花びらの形が葉と違う仕組みを解明

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2022-12-12 東京大学

木下 綾華(研究当時:生物科学専攻 修士課程)
内藤 万紀子(研究当時:生物科学専攻 修士課程)
オウ シネイ(生物科学専攻 博士課程 )
井上 康博(京都大学大学 教授)
望月 敦史(京都大学医生物学研究所 教授)
塚谷 裕一 (生物科学専攻 教授)

発表のポイント

  • 花びらと蕚(がく)がともに葉が変形した器官なのに、それぞれ異なる形をしている理由を解明した。
  • 数理モデリング解析を行なった結果、細胞分裂の方向の違いよりは、細胞分裂する場所の違いが大きな形の違いを生んでいることが判明した。またこれに対応した遺伝子発現の違いも見出した。
  • 葉の形を将来遺伝子工学的にデザインする上で重要な知見である。

発表概要

京都大学大学院工学研究科の井上康博教授と京都大学医生物学研究所の望月敦史教授、東京大学大学院理学系研究科の塚谷裕一教授の研究グループは、花びらの独特の形ができるための大事な要素を発見しました。

かのゲーテが看破したように、花びらも萼も、葉が変形してできた器官です。たしかに似た形とも言えますが、やはりそれぞれ異なる形をしています。何が違うのでしょうか。器官の形は一般に細胞分裂のパターンで決まるとされています。そこで葉と萼、花びらの間ではどういう点で細胞分裂の様子が違うのか調べたところ、細胞分裂をする場所の違いと、細胞分裂の角度の違いとが検出されました。そこで数理シミュレーションによりそのどちらが形を決めているのか調べたところ、葉や萼と違う「花びららしい」形は、細胞分裂の場所の違いが生んでいることを発見しました。さらにその細胞分裂の場所の違いと呼応した遺伝子発現の違いも見出しました。

この知見を応用することで将来、葉の形を自由に設計することができるようになるかもしれません。またこうした細胞分裂の場所の違いを生む分子メカニズムの解明も進むと期待されます。

本研究成果は、2022年12月12日(月)午前0時1分(英国時間)に科学誌「Development」のオンライン版に掲載されました。

発表内容

本研究グループは、このほど花びらが花びららしい形になるしくみを発見しました。かの詩人、作家、政治家としても知られる自然科学者ゲーテが『植物変態論』(1790年)で喝破したように、花びらも萼も、葉が変形してできた器官です。確かに似たような形とも言えますが、やはりそれぞれ独自の形をしています。基本形の葉から、どういう「変態」によってこうした違いが生まれるのでしょうか。

一般に器官の形の違いは、その器官を作る間に起きる細胞分裂のパターンで決まるとされています。研究グループはまずモデル植物シロイヌナズナを使い、葉に植物ホルモン処理をして形をゆがませる実験を行ない、その変形に伴う細胞分裂の様子を調べました。すると細胞分裂の方向が変化した一方で、細胞分裂の場所や規模は変化しないことが判明しました。したがって細胞分裂の方向を変えると葉の形はゆがむことが分かります。

次に花びらと萼を対象に、細胞分裂の位置と方向を調べてみました。すると花びらと萼の間には、それぞれ細胞分裂の位置でも方向でもが見つかりました。そのどちらがそれぞれの最終的な形を決めているのでしょうか。

そこで次に、数理シミュレーションを試みました。花びらや萼ができてくる間の細胞分裂の位置をさまざまに変化させてみると、最終的なシミュレーションの形はそれに応じて大きく変化し、花びららしい形や萼らしい形を生む。一方で細胞分裂の方向をさまざまにずらしてみても、花びららしさや萼らしさに対するその効果は限定的でした。この解析の結果から、花びららしい形や萼らしい形は、それぞれの器官が作られる間の細胞分裂の位置決めによって決まっていることが判明しました。

また葉、萼、花びらのそれぞれができる時の細胞分裂の位置は、研究グループが以前発見したANGUSTIFOLIA3(AN3)遺伝子(注1)のはたらく場所と一致していることも判明しました。実際、AN3の機能が壊れたan3変異体では、葉、萼、花びらの全てにおいて細胞の数が不足していました。葉を基本形としてつくられる萼や花びらは、AN3のmRNA発現場所を変えることで、それぞれ独特な形を実現していると考えられます(図1)。


図1:葉、花びら、萼の形の違いと細胞分裂の場所の違い
上段は左から葉、花びら、萼が形成されている途中の様子。輪郭の形は特に花びらで異なる。グレーのドットは一つ一つが分裂中の細胞。花びらでは葉や萼とその位置が大きく異なる。
下段は数理シミュレーションの結果の一部。赤い場所で細胞が活発に増殖している。細胞分裂の位置を変えていくだけで、ここに示すように最終的な器官の形が大きく変化する。花びららしい形は、細胞分裂の位置を先端近くに置かないと実現しないが、先端に限局しすぎると(左端)細長くなりすぎる。もっとも花びららしい形になったのは、先端近くである程度の広がりをもって細胞分裂する場合(左から2番め)であった。


動画1:花弁の形状を再現したシミュレーションの一例。多角形一つ一つが細胞を示す。色は赤いほど細胞分裂が活発な状態を示す。


今後、植物が器官の種類ごとにAN3のmRNA発現場所を変えるメカニズムを解明することで、葉の形や花びらの形を自由にデザインすることができるようになるでしょう。また植物が進化の過程で、葉をどのような方法で変形させ花器官を作りあげ、花という複合器官を組み立てていったのかの理解が進むと期待されます。

本研究は、科研費「新学術領域研究(課題番号:JP19H05672、JP19H05678)」の支援により実施されました。

発表雑誌
雑誌名
Development論文タイトル
Position of meristems and the angles of the cell division plane regulate the uniqueness of lateral organ shape

著者
Ayaka Kinoshita, Makiko Naito, Zining Wang, Yasuhiro Inoue, Atsushi Mochizuki, and Hirokazu Tsukaya*

DOI番号

用語解説

注1  ANGUSTIFOLIA3(AN3)遺伝子
葉ができる際、葉の基部ではたらきそこで細胞分裂を活発化させる遺伝子。この機能を失うと葉は細く短くなってしまう。最近、この遺伝子は他の農作物植物で葉のサイズ以外にも重要な機能を担うことが見いだされ、注目されている。

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