ヒトの着床に関わる新たな制御機構を解明

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2024-07-12 山口大学

発表のポイント
  • 核内アクチンの挙動を可視化できる子宮内膜間質細胞を樹立し、着床や妊娠の維持に必須である脱落膜化現象の研究に使用しました。
  • ヒト胚の着床に必要となる脱落膜化が、細胞核内でのアクチンタンパク質の動態変化によって制御されることを世界で初めて明らかにしました。
  • また、核内アクチン集合体を制御する因子として、転写因子C/EBPβを同定しました。
  • ヒトの着床に関わる新たな機構が明らかになるとともに、着床不全による不妊症患者に対する治療法の開発に貢献することが期待されます。
概要

山口大学の大学院医学系研究科(医学専攻)産科婦人科学講座(田村 功講師、杉野 法広教授)と九州大学の大学院農学研究院繁殖生理学分野(宮本 圭教授:2024年3月まで近畿大学所属)の研究グループは、ヒト胚の着床に必要となる脱落膜化という現象が、細胞核内でのアクチンタンパク質の動態変化によって制御されることを世界で初めて明らかにしました。
着床とは、受精卵が子宮内膜に接着・浸潤する妊娠成立のための最初のステップです。この過程では、子宮内膜で様々な変化が誘導され受精卵を受け入れることができるようになります。そのうちの一つである子宮内膜間質細胞の脱落膜化は、ホルモンの影響により細胞が機能的にも形態学的にも劇的に変化する特有の現象であり、着床や妊娠の維持に必須の現象です。脱落膜化が障害された場合は、受精卵を受け入れることができず着床不全となり不妊症となります。この脱落膜化の調節機構は未だ完全には明らかにされていません。
近年、細胞骨格の構成組織であるアクチンタンパク質は、細胞質だけではなく核内にも存在することが明らかとなってきており、その遺伝子発現制御への役割が着目されています。研究グループは、脱落膜化を受けるヒト細胞核内の変化を観察したところ、アクチンが重合し繊維化した特殊な構造体が出来上がることを発見しました。またこの核内アクチンの繊維化は、脱落膜化の誘導に重要な役割を持っていることを示しました。本研究によってヒトの着床に関わる新たな機構が明らかになるとともに、着床不全による不妊症患者に対する治療法の開発に貢献することが期待されます。

ヒトの着床に関わる新たな制御機構を解明

本研究は、文部科学省科学研究費補助金による研究課題『核内Fアクチン形成によるヒト子宮内膜間質細胞の脱落膜化機構の解明』(研究代表者:田村 功)、文部科学省科学研究費補助金その他9件、文部科学省科学研究費補助金による研究課題『全能性細胞の核構築原理』、および武田科学振興財団 ライフサイエンス研究継続助成による研究課題『核内アクチンタンパク質の生物学的意義の解明への助成』(研究代表者:宮本 圭)の支援を受けて行われました。
本研究成果は、2024年7月11日付(ロンドン時間午前10時)で、 Communications Biologyに掲載されました。

研究の詳細はこちら

論文題目と著者
  • 論文名:Nuclear actin assembly is an integral part of decidualization in human endometrial stromal cells
    「核内アクチン集合体形成はヒト子宮内膜間質細胞の脱落膜化の調節機構の一つである」
  • 著 者:Isao Tamura, Kei Miyamoto, Chiharu Hatanaka, Amon Shiroshita, Taishi Fujimura, Yuichiro Shirafuta, Yumiko Mihara, Ryo Maekawa, Toshiaki Taketani, Shun Sato, Kazuya Matsumoto, Hiroshi Tamura, Norihiro Sugino
    田村 功(責任著者)、宮本圭(共第一著者、責任著者)、畑中千春、城下亜文、藤村大志、白蓋雄一郎、三原由実子、前川亮、竹谷俊明、佐藤 俊、松本和也、田村博史、杉野法広
  • 掲載誌:Communications Biology
  • 掲載日:2024年7月11日付(ロンドン時間午前10時)
  • D O I:10.1038/s42003-024-06492-z
医療・健康
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