2023-04-20 国立成育医療研究センター
国立成育医療研究センター(所在地:東京都世田谷区、理事長:五十嵐隆)の分子内分泌研究部 深見真紀部長、福井由宇子特任研究員、服部淳研究員、張若谷共同研究員は、システム発生・再生医学研究部 高田修治部長、市立美唄病院 松浦信夫医師らと共同で高身長症を招く新たな遺伝病を発見しました。
本研究では、成長ホルモンが過剰に分泌されて197.4 cmの高身長となった女性患者さんの遺伝学的解析を行ったところ、20番染色体に小さな欠失があることが分かりました。この欠失によって、成長ホルモンの放出を促進させるホルモン遺伝子(GHRH遺伝子)にTTI1という別の遺伝子が結合していることが判明しました。患者さんの体内ではこの「融合遺伝子」が働いて成長ホルモンの分泌を増やしたと考えられます。
同じ欠失を持つモデルマウスを作成して解析した結果、この仮説が証明されました。本研究によって内分泌疾患の新たな原因が発見され、原因不明の高身長に悩む方々の診断に役立つことが期待されます。本研究成果は、英国の医学専門誌 『Human Molecular Genetics』に2023年4月18日にオンライン公開されました。
プレスリリースのポイント
- これまでに、成長ホルモンが過剰に分泌されて高身長となった患者さんでAIP遺伝子とGPR101遺伝子の異常が同定されています。しかし、これらの異常がみつからない原因不明の患者さんも多くいます。
- 私たちは、原因不明の高身長を呈する患者さんの遺伝学的解析を行いました。その結果、20番染色体に752 kbの微細な欠失を検出しました。欠失の切断点近くにはTTI1遺伝子とGHRH遺伝子が存在していました。GHRHは視床下部で発現して下垂体の成長ホルモン産生を促す遺伝子です。一方、TTI1は全身の多くの臓器で発現している遺伝子です。患者さんの体内では、TTI1とGHRHが結合した「融合遺伝子」が作られていることが分かりました。これによって、GHRHが本来発現していないいろいろな臓器で発現するようになったと考えられます。
- ゲノム編集によってマウスに患者さんと同じ染色体欠失を導入しました。モデルマウスは過成長を示し、この欠失が疾患原因であることが確認されました。
- 本研究の成果は、高身長患者さんの診断に役立ち、また、ホルモン過剰産生による他の原因不明の疾患の病態解明にも役立つことが期待されます。
発表論文情報
英文タイトル:『Chromosomal microdeletion leading to pituitary gigantism through hormone-gene overexpression』
和文タイトル:『ホルモン遺伝子の過剰発現により下垂体性巨人症を引き起こす染色体微細欠失』
著者名:福井由宇子1)、服部淳1)、張若谷1)、寺尾美穂2)、高田修治2)、中林一彦3)、秦健一郎3)、山田豊4)、松浦信夫5)、
深見真紀1)
所属:
1) 国立成育医療研究センター研究所 分子内分泌研究部
2) システム発生・再生医学研究部
3) 周産期病態研究部
4) 函館中央総合病院小児科
5) 市立美唄病院小児科
掲載誌:Human Molecular Genetics
DOI:10.1093/hmg/ddad053
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本件に関する取材連絡先
国立成育医療研究センター 企画戦略局 広報企画室