がんの発生を巧妙に抑制するメカニズムの一端を解明
2022-02-02 東京大学
私たちの体のほとんどの細胞は、タンパク質の設計図としてコンパクトに折りたたまれたDNAを持っています。一つの細胞がもつDNAの長さは2メートルほどになると言われていますが、そのうちのほんの一部分しか設計図として利用されていません。設計図がRNAとして読み出されている部分は、細胞にとって非常に重要であるため、DNA切断などが起こった場合でも正確に修復して維持することが重要です。実際、設計図が壊れて変化してしまうと、大切なタンパク質が作られなくなったり、異常なタンパク質が作られたりすることで、がんなどの病気が発生してしまいます。設計図が頻繁に読み出されている部分、つまりRNAがたくさん存在する部分でDNA切断が起こると、RNAとDNAが対合することで、R-loopと呼ばれる構造が形成されることが知られていました。普段は、DNAは二本鎖で非常に安定に存在しますが、R-loop構造のように、DNAが一本鎖になる部分があると、DNAを切断するタンパク質がアクセスしやすくなってしまい、DNAを壊しやすくなってしまいます。従って、R-loop構造は非常に不安定な構造といえます。しかしながら、DNA切断を修復しなければならない状況にも関わらず、細胞がなぜこの不安定なR-loop構造の形成を許容し、またどのように巧妙に処理して正確なDNA切断の修復につなげているかはわかっていませんでした。
今回、東京大学大学院医学系研究科の安原崇哲助教、加藤玲於奈大学院生、宮川清教授、マサチューセッツ総合病院のLee Zou教授、群馬大学の柴田淳史准教授らの国際共同研究グループは、タンパク質RAP80が、DNA修復中に形成された不安定なR-loop構造の崩壊を防ぐこと、さらにRAP80が機能しないと、不安定なR-loop構造の崩壊に伴ってタンパク質の設計図に異常が増えてしまうことを発見しました。RAP80によって保護されたR-loop構造は、BRCA1、Polθ、 LIG1/3を介してDNA切断を正確に修復することも明らかとなりました。今回明らかになったメカニズムは、タンパク質の設計図の異常を原因として生じるがんなどの疾患を防ぐために細胞が持っている防御機構の一端であることが示唆されます。
本研究成果は、米国科学雑誌『Cell Reports』の2022年2月1日 オンライン版に掲載されました。