尿中マイクロRNAから「がん」を特定

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2017-12-16 名古屋大学,九州大学,国立がん研究センター,科学技術振興機構 (JST),日本医療研究開発機構(AMED)

尿中マイクロRNAから「がん」を特定

名古屋大学大学院工学研究科の馬場 嘉信教授、安井 隆雄助教らの研究グループは、九州大学先導物質化学研究所の柳田 剛教授、国立がん研究センター研究所分子細胞治療研究分野の落谷 孝広分野長、大阪大学産業科学研究所の川合 知二特任教授との共同研究で、尿1mLから、がん(肺、膵臓、肝臓、膀胱、前立腺)を特定する技術を新たに発見しました。

尿中に含まれる細胞外小胞体1(大きさ40~5000ナノメータ)は、生体機能を制御するマイクロRNA2を内包していることが知られています。このマイクロRNAは、がん患者/非がん患者で発現しているものが異なっていると考えられてきましたが、効率的に尿中細胞外小胞体を捕捉する技術がないために、尿中マイクロRNAによるがん診断は困難であるという問題が生じていました。

本研究では、ナノスケールの棒(ナノワイヤ)3を用いて、尿中の細胞外小胞体を捕捉する新しい技術を構築し、そのナノワイヤが尿中細胞外小胞体を99%以上捕捉する新しい素材であることを発見しました(図1)。また、このナノワイヤで捕捉した尿中細胞外小胞体の内部のマイクロRNAを解析すると、1000種類以上のマイクロRNAが尿中に存在していることも世界で初めて発見しました(人間のマイクロRNAは2000種類以上見つかっているのに対し、従来の技術では200~300種類しか見つかっていなかった)(図2)。さらに、がん患者/非がん患者の尿を用いた解析を行うことで、がん患者/非がん患者で特異的に発現しているマイクロRNAが存在することを明らかにしました(図3)。

この研究成果は、2017年12月15日付午後2時(米国東部時間)米国科学雑誌「Science Advances」オンライン版に掲載されます。

本研究は、科学技術振興機構(JST) 戦略的創造研究推進事業 個人型研究(さきがけ)「超空間制御と革新的機能創成」研究領域(研究総括:黒田 一幸)における研究課題「がん転移メカニズム解明にむけた人工超空間の創製」(研究者:安井 隆雄)、日本医療研究開発機構(AMED)次世代治療・診断実現のための創薬基盤技術開発事業「体液中マイクロRNA測定技術基盤開発」(代表者:落谷 孝広、実施代表者:馬場 嘉信)、日本学術振興会(JSPS)科学研究費補助金基盤研究A「がん超早期診断・予防のためのがん特異的エクソソーム超高精度解析デバイス」(代表者:馬場 嘉信)の一環として行われました。

ポイント

  • 酸化亜鉛ナノワイヤを用いて尿中マイクロRNAを高効率に回収した。
  • 本技術を用いることで、がん患者/非がん患者の尿に特異的に過剰/減少発現しているマイクロRNAを発見した。
  • 本技術の活用により、尿を使った非侵襲4がん診断・特定が期待される。

研究背景と内容

  • 細胞外小胞体に内包されるマイクロRNAは、全ての人の体液中で発見されており、そのマイクロRNA発現量の差が様々な疾病の兆候を指し示していることが、近年の研究で報告されている。
  • 尿中の細胞外小胞体に内包されるマイクロRNAを解析することは、非侵襲かつ簡便な疾病診断・健康診断法の実現にむけた重要な課題である。
  • しかし、尿中の細胞外小胞体は濃度が極めて低い(<0.01vol%)ため、尿中の細胞外小胞体に内包されるマイクロRNAを使った非侵襲かつ簡便な疾病診断・健康診断法の実現は困難だと考えられていた。

成果の意義

  • これまでの研究では、尿中の細胞外小胞体に内包されるマイクロRNAを解析するために、超遠心機5を用いて尿20 mLから200~300種類のマイクロRNAが発見されていた。
  • 今回、酸化亜鉛ナノワイヤを用いたところ、尿1 mLから1000種類以上のマイクロRNAが発見された。
  • これまでに2000種類以上のヒトマイクロRNAが発見されているにもかかわらず、尿から200~300種類しか発見されていなかったのは、マイクロRNAの多くが組織特異的な機能を有しているからと考えられてきたが、本成果によって、尿中のマイクロRNAの存在量が少ないためであることが明らかになった。
  • がん患者ドナーの尿と健常者の尿から回収したマイクロRNAを比較することにより、がん患者で特異的に過剰/減少発現しているマイクロRNAを発見することができた。
  • 泌尿器系のがん患者(前立腺・膀胱)のみでなく、非泌尿器系のがん患者(肺・膵臓・肝臓)でも、がん患者特異的なマイクロRNAを発見することができた。
用語説明
  • 注1:細胞外小胞体:細胞が分泌する直径40~5000nmの小胞体
  • 注2:マイクロRNA:生体機能を制御する小さなRNA 細胞内には多種類のマイクロRNAが存在し、様々な生体機能を調節している
  • 注3:ナノワイヤ:数10-100ナノメートルの大きさから構成される一次元の棒状ナノ構造体
  • 注4:非侵襲:「生体を傷つけない」という意味
  • 注5:超遠心機:超高速回転により重力の数十万倍もの遠心力が得られる遠心分離機
論文名
  • タイトル
    Unveiling massive numbers of cancer-related urinary-microRNA candidates via nanowires.
  • 著者名
    Takao Yasui, Takeshi Yanagida, Satoru Ito, Yuki Konakade, Daiki Takeshita, Tsuyoshi Naganawa, Kazuki Nagashima, Taisuke Shimada, Noritada Kaji, Yuta Nakamura, Ivan Adiyasa Thiodorus, Yong He, Sakon Rahong, Masaki Kanai, Hiroshi Yukawa, Takahiro Ochiya, Tomoji Kawai, and Yoshinobu Baba
  • 掲載雑誌名
    Science Advances
  • DOI
    10.1126/sciadv.1701133

図1

図1:ナノワイヤを用いた尿中細胞外小胞体の捕捉とそこに内包されるマイクロRNA

図2

図2:(左)ナノワイヤと従来技術の比較 (右)ナノヤイヤにより1000種類以上のマイクロRNAを発見

がん患者/非がん患者の発現量に差が確認されたマイクロRNA

図3:がん患者/非がん患者の発現量に差が確認されたマイクロRNA

お問い合わせ先

名古屋大学大学院工学研究科 教授
馬場 嘉信 (ババ ヨシノブ)

名古屋大学大学院工学研究科 助教
安井 隆雄 (ヤスイ タカオ)

JST事業に関すること

科学技術振興機構戦略研究推進部グリーンイノベーショングループ
中村 幹(ナカムラ ツヨシ)

AMED事業に関すること

日本医療研究開発機構創薬戦略部医薬品研究課

報道担当

名古屋大学総務部総務課広報室

九州大学広報室

国立がん研究センター企画戦略局広報企画室

科学技術振興機構広報課(JST)

日本医療研究開発機構(AMED)
経営企画部企画・広報グループ

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