植物ミトコンドリアと葉緑体の傷ついたDNAを修復する仕組みの一端を解明

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2020-12-07 国立遺伝学研究所

Holliday junction resolvase MOC1 maintains plastid and mitochondrial genome integrity in algae and bryophytes

Yusuke Kobayashi, Masaki Odahara, Yasuhiko Sekine, Takashi Hamaji, Sumire Fujiwara, Yoshiki Nishimura, Shin-ya Miyagishima

Plant Physiology 184, 1870-1883 (2020) DOI:10.1104/pp.20.00763

地球上の多くの生命を支える植物細胞には、呼吸を行うミトコンドリアと光合成を行う葉緑体という細胞内小器官があります。これらは、今から10〜20億年前にプロテオバクテリアとシアノバクテリアが細胞内に共生することによって誕生したと考えられており、それぞれ独自のゲノムDNAを持っています。ミトコンドリアと葉緑体のDNAには呼吸や光合成に重要な遺伝子がコードされており、DNAに傷が蓄積すると呼吸や光合成ができなくなり、最終的には植物は死んでしまいます。しかしながらこれまで、植物のミトコンドリアや葉緑体のDNAに生じた損傷がどのように修復されるのか、よくわかっていませんでした。今回、茨城大学大学院理工学研究科理学野の小林優介助教(前遺伝研 学術振興会特別研究員)を中心とした、茨城大学、国立遺伝学研究所、理化学研究所、京都大学、産業技術総合研究所からなる研究グループは、植物のミトコンドリアと葉緑体のDNAの傷を修復する仕組みの一端を明らかにしました。

傷ついたDNAを修復する代表的な機構として、相同組換え経路があります(図1A)。相同組換えでは、傷ついたDNAを同じ情報を持つDNA(相同DNA)を鋳型として利用することで修復します。相同組換えはRECAと呼ばれる組換え酵素がHollidayジャンクションと呼ばれる組換え中間体を形成することで開始され、さらにこのHollidayジャンクションが、ハサミとして機能する酵素によって切断されることで終結します(図1A)。我々は最近、葉緑体DNAが不均等分配される変異体の解析から、真核藻類と植物のみが有する葉緑体局在型のHollidayジャンクション切断酵素MOC1を発見しました (Kobayashi et al., Science 2017)。(1)しかしながら、MOC1が葉緑体DNAの相同組換え修復に関わるかどうか不明でした。(2)さらに、酵母では、ミトコンドリア型のHollidayジャンクション切断酵素CCE1が見つかっていましたが、他の生物においてはCCE1をはじめとするミトコンドリア型のHollidayジャンクション解消酵素は見つかっておらず、植物ミトコンドリアにおけるHollidayジャンクション解消機構は謎のままでした。

(1)我々はまず単細胞性藻類のクラミドモナスを用いて、MOC1が葉緑体DNAの相同組換えによる修復に寄与していることを明らかにしました。また、(2)シャジク藻類、苔類、蘚類、シダ類に加えて一部の種子植物において、MOC1が葉緑体だけでなくミトコンドリアにも局在することを示唆する結果を得ました。さらに、蘚類ヒメツリガネゴケにおいてMOC1が葉緑体とミトコンドリアの両方に局在すること、葉緑体とミトコンドリア双方のにおいてDNA修復に関与することを明らかにしました。一方で、MOC1がミトコンドリアに局在しない植物種もあり、植物ミトコンドリアの相同組換え機構が多様化していることも明らかになりました(図1B)。

本研究は、科学研究費補助金、日本学術振興会特別研究員奨励費(18J01993)、若手研究(20K15812)と基盤研究A(17H01446)などの助成によって実施されました。

Figure1

図:植物ミトコンドリアと葉緑体のDNA修復機構とその進化。A、DNA 相同組換えとHollidayジャンクション形成過程の模式図。MOC1はHollidayジャンクションを切断するハサミとして機能する。B,本研究の結果から示唆される、植物ミトコンドリアと葉緑体における相同組換え機構の進化。陸上植物進化の初期に分岐した植物種では、MOC1はミトコンドリアと葉緑体の相同組換えに必要であるが、その後、ミトコンドリアの相同組換えにMOC1を必要としない植物種が誕生したと考えられる。一方で、MOC1の葉緑体局在は藻類から植物まで観察されたことから、葉緑体におけるHollidayジャンクション解消機構は高度に保存されていると考えられる。

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