2022-10-04 京都大学
西村明洋 理学研究科博士課程学生と髙山浩司 同准教授の研究グループは、小笠原諸島の固有植物であるシマウツボおよびそれに近縁な広域分布種のハマウツボについて送粉者の調査を行い、小笠原諸島における送粉生態系の進化を発見しました。
陸上植物の有性生殖には花粉を運ぶ送粉者の存在が重要な役割を果たしています。大陸から海で隔離された環境である海洋島は、送粉者となりうる動物相が大陸と大きく異なっています。そのため、送粉者シフトと呼ばれる送粉生態系の変化がしばしば見られ、その結果、花などの繁殖形質に特異な進化が起こることが知られています。
本研究では、西村明洋らは、小笠原諸島の固有植物シマウツボ、ならびに大陸産の近縁種であるハマウツボについて、送粉者観察、花形質観察および送粉者除去実験を行い、シマウツボの繁殖生態を調べました。その結果、シマウツボとハマウツボはどちらも自殖と送粉者による他家受粉を行っている可能性が示されました。さらに、これまでハマウツボ属の植物では昆虫による送粉しか知られていませんでしたが、シマウツボには鳥が訪花していることを発見しました。本研究は、ハマウツボ属植物において鳥が訪花することを観察した世界で初めての報告になります。今回の研究で示されたシマウツボと近縁種の送粉者の相違は、送粉生態系に関する進化の情報が乏しかった小笠原諸島における送粉者シフトの重要な事例となります。
本研究成果は、2022年10月4日に、国際学術誌「Plant Species Biology」のオンライン版に掲載されました。
本研究の概要図
研究者のコメント
「小笠原諸島では日本本土や他の大陸とは異なる独自の環境・生態系を観察することができ、魅力的な植物が多く生育しています。しかし、その進化の歴史は今なお不明な点が多く残されています。そうした中でもとりわけ謎だらけな寄生植物シマウツボを調査することで、海洋島における送粉者シフトの実態を捉えることができました。シマウツボは出現時期が短く、栽培することもできないため、調査には非常に長い時間がかかりましたが、地道な送粉生態学的調査から希少な固有種の進化の実態を垣間見ることができ、とても嬉しく思います。」(西村明洋)
研究者情報
研究者名:髙山 浩司