最長寿げっ歯類ハダカデバネズミでは 老化細胞が細胞死を起こすことを発見 ~種特有のセロトニン代謝制御が鍵~

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2023-07-11 熊本大学

【ポイント】

  • 老化しにくい齧歯類(げっしるい)ハダカデバネズミの線維芽細胞*1に細胞老化を誘導すると、老化細胞が細胞死を起こすことを初めて発見しました。
  • 老化細胞の細胞死には、ハダカデバネズミ特有のセロトニン代謝制御と過酸化水素(H2O2)*2への脆弱性が寄与していること、また培養下の線維芽細胞のみならず、ハダカデバネズミの体の中でも見られることが分かりました。
  • ハダカデバネズミにおける生来的な老化細胞除去機構の研究をさらに進めることで、より安全な老化細胞除去・抗老化方法の開発につながることが期待されます。

【概要説明】
熊本大学大学院生命科学研究部 老化・健康長寿学講座の河村佳見助教及び三浦恭子教授らの研究グループは、慶應義塾大学、広島大学、京都大学、星薬科大学、国立感染症研究所並びに熊本大学国際先端医学研究機構(IRCMS)消化器がん生物学研究室、同大学大学院生命科学研究部分子生理学講座及び形態構築学講座と共同で、老化耐性・がん耐性齧歯類ハダカデバネズミ(以下「デバ」という)において、老化細胞がデバ特異的なメカニズムにより細胞死を起こすことを明らかにしました。
一般に老化細胞は、不可逆的に増殖を停止した細胞で、細胞死を起こしにくく、加齢に伴い組織中に蓄積します。蓄積した老化細胞は、多様な炎症性タンパク質などを産生することで、組織の炎症、老化、そして癌を含む多様な加齢性疾患の発症を促進することが報告されてきました。デバは最大寿命が37年以上の最長寿齧歯類であり、老化及び発がんに対して耐性を持つことが知られています。しかしこれまで、デバにおける老化耐性のメカニズムについては、ほとんど明らかになっていませんでした。熊本大学大学院生命科学研究部 老化・健康長寿学講座は、日本で唯一のデバを飼育する研究室として、本種の抗老化・発がん耐性の研究を行っています。
今回、本研究グループは、デバ線維芽細胞に細胞老化を誘導すると、老化細胞がヒトやマウスなどの他の種では見られない細胞死を起こすこと、そのメカニズムとして種特異的なセロトニン代謝と過酸化水素(H2O2)への脆弱性が寄与していること、さらに同様の機構が生体内でも生じていることを明らかにしました(今回の研究のまとめ参照)。本機構は、生体内での老化細胞の蓄積を防ぐことで、デバの老化耐性、ひいてはがん耐性にも寄与している可能性があります。近年、老化細胞を除去し、老化状態を改善する「senolytic drug(老化細胞除去薬)」の開発が進められています。しかし、老化細胞には多様性があり、組織修復など生体の恒常性維持に寄与する老化細胞も報告されていることから、老化細胞除去の安全性には議論の余地があります。一方、老化耐性・がん耐性の特徴を持つデバは、生来的に老化細胞を除去する特徴を進化の過程で身につけていると考えられます。デバにおいて、いつどこで、どのような老化細胞が除去されているかを解析し、今後さらに研究を発展させることで、ヒトにおいてどのような老化細胞をいつどこで、どのように除去するべきかなど、より安全な「senolytic drug」の開発に貢献することが期待できます。
本研究成果は、科学雑誌「The EMBO Journal」に2023年7月11日(中央ヨーロッパ時間(夏時間))に掲載されます。本研究成果は、国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)「創発的研究支援事業(課題番号:JPMJFR216C)」及び「戦略的創造研究推進事業 さきがけ(課題番号:JPMJPR12M2)」、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)「老化メカニズムの解明・制御プロジェクト(分担課題名:老化耐性ハダカデバネズミ特有の細胞老化/細胞死調節機構)(課題番号:JP21gm5010001)」、文部科学省科学研究費助成事業などの支援を受けて実施したものです。

【展開】
近年、老化状態を改善するために、老化細胞を除去する「senolytic drug(老化細胞除去薬)」の開発が進められています。しかし、老化細胞が生体の恒常性維持に寄与する面も報告されており、老化細胞除去の安全性にはさらなる精査が必要です。一方、デバは、進化の過程で生来のH2O2への脆弱性と、細胞老化時に活性化する「セロトニン代謝スイッチ」を協調させ活用することで、種特有の生来的な老化細胞を除去する特徴を身につけたと考えられ、安全性の高い老化細胞除去システムを獲得していると考えられます。今後さらにデバにおける老化細胞除去機構の研究を発展させることで、ヒトにおいてどのような老化細胞をいつ、どのように除去するべきかなど、より安全な「senolytic drug」の開発への貢献などが期待できます。

【用語解説】
※1 線維芽細胞:結合組織を構成する細胞の1つで、コラーゲンなどの細胞外基質を産生し、皮膚組織や臓器の構造維持に寄与する。創傷治癒や組織修復においても重要な役割を担う。
※2 過酸化水素(H2O2):エネルギー代謝の際に発生する活性酸素の1種。DNAや脂肪酸、生体膜等を酸化し損傷する。

【論文情報】
論文名:Cellular senescence induction leads to progressive cell death via the INK4a-RB pathway in naked mole-rats
著者:Yoshimi Kawamura, Kaori Oka, Takashi Semba, Mayuko Takamori, Yuki Sugiura, Riyo Yamasaki, Yusuke Suzuki, Takeshi Chujo, Mari Nagase, Yuki Oiwa, Shusuke Fujioka, Sayuri Homma, Yuki Yamamura, Shingo Miyawaki, Minoru Narita, Takaichi Fukuda, Yusuke Sakai, Takatsugu Ishimoto, Kazuhito Tomizawa, Makoto Suematsu, Takuya Yamamoto, Hidemasa Bono, Hideyuki Okano, Kyoko Miura
掲載誌:The EMBO Journal
doi:10.15252/embj.2022111133
URL:https://www.embopress.org/doi/10.15252/embj.2022111133

【詳細】 プレスリリース(PDF7287KB)

お問い合わせ
<研究に関すること>
熊本大学大学院生命科学研究部
老化・健康長寿学講座
担当:教授 三浦 恭子

<報道に関すること>
熊本大学総務部総務課広報戦略室

細胞遺伝子工学
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