「給餌フェロモン」を発見~シデムシの母親は匂いで子の餌乞いを操る~

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2019-09-12 京都大学

高田守 農学研究科・日本学術振興会特別研究員、森直樹 農学研究科教授、三高雄希 京都工芸繊維大学・日本学術振興会特別研究員、Sandra Steiger バイロイト大学教授らの研究グループは、親が子育てを行うシデムシにおいて、給餌の直前に母親が分泌し、子の餌乞い行動を引き起こす「給餌フェロモン」という新しいフェロモンを世界で初めて発見しました。
本研究成果は、子に適切な量の給餌を効率的に行うことが要求される子育ての場面において、空腹加減を伝える子の信号だけでなく、その信号を発するのに適したタイミングを伝える親の信号も必要とされることを示しており、給餌量の調節に関わる親子間コミュニケーションの進化を理解する上で重要な意味を持ちます。
本研究成果は、2019年9月12日に、国際学術誌「iScience」のオンライン版に掲載されました。

図:本研究のイメージ図

書誌情報

【DOI】 https://doi.org/10.1016/j.isci.2019.06.041

【KURENAIアクセスURL】 http://hdl.handle.net/2433/243969

Mamoru Takata, Yuki Mitaka, Sandra Steiger, Naoki Mori (2019). A Parental Volatile Pheromone Triggers Offspring Begging in a Burying Beetle. iScience.

詳しい研究内容について

「給餌フェロモン」を発見
―シデムシの母親は匂いで子の餌乞いを操る―

概要
京都大学大学院農学研究科 高田守 日本学術振興会特別研究員、京都工芸繊維大学生物資源フィールド科学 研究部門 三高雄希 同特別研究員、バイロイト大学進化動物生態学研究科 Sandra Steiger 教授、京都大学大 学院農学研究科 森直樹 教授らの研究グループは、親が子育てを行うシデムシにおいて、給餌の直前に母親が 分泌し、子の餌乞い行動 おねだり)を引き起こす 給餌フェロモン」という新しいフェロモンを世界で初め て発見しました。今回の研究成果は、子に適切な量の給餌を効率的に行うことが要求される子育ての場面にお いて、空腹加減を伝える子の信号だけでなく、その信号を発するのに適したタイミングを伝える親の信号も必 要とされることを示しており、給餌量の調節に関わる親子間コミュニケーションの進化を理解する上で重要な 意味を持ちます。
本研究成果は、2019 年 9 月 12 日に米国の国際学術誌 iScience」にオンライン掲載されました。

1.背景
親が食事を与えて子どもを育てる生き物は、哺乳類や鳥類だけでなく、昆虫を含めた多様な分類群で見つか っています。どの生き物でも、健康的な子どもを育てるためには、子どもが必要としている時に必要な量の食 べ物を効率的に運ばなければなりませんが、どうやってそれを実現しているのでしょうか?人間の乳児が泣き 声でどれくらい空腹なのかを知らせるように、空腹加減を示す信号を子どもが発するなら、それに応じて親が 給餌を行うことができそうです。しかし、このような子どもから始まるコミュニケーションだけでは、給餌の 準備ができていない親に無駄に空腹を訴え続けて、消耗する事態が生じてしまうことが予測されます。したが って、給餌の準備ができていることを示す親の合図が存在し、それに応じて子が空腹を訴えるという、親から 始まるコミュニケーションが必要であると考えられます。
この親子間のコミュニケーションの実態を調べるのに適した材料が、子育てを行うモンシデムシという甲虫 です。モンシデムシ属の仲間は、ネズミや小鳥などの小動物の死肉を見つけると地中に埋め、死肉の一部を食 べて消化した液体を子どもに口移しで給餌しながら、母親と父親が協力して幼虫を育てます。この給餌物は幼 虫の生存 成長にほぼ不可欠で、不足すると死んでしまいます。そのため、幼虫は空腹になると、伸び上がっ て親の口元を脚で刺激することで餌乞いを行い、空腹加減を親に伝えます。また、彼らの子育ては光の届かな い地中で行われるため、親同士は特別な匂い フェロモン)を用いてコミュニケーションをとっていることが 知られています。よって、空腹を訴えるのに適したタイミングを示す親の合図が存在するならば、フェロモン が用いられていることが推測されます。そこで、モンシデムシ属の一種であるヨツボシモンシデムシを用いて、 餌乞いを引き起こす匂いを親が発するのか、もし発しているならその匂い成分の正体は何なのか、実験的に検 証しました。なお、検証の際は話を単純化するため、母親とその子ども達だけの家族を用いて行いました。

2.研究手法・成果
ヨツボシモンシデムシの子育て行動をビデオ観察したところ、幼虫たちは母親の給餌が起こる直前に一斉に 餌乞い行動を示すことがわかりました。これは、幼虫の餌乞いが母親の合図に反応して行われていることを意 味します。そこで、給餌が起こる直前に母親が特別な匂いを発しているか調査するため、幼虫から餌乞いされ ていた母親と、そうでない母親の体表面にある物質を有機溶媒で抽出し、GC-MS 分析により比較しました。 その結果、2-フェノキシエタノールという揮発性物質が餌乞いされていた母親に多く含まれることが明らかに なりました。しかも興味深いことに、2-フェノキシエタノールは母親の給餌物の中に高濃度で含まれていまし た。つまり、幼虫にとって、2-フェノキシエタノールは食べ物の存在を示す匂いに当たると考えられます。
次に、2-フェノキシエタノールが幼虫の餌乞い行動を引き起こすのか調査しました。親から隔離して少し空 腹にしておいた幼虫に、人工合成された 2-フェノキシエタノールの匂いを呈示してみたところ、餌乞い行動が 引き起こされることが確認されました。
これらの結果から、母親は給餌のタイミングを 2-フェノキシエタノールを放出することにより伝えており、 子の餌乞いはこれを受けて行われることがわかりました。このような機能を持つフェロモンは今までに報告が 無く、これまでのフェロモンのカテゴリには分類できなかったため、 給餌フェロモン」という名前を付けま した。給餌フェロモンの発見により、親がフェロモンを用いて餌乞いに適したタイミングを子どもに伝え、そ れに対して子どもが親に給餌をねだるという、親子間コミュニケーションの新たな側面が明らかになりました。

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