2023-11-08 国立成育医療研究センター
国立成育医療研究センター(所在地:東京都世田谷区大蔵、理事長:五十嵐隆)小児がんセンターの富澤大輔、京都大学 大学院医学研究科(所在地:京都市左京区吉田近衛町、総長: 湊長博)の足立壮一・平松英文・田中司朗、三重大学 医学部附属病院(所在地:三重県津市江戸橋、学長:伊藤正明)の岩本彰太郎らが中心となり、特定非営利活動法人日本小児がん研究グループ(JCCG)が小児急性骨髄性白血病(AML)[1]に対する臨床試験(臨床試験名:AML-12)を実施しました。本試験では18歳までの小児AML患者を対象に、初回の化学療法コースにおいて、AML治療で最も重要な抗がん剤であるシタラビンの大量療法と通常量療法の優劣について無作為比較試験[2]が行われました。さらに、白血病の再発予測因子として、通常の検査法では判定が困難な微小なレベルの残存白血病をフローサイトメトリー法[3]で検出する、微小残存病変(MRD)[4]の意義を調べました。その結果、過去に世界中で報告された小児AMLの治療成績の中でも最良の成績が得られたほか、MRDが最も強力な再発予測因子であることが明らかになりました。本試験で得られた成果により、多くの小児AMLの患者が最適な治療を受けることが可能になり、今後の治療成績の向上と晩期合併症の軽減の両立につながることが期待されます。本研究成果は、白血病の国際的な学術専門誌Leukemiaに2023年11月6日にオンライン掲載されました。
[1]急性骨髄性白血病(AML)とは、骨髄中で異常な血液細胞が多数つくられる「血液のがん」のこと。日本では1年間におよそ180人のお子さんが発症しています。
[2]無作為比較試験とは、研究の対象者を2つ以上のグループにランダムに分け、治療法などの効果を検証すること。
[3]フローサイトメトリー法とは、専用の測定機器を用いて、細胞の表面や内部に発現しているタンパク質(表面マーカー)を解析する方法のこと。
[4]微小残存病変(MRD)とは、抗がん剤の投与などにより一定の治療効果が確認された後でも、患者の体内に依然として残っている微小なレベルのがん病変(細胞)のこと。
【図1.AML-12臨床試験の概要】
プレスリリースのポイント
- 全国103の医療機関が参加した本臨床試験の結果、3年無イベント生存率[5]が63.1%、3年全生存率[6]が80.3%と、過去に世界中で報告された小児AMLの治療成績の中でも最良の成績が得られました。
- 本試験では、小児のAMLに対して、初回の化学療法コースで大量シタラビン療法を使用することによって、従来の通常量シタラビン療法を使用する方法よりも治療成績が向上するかを、無作為比較試験を行って調べました。しかし、大量シタラビン療法の使用による治療成績の向上は得られず、従来から使用している抗がん剤を強める方法では、いま以上の治療成績向上が困難であることがわかりました。
- 従来は顕微鏡を用いて骨髄中の残存白血病の有無を確認する方法で再発リスクの予測をしていましたが、本試験ではフローサイトメトリー法を用いて白血病細胞固有の表面マーカーを調べることで、より微小なレベルの残存白血病の有無を確認するMRDの検出が、再発予測に有用かどうかを調べました。その結果、MRDが最も強力な再発予測因子であることがわかりました。
- AMLの治療では、複数の再発予測因子を組み合わせて、化学療法のみで治療を行うのか、同種造血幹細胞移植[7]を含めた治療を行うのかを決定します。同種造血幹細胞移植は白血病に対して有効な治療法である一方で、様々な晩期合併症[8]の原因になります。今後、本試験の結果に基づいて、MRDを用いた正確な再発予測に基づき、新規薬剤の導入も含めた適切な治療選択を行うことで、さらなる治療成績の向上と晩期合併症の軽減の両立につながることが期待できます。
[5]無イベント生存率とは、がんの再発を認めない状態で生存している患者の割合のこと。
[6]全生存率とは、その時点で生存している患者の割合のこと。
[7]同種造血幹細胞移植とは、白血球の型が一致した健康成人から骨髄を採取し、大量抗がん剤治療などを受けた直後の患者に輸注する治療のこと。骨髄移植とも呼ばれています。骨髄のかわりに、末梢血から採取した造血細胞(末梢血幹細胞移植)や赤ちゃんのへその緒に含まれる血液(臍帯血移植)を移植する方法もあります。
[8]晩期合併症とは、病気の治癒後に、病気自体もしくはその病気に対して行った治療が原因で生じる健康障害のこと。特に、同種造血幹細胞移植を実施した場合には、低身長や不妊症、臓器障害などが生じるリスクがあります。
【図2.AML-12臨床試験の治療成績】
発表論文情報
論文タイトル:High-dose cytarabine induction therapy and flow cytometric measurable residual disease monitoring for children with acute myeloid leukemia
主な著者:富澤大輔1)、岩本彰太郎2)、平松英文3)、田中司朗4)、足立壮一5)
所属:
1)国立成育医療研究センター 小児がんセンター 血液腫瘍科
2)三重大学医学部附属病院 小児科/小児・AYAがんトータルケアセンター
3)京都大学大学院医学研究科 発達小児科学
4)京都大学大学院医学研究科 臨床統計学
5)京都大学大学院医学研究科 人間健康科学系専攻
掲載誌:Leukemia(https://www.nature.com/leu/)impact factor (2023): 11.4
DOI:https://doi.org/10.1038/s41375-023-02075-9
掲載日:2023年11月6日
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本件に関する取材連絡先
- 国立成育医療研究センター 企画戦略局 広報企画室