2023-04-04 京都大学
幹細胞とは、自身を複製しながら様々な細胞種へと分化することができる細胞です。幹細胞がその性質を維持するためには、ニッチ細胞が作り出す「幹細胞ニッチ」と呼ばれる特殊な環境が必要です。幹細胞は、幹細胞ニッチにぴったりと寄り添うように存在しています。ショウジョウバエの卵巣では、ニッチ細胞が作り出す皿状の幹細胞ニッチに2~3個の卵幹細胞が納まって存在していますが、ニッチの形にどのような意義があるのかはわかっていませんでした。
今回、井垣達吏 生命科学研究科教授、谷口喜一郎 同特定講師の研究グループは、細胞競合と呼ばれる細胞間の相互作用を介した細胞死誘導プログラムが働かないショウジョウバエの卵巣では卵幹細胞の数が2倍に増加しており、その原因がニッチの形の異常であることを発見しました。さらに、幹細胞ニッチの皿状の形がどのようにつくり出されるか調べたところ、発生期においてニッチ細胞の周りでおこる細胞死(アポトーシス)が関与していることを見いだしました。最後に、幹細胞ニッチの形の異常が卵産生にどのような影響を及ぼすか調べたところ、卵幹細胞の数が増えるにもかかわらず卵産生量は低下してしまうことがわかりました。
本研究により、これまで不明であった幹細胞ニッチの形づくりに細胞死の仕組みが利用されていることが分かりました。さらに、幹細胞ニッチの形が効率的な卵産生に貢献していることを明らかにしました。
本研究成果は、2023年3月27日に、国際学術誌「PLoS Genetics」にオンライン掲載されました。
研究者のコメント
「皿状の幹細胞ニッチによって維持される幹細胞という古典的な幹細胞システムのモデルは、20年以上前にショウジョウバエ研究により提唱されたものですが、なぜそのような構造なのかについては長らく明らかにされてきませんでした。細胞競合という細胞の適者生存の仕組みが、幹細胞ニッチの形づくりを介して幹細胞システムの品質に寄与しているという事実は、細胞競合の生理的意義を理解する上で非常に重要です。今後、細胞競合の仕組みが個体発生・維持のどのようなプロセスに寄与しているか明らかにしていきたいです。」(谷口喜一郎)
研究者情報
研究者名:井垣 達吏
研究者名:谷口 喜一郎
書誌情報
【DOI】
https://doi.org/10.1371/journal.pgen.1010684
【書誌情報】
Kiichiro Taniguchi, Tatsushi Igaki (2023). Sas-Ptp10D shapes germ-line stem cell niche by facilitating JNK-mediated apoptosis. PLOS Genetics, 19(3):e1010684.