アトピー性皮膚炎発症の新しい遺伝因子~遺伝要因が影響する細胞も同定~

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2021-06-09 理化学研究所,東京大学,静岡県立総合病院,静岡県立大学,日本医療研究開発機構

理化学研究所(理研)生命医科学研究センターゲノム解析応用研究チームの寺尾知可史チームリーダー(静岡県立総合病院免疫研究部長、静岡県立大学特任教授)、田中奈緒大学院生リサーチ・アソシエイト、自己免疫疾患研究チームの山本一彦チームリーダーらの研究グループは、日本人のアトピー性皮膚炎を対象にした大規模なゲノムワイド関連解析(GWAS)[1]を行い、アトピー性皮膚炎の病態に関わる新しい遺伝因子を特定しました。

本研究成果は、アトピー性皮膚炎の治療標的となる病態の解明につながると期待できます。

アトピー性皮膚炎は世界的に発症頻度の高いアレルギー性疾患であり、その高い遺伝率から、遺伝的要因が病態形成に大きく影響すると考えられています。

今回、研究グループは、バイオバンク・ジャパン(BBJ)[2]に登録された約12万人のデータを対象に、アジア人のアトピー性皮膚炎としては最大規模のGWASを行い、四つの新しい疾患関連領域を同定しました。加えて、UKバイオバンク[3]のGWAS結果とのメタ解析[4]により、さらに四つの新たな疾患関連領域を同定しました。また、NLRP10領域とCCDC80領域については、数多くの多型の中から原因多型の可能性の高いものを同定しました。同定した二つの一塩基多型(SNP)[5]は日本人でのみ疾患との関連が認められています。その一方で、日本人とヨーロッパ人に共通して、免疫細胞や皮膚細胞がアトピー性皮膚炎の遺伝的要因に関わる主要な細胞種であることが明らかになりました。

本研究は、科学雑誌『Journal of Allergy and Clinical Immunology』(6月8日付)に掲載されました。

アトピー性皮膚炎の遺伝的要因に関する本研究の全体図

背景

アトピー性皮膚炎は世界的に発症頻度の高いアレルギー性疾患であり、その高い遺伝率から注1)、遺伝的要因がその病態形成に大きく影響すると考えられています。近年、他の多くの疾患と同様にアトピー性皮膚炎に対しても、ゲノムワイド関連解析(GWAS)などの遺伝学的解析が行われており、アトピー性皮膚炎の疾患関連領域が多く同定されていますが、アトピー性皮膚炎の遺伝学的背景を説明する材料としては不十分でした。特に、アジア人の解析で同定された疾患関連領域は少なく、その中でも特に病態に関わる一塩基多型(SNP)は特定されていませんでした。

そこで、研究グループは日本人を対象に大規模なGWASを行い、さらにUKバイオバンクのGWAS結果を用いてメタ解析を行うことで、新たな疾患関連領域を探索しました。

注1)Elmose C, Thomsen SF. Twin Studies of Atopic Dermatitis: Interpretations and Applications in the Filaggrin Era. J Allergy (Cairo) 2015; 2015:902359.

研究手法と成果

研究グループは、バイオバンク・ジャパン(BBJ)の登録者のうち、アトピー性皮膚炎患者2,639人とコントロール群11万5648人(計11万8287人)を対象にGWASを行いました。その際、DNAマイクロアレイ[6]のデータからさらに多くの遺伝的バリアント(個人間のゲノムDNA配列の違いがある部分)の情報を推定するインピュテーション法[7]の精度を上げるため、インピュテーション法に用いる参考配列を約3,000人分の日本人特有の低頻度、あるいは稀な遺伝的バリアントを多く含むデータにしました。これにより、従来よりも多くの遺伝的バリアントを解析対象とすることができました。

