身体の中の感覚に敏感な乳児ほど、養育者と見つめ合うことを解明 ~ヒトの社会性発達に内受容感覚が関与する可能性を示す新証拠~

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2023-06-19 武蔵野大学,東京大学

武蔵野大学教育学部幼児教育学科 今福 理博准教授、東京大学大学院総合文化研究科 開 一夫教授らの研究グループは、心拍を感じる、空腹を感じる等の身体の中の情報を感じ取る能力(内受容感覚)を生後6カ月の乳児で測定し、内受容感覚に敏感である乳児ほど、養育者と見つめ合う(アイコンタクトする)ことを世界で初めて明らかにしました。

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本研究のイメージ

本研究成果のポイント
  • 内受容感覚に敏感である乳児ほど、養育者と遊ぶ時にアイコンタクトを多くすることを解明。
  • 乳児の内受容感覚が社会的認知能力と関連する可能性を世界で初めて実証。
  • ヒトの社会性発達に内受容感覚が関与するという仮説を支持し、人間理解の新しい視点を提供。
発表概要

これまで成人を対象とした研究では、内受容感覚に個人差があり、他者の感情認識やアイコンタクトの敏感さなどの社会性に関わる能力(社会的認知能力)に重要な役割を果たすことがわかっていました。しかし、乳児では内受容感覚の個人差が、社会的認知能力とどのように関連するのかについては解明されていませんでした。
今福准教授らの研究グループは、心拍とモニター上の図形の動きを同期/非同期させる新技術によって、乳児の内受容感覚の個人差を測定することに成功し、内受容感覚に敏感である乳児ほど、養育者と遊ぶ時にアイコンタクトを多くすることを明らかにしました。
本研究の成果は、ヒトの社会性と強く関連すると考えられるアイコンタクト行動が、乳児の内受容感覚という身体の中の感覚を基盤とする可能性を示す極めて重要な知見です。この研究成果は、2023年6月19日に国際学術誌「Scientific Reports」のオンライン版に掲載されました。

研究の背景

これまでの研究では、心拍を感じる、空腹を感じる等の身体の中の情報を感じ取る能力(内受容感覚)には個人差があり、内受容感覚が他者の感情認識やアイコンタクトの敏感さなどの社会性に関わる能力(社会的認知能力)と関連することがわかっていました。しかし、生まれて半年の乳児期にも同様の関連が存在するかは未解明でした。こうした背景から今福准教授らの研究グループは、乳児の内受容感覚の個人差が社会的認知能力と関連するかを調べるために、次の実験を行いました。

研究手法・成果

本研究は、生後6カ月の乳児とその養育者である母親25組が参加しました。乳児の心電図のR波(上向きの幅の狭い波)に同期/非同期して動く図形(同期図形/非同期図形)をモニター上の左右に提示し、その間の視線の動きを視線自動計測装置(アイトラッカー)により測定しました。養育者にも同じ調査を行いました。その結果、乳児は同期図形に比べて非同期図形を長く注視し(図1)、養育者は非同期図形に比べて同期図形を長く注視することがわかりました。

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図1:乳児の同期/非同期図形への注視時間の割合

乳児研究では「知覚的な感度」を計測する場合に、乳児が馴染みのない刺激に注意を向ける性質を利用するため、本研究では同期図形(自分の心拍とタイミングが合った刺激)への注目よりも、非同期図形(自分の心拍とタイミングがずれた刺激)への注目をもって、心拍と図形の動きの同期性に対する感度の指標としました。そのため、乳児では非同期図形を注視した時間の割合を「内受容感覚の敏感さ」として評価しました。また、同じ乳児と養育者で遊ぶ様子を3分間記録し、両者の「社会的行動(アイコンタクト、発声、タッチなど)」を測定して評価し、内受容感覚と社会的認知能力の関連を調べました。
以上の結果から、内受容感覚に敏感である乳児ほど、養育者と遊ぶ時にアイコンタクトを多くすることがわかりました。また、乳児の内受容感覚の個人差と関連するアイコンタクトが、養育者の笑顔を介して引き起こされていることを示唆しました(図2)。
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図2.乳児の非同期図形への注視時間の割合(内受容感覚の敏感さ)-養育者の笑顔-アイコンタクトの関連

本研究成果は、ヒトの社会性と強く関連すると考えられるアイコンタクト行動が、乳児の内受容感覚という身体の中の感覚を基盤とする可能性を示します。

本研究成果の意義

本研究は、乳児の内受容感覚が社会的認知能力と関連する可能性を世界で初めて実証しました。本研究成果は、ヒトの社会性発達に内受容感覚が関与するという仮説を支持し、人間理解の新しい視点を提供します。

研究プロジェクトについて

本研究成果は、以下の事業・研究領域・研究課題によって行われました。
①科研費 若手研究(19K14392、23K12883、代表:今福 理博)
② JST CREST (JPMJCR18A4、代表:開 一夫)
③ 武蔵野大学研究費(2019、2020)

共同研究者所属機関
① 武蔵野大学教育学部幼児教育学科
② 東京大学大学院総合文化研究科

論文情報

雑誌:Scientific Reports
題名:Infants’ interoception is associated with eye contact in dyadic social interactions. (乳児の内受容感覚は二者間の社会的相互作用でのアイコンタクトと関連する)
著者:Masahiro Imafuku, Hiromasa Yoshimoto, and Kazuo Hiraki
DOI:10.1038/s41598-023-35851-9

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