分子標的薬が有効な患者群を遺伝子変異に基づき同定 大腸がんの個別化医療につながる発見

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2019-09-12 愛知県がんセンター,国立がん研究センター

ハイライト

  • 大腸がんでは抗EGFR抗体(分子標的薬)が使用される。
  • がんゲノム検査によりこれまで明らかではなかったタイプのBRAF遺伝子変異が2-3%の大腸がんに見つかるが、抗EGFR抗体の効果は不明であった。
  • 大腸がん5000例以上を解析した国際共同研究により、BRAF遺伝子変異が3種類に分類され、そのうちの1つのタイプでは抗EGFR抗体が有効であることが示された。

愛知県がんセンターがん標的治療トランスレーショナルリサーチ分野の衣斐寛倫分野長、国立がん研究センター東病院消化管内科の吉野孝之科長のグループは、米国ハーバード大学、メモリアルスローンケタリングがんセンターとの国際共同研究により、BRAF遺伝子変異を有する大腸がんに対する新たな個別化治療を提唱することに成功しました。

研究グループは、近年遺伝子パネル検査と呼ばれる多数の遺伝子異常を同時に検討する手法が導入されたのに伴い、これまで知られていたBRAF遺伝子変異とは異なるタイプのBRAF遺伝子変異が大腸がんの2-3%に存在することに注目、これらの遺伝子変異を有する大腸がんにおいて、分子標的薬(抗EGFR抗体)が有効か検討することにしました。まず、細胞株・マウスモデルを用いた検討からBRAF遺伝子変異を3つのタイプに分類し、このうち1つのタイプでは、抗EGFR抗体が有効な可能性がある知見を得ました。このことを実際に抗EGFR抗体で治療された患者さんで検討することにしましたが、今回対象となるBRAF遺伝子変異は頻度が低く、多くの症例が必要でした。そこで、2015年から遺伝子パネル検査を用いて実施されてきた産学連携全国がんスクリーニングプロジェクトであるSCRUM-Japan GI-SCREENの基盤を活用するとともに、米国ハーバード大学およびメモリアルスローンケタリングがんセンターと国際共同研究を行うことで、日米合わせて5000例を超える症例を解析し抗EGFR抗体で治療されたBRAF遺伝子変異を有する大腸がん40例を抽出することに成功しました。これらの症例の解析により、抗EGFR抗体が、実際に特定のBRAF遺伝子変異を有する大腸がんでは有効なことを証明しました。がん遺伝子パネル検査は本年6月より保険適用となり、今後BRAF遺伝子変異を持つ大腸がんが多く見つかることが予想されます。そのような患者さんに対し、遺伝子変異の種類に応じた個別化医療が可能となることを示しました。

本研究は米国癌学会が発行するClinical Cancer Research誌に9月12日に発表されます。

研究の背景

大腸がんによる死亡者数は年間5万人程度で、男性のがん死亡の第3位、女性では第1位の原因です。進行・再発の大腸がんに対しては主に抗がん薬による薬物療法がおこなわれますが、抗EGFR抗体薬は細胞表面にあるEGFRと呼ばれるスイッチをブロックし、がん細胞が増えるのを抑制します。一方で、EGFRを抑制しても、別のタンパクに異常があると効果がなくなることもわかっており、治療前にRAS・BRAF遺伝子の異常の有無を検査し、異常がある場合には抗EGFR抗体を使用しないことになっています。最近、多数の遺伝子変異について一度に詳細に検査する遺伝子パネル検査が導入され、BRAF遺伝子にこれまで調べていた異常とは別の異常が大腸がん患者さんの2-3%に存在することが分かってきました。しかし、新たなBRAF遺伝子異常が見つかったがん患者さんに対し、抗EGFRを使用するべきかについては明らかではありませんでした。

研究内容と成果

先行していた研究および、がん細胞株、マウスを用いた実験から、BRAF遺伝子変異を3つのタイプに分類しました(図)。タイプ1は以前より抗EGFR抗体が効かなくなると考えられている変異、タイプ2とタイプ3は遺伝子パネル検査により新たに見つかる変異です。マウスの実験では、タイプ3の遺伝子変異はタイプ2と比べて、がん細胞の増殖にEGFRの関与が大きいと考えられました。従って、タイプ3では抗EGFR抗体が効く可能性が考えられました。

しかしながら、BRAF遺伝子異常のタイプ2とタイプ3の異常は、両者を合わせても2-3%と少なく、これらの患者さんにおける抗EGFR抗体の効果を検証するには多くの患者さんのデータが必要でした。このため、愛知県がんセンターに加え、国立がん研究センター東病院を中心とした産学連携全国がんスクリーニングプロジェクト(SCRUM-JAPAN GI-SCREEN)・米国メモリアルスローンケタリングがんセンター・ハーバード大学と国際共同研究を行い、5000例を超える遺伝子パネル検査を行った大腸がん症例を解析したところ、タイプ2またはタイプ3のBRAF遺伝子変異を有し抗EGFR抗体を使用された患者さんが40人見つかりました。

40人の患者さんにおける抗EGFR抗体の効果を解析したところ、タイプ2の患者さんでは12人中1人のみ効果があったのに対し、タイプ3のBRAF変異を有する患者さんでは28人中14人と多くの症例で抗EGFR抗体の効果があることが判明しました。

BRAF遺伝子変異の機能に基づく抗EFGR抗体の個別化治療の画像

遺伝子パネル検査で新たに見つかるようになったBRAF遺伝子変異症例の抽出の画像

今後の展望

本研究により、BRAF遺伝子変異のうちタイプ3に分類される遺伝子変異を有する症例では抗EGFR抗体の効果が期待できることになります。研究グループでは以前にタイプ1の遺伝子変異を有する患者さんに対し有効な治療法についても報告しており、今回の報告と合わせ、BRAF遺伝子変異を有する患者に対し遺伝子変異より個別化した有効な治療法を提示できるようになると思われます。今後も遺伝子パネル検査で見つかる様々な遺伝子異常に対応した治療法の開発を続ける予定です。

研究支援

日本学術振興会 国際共同研究加速基金
日本学術振興会 基盤研究(C)
武田科学振興財団 医学系研究助成

掲載論文

タイトル

Response to anti-EGFR therapy in patients with BRAF non-V600 mutant metastatic colorectal cancer

著者

Rona Yaeger, Daisuke Kotani, Sebastián Mondaca, Aparna Parikh, Hideaki Bando, Emily Van Seventer, Hiroya Taniguchi, HuiYong Zhao, Claire Thant, Elisa de Stanchina, Neal Rosen, Ryan B. Corcoran, Takayuki Yoshino, Zhan Yao, Hiromichi Ebi

掲載誌

Clinical Cancer Research

問合せ先

研究に関すること

愛知県がんセンター がん標的治療トランスレーショナルリサーチ分野
分野長 衣斐寛倫(えびひろみち)

広報に関すること

愛知県がんセンター 運用部経営戦略室
川津・鈴木

国立がん研究センター 企画戦略局 広報企画室(柏キャンパス)

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