終末糖化産物は統合失調症における認知機能障害のうち処理速度の低下と関連する

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2021-08-31 東京都医学総合研究所,日本医療研究開発機構

公益財団法人東京都医学総合研究所統合失調症プロジェクトの小堀晶子非常勤研究員、宮下光弘主席研究員、糸川昌成副所長、新井誠プロジェクトリーダーらは、統合失調症における認知機能障害のうち処理速度の低下と終末糖化産物(Advanced glycation end-products; AGEs)が関連することを明らかにしました。

本研究は、日本医療研究開発機構(AMED)脳科学研究戦略推進プログラム 発達障害・統合失調症等の克服に関する研究(発達障害・統合失調症・てんかん等の鑑別、病態、早期診断技術及び新しい疾患概念に基づいた革新的治療・予防法の開発)、日本学術振興会(JSPS)科学研究費助成事業の研究助成により実施しました。

この研究成果は、2021年5月26日(米国東部時間)に米国科学誌『PLOS ONE』にオンライン掲載されました。

発表のポイント
  • 統合失調症における終末糖化産物(Advanced glycation end-products; AGEs)※ と認知機能障害の関連を検証した。
  • AGEsの値が大きいほど処理速度の低下と有意に関連した。年齢、性別、Body mass index、教育年数、抗精神病薬量や精神病症状などの交絡要因を調整した後も、有意な関連は残った。
研究の背景

統合失調症は思春期に多く発症し、慢性的に経過する疾患と解釈されてきましたが、現在では、症状があっても病気と上手に付き合うことで、自分らしい生活を送ることが達成できる(リカバリー)と考えられています。統合失調症の症状として、幻覚妄想や意欲減退などがよく知られていますが、最近では認知機能障害が重要な症状として認識されています。認知機能障害は社会機能と密接に関係し引用文献1、とくに就労状況に影響を及ぼします引用文献2。私たちはこれまで、統合失調症患者の末梢血中の終末糖化産物(Advanced glycation end-products; AGEs)が健常者と比較して有意に高いことを報告してきましたが引用文献3、AGEsと認知機能障害との関連は検証されていませんでした。

発表内容

本研究では、AGEsと認知機能障害との関連を明らかにするために、58人の統合失調症の患者さんにご協力いただき、代表的なAGEsであるペントシジンの血液中の濃度を測定し、同時に心理士による認知機能の評価を行いました。認知機能は年齢、性別、教育年数、内服している抗精神病薬の量や精神病症状の影響をうけるため、これらの影響を考慮した統計解析を行って、ペントシジンが認知機能と関連するかどうか検証しました。その結果、ペントシジンの値が大きいほど、処理速度が低下していることを見出しました引用文献4(表1:標準偏回帰係数,-0.379; P値, 0.009)。この負の関連は、年齢、性別、Body mass index、教育年数、抗精神病薬量、マンチェスター精神病尺度を交絡因子とした解析モデルを適応した場合にも示されました(標準編回帰係数,-0.425; P値, 0.009)。

処理速度は、日常生活、特に仕事をする場面で役に立つ認知機能です。治療によってAGEsの増加を抑えることができれば、就職や仕事の継続に良い影響がもたらされる可能性が高まり、リカバリーの促進が期待されるかもしれません。

表1 ペントシジンや他の交絡因子と認知機能の関係

交絡因子で調整を
していないモデル
交絡因子として年齢、性別、
Body mass index、
教育年数、抗精神病薬量、
マンチェスター精神病尺度を
調整したモデル
標準偏回帰
係数
p値* 標準偏回帰
係数
p値*
ペントシジン
(ng/ml)
-0.379 0.009 -0.425 0.009
年齢(歳) 0.186 0.594
性別 -0.109 >.99
Body mass index(%) 0.091 >.99
教育年数(年) 0.173 0.567
抗精神病薬量(mg/day、
CP換算)
0.02 >.99
マンチェスター
精神病尺度
(合計得点)
-0.048 >.99

 

論文情報
“Advanced glycation end products and cognitive impairment in schizophrenia”
終末糖化産物は統合失調症における認知機能障害のうち処理速度の低下と関連する
発表雑誌
PLoS One. 2021 May 26;16(5):e0251283.
doi
10.1371/journal.pone.0251283. eCollection 2021.
URL
https://doi.org/10.1371/journal.pone.0251283
用語解説
※終末糖化産物
タンパク質と糖が反応して産生される物質の総称。代表的なもののひとつとしてペントシジンがある。毒性を持ち、老化や 糖尿病等さまざまな疾患との関連が指摘されている。ペントシジン以外の終末糖化産物としてcarboxymethyllysine(CML)やmethylglyoxal-derived hydroimidazolone(MG-H1)などが知られる。ペントシジンが有する蛍光性を利用して試料中に含まれる量を高速液体クロマトグラフィー(HPLC)によって安定して定量が可能である。
引用文献
  1. Green MF, Kern RS, Braff DL, Mintz J. Neurocognitive deficits and functional outcome in schizophrenia: are we measuring the “right stuff”? Schizophr Bull . 2000; 26: 119-136.
  2. Wykes T, Huddy V, Cellard C, McGurk SR, Czobor P. A meta-analysis of cognitive remediation for schizophrenia: methodology and effect sizes. Am J Psychiatry. 2011; 168: 472-485.
  3. Arai M, Yuzawa H, Nohara I, Ohnishi T, Obata N, Iwayama Y, Haga S, Toyota T, Ujike H, Arai M, Ichikawa T, Nishida A, Tanaka Y, Furukawa A, Aikawa Y, Kuroda O, Niizato K, Izawa R, Nakamura K, Mori N, Matsuzawa D, Hashimoto K, Iyo M, Sora I, Matsushita M, Okazaki Y, Yoshikawa T, Miyata T, Itokawa M. Enhanced carbonyl stress in a subpopulation of schizophrenia. Arch Gen Psychiatry. 2010; 67:589-97.
  4. Akiko Kobori*, Mitsuhiro Miyashita*, Yasuhiro Miyano, Kazuhiro Suzuki, Kazuya Toriumi, Kazuhiro Niizato, Kenichi Oshima, Atsushi Imai, Yukihiro Nagase, Akane Yoshikawa, Yasue Horiuchi, Syudo Yamasaki, Atsushi Nishida, Satoshi Usami, Shunya Takizawa, Masanari Itokawa, Heii Arai, Makoto Arai. Advanced glycation end products and cognitive impairment in schizophrenia. PLOS ONE, 2021 May 26;16(5):e0251283.
    *these authors equally contributed to the manuscript.
お問い合わせ先

研究に関すること
東京都医学総合研究所
糸川昌成 副所長
新井誠 副参事研究員

東京都医学総合研究所に関すること
東京都医学総合研究所
事務局研究推進課:武仲・大井

AMEDに関すること
日本医療研究開発機構
疾患基礎研究事業部 疾患基礎研究課

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