消えるのか?残るのか? 〜遺伝子の運命は周辺のゲノム環境に左右される~

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2023-05-26 国立遺伝学研究所

生物の生存に欠かせない機能を果たす遺伝子は多様な生物で共有されています。これは祖先の生物でも生存に重要であった遺伝子が現生の生物に受け継がれたためです。一方で、機能が必要ではなくなると、その遺伝子がなくても個体は生存できるため、遺伝子は進化の過程で失われることがあります。

これまで、進化において遺伝子が失われることは、「必要でなくなれば無くてよい」、すなわち、遺伝子機能の要不要という側面で議論されてきました。一方で、遺伝子はゲノムと呼ばれる遺伝情報の一部であり、ゲノムの情報はDNAという高分子にコードされているため、遺伝子が失われる現象はその遺伝子がコードされる領域のDNAの特徴にも影響をうける可能性があります。しかしながら、遺伝子が失われることに対して遺伝子機能以外の要因はわかっていませんでした。

東京都医学総合研究所の原雄一郎主席研究員(研究当時 国立研究開発法人理化学研究所 生命機能科学研究センター 客員研究員)と情報・システム研究機構 国立遺伝学研究所の工樂樹洋教授(研究当時 国立研究開発法人理化学研究所 生命機能科学研究センター チームリーダー、現客員研究員)による研究チームは、進化の過程で「消えやすい」遺伝子をヒトゲノムに多数同定し、消えやすい遺伝子がもつ機能面以外の特徴を見出すことに挑みました。その結果、「消えやすい」遺伝子は、1)GC含量が高く、2)塩基置換が高頻度であり、3)発現が抑制されている、という特徴を持つことを見つけました。さらに、消えやすい遺伝子の特徴は、脊椎動物の多様な種における相同なゲノム領域で共有されていることがわかりました。

これらの結果から、進化における遺伝子の消えやすさには、遺伝子機能の要不要だけではなく、その遺伝子が存在するゲノム領域の特徴が大きく影響していることが明らかになりました。すなわち、ゲノム領域の特徴は、遺伝子の存亡という進化の出来事に関わっているのです。また、遺伝子の存亡を決めるゲノム領域の特徴が、ヒトとサメの共通祖先の時代から数億年にわたって保持されていて、特定の遺伝子が継続して消えやすい状態にあることもわかりました。進化において同じ遺伝子が色々な系統で失われるという現象は、このようにゲノムの不均一性に由来していると考えられます。

本研究は、以下の支援を受けて行われました。
理化学研究所(工樂)
科研費(20H03269 (工樂), 21K06132 (原))
日本医療研究開発機構(AMED)(JP21wm0325050 (原))
持田記念医学薬学振興財団 2019年度研究助成金 (原)

本研究は、情報・システム研究機構 国立遺伝学研究所が有する遺伝研スーパーコンピュータシステムを利用しました。

本研究成果は、国際科学雑誌「eLife」に 2023年5月25日(日本時間)に掲載されました。

消えるのか?残るのか? 〜遺伝子の運命は周辺のゲノム環境に左右される~

図: 「消えやすい」遺伝子の特徴


The Impact of Local Genomic Properties on the Evolutionary Fate of Genes
Yuichiro Hara, Shigehiro Kuraku
eLife (2023) 12, e82290 DOI:10.7554/eLife.82290

プレスリリース資料

細胞遺伝子工学
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