2023-11-10 東北大学
大学院医学系研究科糖尿病代謝内科学分野 准教授 今井淳太
【発表のポイント】
- 脳と膵臓(すいぞう)をつなぐ自律神経を個別に刺激する方法を独自に開発し、これにより、マウスにおいてインスリンを作る細胞を増やせることを発見した。
- インスリン産生細胞が減ってしまった糖尿病マウスの自律神経を刺激することで、インスリン産生細胞を再生し治療することに成功した。
- 自律神経刺激によってインスリン産生細胞を増やす糖尿病治療法・予防法の開発や、インスリンを作る細胞の数や働きを調節するメカニズムの解明が進むことが期待される。
【概要】
多くの糖尿病は、血糖値を下げるホルモン(インスリン)を産生する唯一の細胞である膵臓のβ細胞(注1)が減少することで血糖値が上昇し発症します。このβ細胞を体内で増やす治療法が世界中で求められていますが、現在のところ開発されていません。
東北大学大学院医学系研究科糖尿病代謝内科学分野および東北大学病院糖尿病代謝科の今井淳太准教授、川名洋平助教、片桐秀樹教授らのグループは、マウスにおいて、脳と膵臓をつなぐ自律神経の一種である迷走神経(注2)(膵臓迷走神経)を刺激することで、体の中でβ細胞を増やすことが可能であることを世界で初めて発見しました。本研究ではオプトジェネティクスという手法を用い、光によって膵臓迷走神経を刺激する方法(注3)を開発しました。さらに、インスリンが減って糖尿病を発症しているマウスの膵臓迷走神経をこの方法を用いて刺激することで、β細胞を再生し、マウス糖尿病を治療することにも成功しました。この成果により、膵臓迷走神経刺激によってβ細胞を増やすという糖尿病の根本的な予防・治療法の開発につながることが大いに期待されます。また、β細胞の数や働きを調節する仕組みや糖尿病発症のメカニズムの解明も進むものと考えられます。
本研究成果は、2023年11月9日午後4時(ロンドン時間、日本時間11月10日午前1時)Nature Biomedical Engineering誌に掲載されました。
図1. マウスの膵臓の迷走神経を青色光で活性化することにより、血中のインスリンとβ細胞数を増やすことに成功。
写真:β細胞(緑)の集まりが膵臓のランゲルハンス島、増えているβ細胞の核(ピンク、白色の矢頭)。
【用語解説】
注1. β細胞:血糖値を下げるホルモンであるインスリンを作る体内唯一の細胞。ランゲルハンス島といわれる膵臓の中にある多くの島状の部位に集まって存在する。食事に応じ、インスリンを血中に放出(分泌)する働きにより、食前は血糖値が下がりすぎず、食後の血糖値の上昇を抑えることができる。このβ細胞の働きが悪くなったり、数が減ったりすることで、糖尿病が発症することが知られている。
注2.迷走神経:脳から心臓や肺、腹部内臓などの末梢器官に情報を伝達する自律神経の一種。自律神経は交感神経と副交感神経に分類され、迷走神経は副交感神経の一種。心拍数や血圧を低下させる、消化管の運動を促すなどの働きがある。
注3. 光によって膵臓迷走神経を刺激する方法:本研究ではオプトジェネティクス(光遺伝学)と呼ばれる「青い光を当てると神経が活性化される」という手法を活用している。まず、迷走神経に青い光を当てるとその神経が活性化するように遺伝子改変されたマウスを作製した。次に、近赤外光が当たると青い光を発する物質(ランタノイド粒子)をそのマウスの膵臓に留置した。近赤外光は体を透過する光であり、体外から近赤外光を当てた時だけ、膵臓が青く光り、膵臓迷走神経が活性化する(図2)。この独自の手法の開発により、生きたマウスに対し、意図したタイミングで膵臓につながる迷走神経だけを刺激することが可能となった。
問い合わせ先
(研究に関すること)
東北大学大学院医学系研究科
糖尿病代謝内科学分野
准教授 今井 淳太(いまい じゅんた)
(報道に関すること)
東北大学大学院医学系研究科・医学部広報室