解析の結果、過去に行われたBBJのアトピー性皮膚炎のGWAS注2)よりも9個多い、17個の疾患関連領域を同定しました。そのうち、4領域(AFF1、ITGB8、EHMT1、EGR2)はこれまで報告されていないものでした(図1)。今回新たに同定した疾患関連領域中のSNPは、ヨーロッパ人では極めて頻度が低く、日本人においても頻度が低かったことから、日本人の大規模解析を行ったからこそ見つけられた関連領域であると考えられます。ほかにも、これまでヨーロッパ人の解析では報告されたものの、アジア人では不明だったIL13などの領域にも関連を見いだし、ヨーロッパ人とアジア人で疾患発症に関わる共通の遺伝的背景を明らかにしました。また、遺伝子単位で遺伝的バリアントの情報を統合したうえで解析したところ、免疫に関わる重要な転写因子[8]SMAD4も疾患に関連することが分かりました。

注2)Hirota T, Takahashi A, Kubo M, Tsunoda T, Tomita K, Sakashita M, et al. Genome-wide association study identifies eight new susceptibility loci for atopic dermatitis in the Japanese population. Nat Genet 2012; 44:1222-6

日本人のアトピー性皮膚炎GWASのマンハッタンプロットの図

図1 日本人のアトピー性皮膚炎GWASのマンハッタンプロット

解析対象となった全ゲノム領域のp値をプロット。点線がp 値=5.0×10-8のゲノムワイド有意水準に該当する。今回、全部で17領域が有意水準を満たし、そのうちピンクで示す四つが新規領域であった。


また、UKバイオバンクのデータとともにメタ解析を行った結果、さらに新たな疾患関連領域として4領域(ZBTB38、LOC105755953/LOC101928272、TRAF3、IQGAP1)を同定しました(図2)。これらは、ヨーロッパ人集団と共通した疾患関連領域であるために見つかったと考えられます。

日本人とUKバイオバンクデータのメタ解析のマンハッタンプロットの図

図2 日本人とUKバイオバンクデータのメタ解析のマンハッタンプロット

解析対象となった全ゲノム領域のp値をプロット。点線がp値=5.0×10-8のゲノムワイド有意水準に該当する。今回、全部で39領域が有意水準を満たし、そのうち赤で示す四つが新規領域であった。


次に、これらの疾患関連領域のうちSNPが影響を及ぼす疾患関連メカニズムを調べたところ、自然免疫に関連するNLRP10領域にアミノ酸配列に変化を起こすミスセンス変異[9]がありました。このミスセンス変異が存在するNACHTドメインは、過去に免疫反応に重要な転写因子TNIP1の結合部位として報告されており、このドメイン内の変異がアトピー性皮膚炎における免疫反応にも影響を持つ可能性が示されました。

また、理研の研究チームが2020年に開発した機械学習[10]の手法を用いて注3)、遺伝制御領域[11]の活性に影響を与えるSNPを調べました。この手法では、従来の遺伝子発現とSNPの関連解析(eQTL)[12]では検索しきれない稀な多型について、FANTOM5注4)プロジェクトで同定された遺伝子制御領域の活性への直接的な効果を細胞種ごとに推測できます。今回、日本人のアトピー性皮膚炎との関連があったSNPに、CCDC80領域のエンハンサー[11]に重なるものが複数存在しましたが、機械学習による解析からそのエンハンサー活性を変化させるSNP(rs12637953)があることが分かり、その影響は皮膚細胞で認められました(図3A, B)。CCDC80は皮膚や脂肪組織内の酸化反応に関わるタンパク質で、マウスのアトピー性皮膚炎のモデルにおいて、アレルギー反応の発生に関わることが報告されています注5)。また実際に、実験でこのSNPが近隣のプロモーター[11]の発現を変化させることを示しました(図3C)。このように、rs12637953が遺伝子制御領域の発現調整を介することで、疾患と関わることが示唆されました。

NLRP10領域とCCDC80領域は、過去にも日本人のGWASでのみ疾患との関連が認められた領域です。また、今回同定したこの二つのSNPに関しては、日本人とヨーロッパ人との間に頻度差があり、日本人では頻度が高いのに対して、ヨーロッパ人では非常に稀であることが分かりました。これらのことから、この二つのSNPは日本人のアトピー性皮膚炎の発症に関わる可能性が高いと考えられます。

注3)Koido M, Hon C-C, Koyama S, Kawaji H, Murakawa Y, Ishigaki K, et al. Predicting cell- type-specific non-coding RNA transcription from genome sequence. bioRxiv 2020:2020.03.29.011205.

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