2023-03-14 東北大学
【本学研究者情報】
〇生命科学研究科 教授 田口友彦
【発表のポイント】
- DNAウイルスに感染すると、自然免疫応答経路の1つであるSTING注1経路が活性化し、炎症が誘導されますが、炎症がどのように終結するかはわかっていませんでした。
- 細胞内の分解を担う細胞小器官リソソーム注2が、隔離膜注3を利用せずに、活性化状態にあるSTINGを直接取り込んで分解すること、また、この取り込み・分解機構の破綻が、炎症の持続を引き起こすことが明らかになりました。
- 炎症性疾患・神経変性疾患の発症機序の理解、および治療薬の開発につながる成果であり、医学・薬学分野への展開が期待できます。
【概要】
自然免疫は、生まれながらにして備わっている異物に対する応答機構です。小胞体に局在するSTINGは、DNAウイルス感染防御に必要なタンパク質です。STINGは、DNAウイルス感染時にゴルジ体へ移動し、自然免疫シグナルを活性化することがわかっていました。しかしながら、活性化したシグナルがどのように終結するのかはわかっていませんでした。東北大学大学院生命科学研究科の朽津芳彦研究員、向井康治朗助教、田口友彦教授の研究グループは、活性化したSTINGがリソソームによって直接取り込まれて分解を受けることでシグナルが終結することを明らかにしました。
本研究は、STINGの分解機構、および新たな細胞内分解システムの存在を明らかにした重要な報告です。
本研究成果は、2023年3月14日付(日本時間)でNature Cell Biology誌(電子版)に掲載されました。
図1. 本研究の着眼点
【用語解説】
注1. STING
Stimulator of interferon genes の略。小胞体に局在する膜貫通型タンパク質で、細胞質 DNA の出現に反応してゴルジ体へ移動し、自然免疫・炎症応答を活性化する。 2014年にSTINGの変異に起因する常染色体顕性の遺伝性自己炎症性疾患SAVI(STING-associated vasculopathy with onset in infancy )が同定され、種々の炎症性疾患の原因となることが判明し、近年大きな注目を集めている。今回、STING自身が分解されることで、炎症シグナルが終結することが明らかになった。
注2. リソソーム
真核細胞が持つ細胞小器官の一つであり、語源は、”lysis(分解)”+”some(~のまとまり)”に由来する。リソソームは生体膜に包まれた構造体であり、内腔に分解酵素をもつ。これまで、細胞外の物質の分解経路(エンドサイトーシス)や細胞内の物質の分解経路(マクロオートファジー)の最終到達地点として、生体内のリサイクルを担う場として知られていた。今回、リソソーム自身が複数のSTING陽性膜小胞を直接取り込み、分解する能力を有することが判明した。
注3. 隔離膜
真核細胞に保存された生体膜構造の一つであり、栄養飢餓や細菌感染などにより、マクロオートファジーが誘導されると、細胞質に出現する。カップ型の隔離膜が伸長し、二重膜小胞のオートファゴソームが形成される。オートファゴソームはリソソームと膜融合し、オートファゴソーム内の生体物質は分解される。今回、STNGの分解には、隔離膜の形成が不要であることがわかった。
問い合わせ先
(研究に関すること)
東北大学大学院生命科学研究科
教授 田口友彦(たぐち ともひこ)
(報道に関すること)
東北大学大学院生命科学研究科
広報室
高橋 さやか(たかはし さやか)