2022-04-12 東京大学定量生命科学研究所
発表のポイント
- 抑制性免疫補助受容体LAG-3はがん免疫療法の有望な薬剤標的ですが、LAG-3の機能が発揮されるメカニズムは分かっていませんでした。
- LAG-3が抗原ペプチドと主要組織適合遺伝子複合体クラスIIの安定な複合体(安定なpMHCII、注2)と結合することで機能を発揮し、自己免疫とがん免疫を制御することが分かりました。
- LAG-3と安定なpMHCIIとの結合を標的とすることにより、がんや自己免疫疾患に対する治療法の開発につながると期待されます。
発表概要
LAG-3は、がん免疫療法においてPD-1とCTLA-4に次いで有望な薬剤標的として注目されており、LAG-3阻害抗体を用いたがん免疫療法の開発が世界中で進められています。最近、LAG-3とPD-1を同時に阻害することにより悪性黒色腫の生存率が向上することが報告され、期待がさらに高まっています。一方、LAG-3の抑制機能がどのようにして発揮されるのかは分かっていませんでした。特に、受容体の機能を発揮させるスイッチの役割を担う分子をリガンド(注3)と呼びますが、LAG-3のリガンドが何であるのかは分かっていませんでした。
今回、東京大学定量生命科学研究所の丸橋拓海助教、岡崎拓教授らの研究グループは、徳島大学先端酵素学研究所の小迫英尊教授と竹本龍也教授、同大学院医歯薬学研究部の石丸直澄教授、北海道大学大学院薬学研究院の前仲勝実教授らとの共同研究で、LAG-3が安定なpMHCIIと結合することによりT細胞の活性化を抑制し、自己免疫疾患の発症を抑制するとともに、がん免疫を減弱させていることを明らかにしました。
PD-1阻害抗体によるがん免疫療法が複数の種類のがんに対して認可されていますが、その奏効率は10~30%と低く、さらなる改良が求められています。そこで、その他の抑制性免疫補助受容体を同時に阻害する併用療法の開発が進められていますが、基礎研究は後回しにされており、各分子の機能について基本的な情報さえ不足している状況です。今回、LAG-3の機能が発揮されるメカニズムが解明されたことにより、LAG-3を標的とした効果的かつ安全な治療法の開発につながると期待されます。
この研究成果は2022年4月11日付(米国)でImmunity誌オンライン版に掲載されました。