癬
皮膚に対する慢性的な免疫反応の結果、銀白色の鱗屑(皮膚の粉)を伴う赤い発疹が生じる疾患。
※13 ゲノムワイド関連解析(GWAS:Genome Wide Association Study)
ヒトゲノム配列上に存在する数百万か所の遺伝子多型とヒト疾患との発症の関係を網羅的に検討する、遺伝統計解析手法。数千人~百万人を対象に大規模に実施されることで、これまで1,000を超えるヒト疾患に対する遺伝子多型が同定されている。
※14 HLA遺伝子
白血球の表面に発現する分子で、白血球の血液型として発見された。後に全身の細胞と体液に存在することが判明し、生体内における自己と非自己の認識や外来性の病原菌に対する免疫反応に関わることが分かっている。
※15 自然免疫
侵入してきた病原体や異常になった自己の細胞をいち早く感知し、それを排除する仕組みであり、免疫反応の初期応答として好中球やマクロファージなどの「微生物などの異物を食べる細胞」が中心的な役割を果たす。
本件に関するお問い合わせ先

研究に関すること
岡田随象(おかだ ゆきのり)
大阪大学 大学院医学系研究科 遺伝統計学 教授

報道に関すること
大阪大学大学院医学系研究科 広報室
理化学研究所 広報室 報道担当

AMED事業に関すること
日本医療研究開発機構(AMED)
ゲノム・データ基盤事業部 ゲノム医療基盤研究開発課
ゲノム医療実現バイオバンク利活用プログラム:B-cure
(ゲノム医療実現推進プラットフォーム・先端ゲノム研究開発:GRIFIN)

疾患基礎研究事業部 疾患基礎研究課
免疫アレルギー疾患実用化研究事業

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