タンパク質合成に関わる新たな因子を発見~リボソーム衝突を解消する複合体がmRNAの固い構造を解く~

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2023-04-26 九州大学

ポイント

  • 翻訳中のリボソームに比べて、走査リボソームの解析はあまり進んでいなかった。
  • 走査リボソームの結合タンパク質として新たにASC-1複合体を同定し、走査リボソームがmRNA上を進みやすいように固い構造を解く機能を持つことを見出した。
  • 走査リボソームを介した翻訳制御機構と疾患との関連が明らかになることが期待される。

概要
 翻訳は、DNAからmRNA(※1)に写し取られた遺伝情報をもとに、タンパク質を産生する過程です。翻訳はまず、走査リボソームがmRNA上を進みながら翻訳開始点を探し、次に翻訳リボソームがmRNAの遺伝情報を読み取りながらタンパク質を合成していくという段階からなります。走査リボソームと翻訳リボソームには主要な構成因子以外にも他の様々なタンパク質が結合しており、これらはそれぞれの段階が円滑に進むように補助していると考えられています。これまでに翻訳リボソームの結合タンパク質の解析は広く行われてきましたが、一方で走査リボソームの結合タンパク質の研究は、技術的な問題によりあまり進んでいませんでした。
九州大学生体防御医学研究所の中山 敬一 主幹教授、松本 有樹修 准教授、木藤 有紀 研究員、市原知哉 研究員、理化学研究所開拓研究本部の岩崎 信太郎 主任研究員らの研究グループは、走査リボソームに結合するタンパク質を網羅的に同定する新規手法『Sel-TCP-MS法』を開発しました。この手法を用いて、走査リボソームにASC-1複合体が結合していることを見出しました。
これまでの研究によって、ASC-1複合体は翻訳リボソームに結合してリボソーム衝突(※2)を解消することが知られていました。今回の研究では、ASC-1複合体は翻訳リボソームだけでなく走査リボソームにも結合しており、ASC-1複合体はmRNAの固い構造を解くことで、走査リボソームがmRNA上を進みやすくするように補助する機能を持つことが明らかになりました。
翻訳リボソームとその結合タンパク質の異常が神経変性疾患等の様々な疾患の原因になることが知られていますが、走査リボソームの結合タンパク質と疾患の関連はまだあまり解析が進んでいません。今後Sel-TCP-MS法で走査リボソームの結合タンパク質を調べていくことで、新たに疾患発症機序が解明されることが期待されます。
本研究成果は欧州分子生物学機構が発行する専門誌「The EMBO Journal」に2023年4月24日に掲載されました。

タンパク質合成に関わる新たな因子を発見~リボソーム衝突を解消する複合体がmRNAの固い構造を解く~

ASC-1複合体は翻訳リボソームと走査リボソームの両方に結合する

用語解説
(※1) mRNA:messenger RNAの略で、タンパク質を合成するための塩基配列情報を持ったRNAです。その遺伝情報は特定のアミノ酸に対応するコドンと呼ばれる3塩基配列という形になっていて、リボソームがmRNAの情報からタンパク質を合成する反応を翻訳と呼びます。

(※2) リボソーム衝突:なんらかの原因で翻訳リボソームがmRNA上で停滞すると、後続の翻訳リボソームが衝突してしまいます。リボソームが衝突すると翻訳を正常に進められないため、ASC-1複合体が関与する翻訳品質管理機構によって衝突が解消されます。

本研究の詳細≫

論文情報
掲載誌:The EMBO Journal
タイトル:The ASC-1 complex promotes translation initiation by scanning ribosomes
著者名:Yuki Kito, Akinobu Matsumoto, Kazuya Ichihara, Chisa Shiraishi, Ronghao Tang,Atsushi Hatano, Masaki Matsumoto, Peixun Han, Shintaro Iwasaki, Keiichi I. Nakayama
DOI:10.15252/embj.2022112869

 

細胞遺伝子工学
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