2024-06-18 東京大学
【発表のポイント】
- 卵子の細胞骨格構成因子の1つであるNLRP5蛋白質がDNAメチル化維持に必須のUHRF1蛋白質と結合し、安定化する事を発見しました。
- 卵子の細胞骨格構成因子の変異が原因で起こる多遺伝子座インプリンティング異常症(MLID)は、複数のインプリンティング制御領域のメチル化が低下する病気です。今回、長年の謎であった細胞骨格とDNAメチル化をつなぐ糸口を世界で初めて見出しました。
- 今回の結果より、MLIDの原因遺伝子に変異を持つ女性が健康な子供を授かる方法が見つかる事が期待されます。
【概要】
東京大学 大学院医学系研究科 国際保健学専攻の鵜木元香准教授と、九州大学 生体防御医学研究所の佐々木裕之名誉教授・特別主幹教授らによる研究グループは、卵子の細胞骨格を構成する蛋白質(SCMC)(注1)の変異が、多遺伝子座インプリンティング異常症(MLID)(注2)を引き起こす分子メカニズムに迫る重要な発見をしました。
本研究ではDNAに付加されたメチル化修飾の維持に重要なUHRF1蛋白質(注3)の卵子における局在を模した細胞を作製する事で、SCMCの1つであるNLRP5が細胞質でも核でもUHRF1蛋白質を安定化する事を世界で初めて見出しました。この研究成果は、細胞質において安定化したUHRF1の一部が核内に移行する可能性を示唆しており、今後SCMC構成蛋白質をコードする遺伝子に変異を持つ女性が子供を希望する場合に、核置換法(注4)を用いて、卵子もしくは受精卵の細胞質を正常にする事で、細胞質のUHRF1が核内移行してインプリンティング制御領域(ICR)のメチル化を維持し、健康な子供を授かれる可能性を示唆しています。