2023-03-22 京都大学
自然の生態系には明瞭な境界はなく、森林や草原、河川の間を移動する生物・生物遺骸・栄養塩類(系外資源流)が、それらを利用する生物の成長や繁殖に影響を及ぼすことが知られています。しかしながら、こうした生態系のつながりが、生物の生活史やその多様性維持にどれほど貢献するかはほとんどわかっていませんでした。
佐藤拓哉 生態学研究センター准教授(現:神戸大学)と田中達也 神戸大学大学院生、上田るい 同大学院生は、夏に森林から河川に供給される陸生昆虫(系外資源流)が、河川に暮らすサケ科魚類のアマゴの成長を高めることで、海に降ってサツキマスになろうとする個体の頻度を高めることを明らかにしました。
本研究は、森や川といった生態系間のつながりが、生物の生き方の多様性(=川と海を回遊する移住行動の多様性)を維持することを解明したものであり、今後の生態系管理にも重要な知見を提供すると期待されます。
本研究成果は、2023年3月22日に、国際学術誌「Proceedings of the Royal Society B: Biological Sciences」にオンライン掲載されました。
本研究で立てた仮説の概要:
森から河川に供給される陸生昆虫の量が多い(a vs. b)とアマゴの成長が促進されて閾値サイズを超えやすくなり(c vs. d)、集団内に移住多型が維持されやすくなる。
研究者のコメント
「サケ科の降海型の回復について、海と川の繋がりの維持という従来の視点に加え、森と川の繋がりの維持・回復という新たな視点を提供でき、嬉しく思います。」(田中達也)
「本研究の成果は、サケ科魚類のみならず、回遊性生物の保全の在り方を考える上で有用になると期待しています。今後は森と川のつながりの下で、アマゴ稚魚の生き方に影響を及ぼす要因をより詳しく調べていきたいと考えています。」(上田るい)
「研究を通して、森の中の川を泳ぐアマゴたちが一大決心をして海へいく姿を想像できるようになりました。野生生物が本来の生きざまを選択できる生態系の回復を目指していきたいです。」(佐藤拓哉)