2023-11-01 京都大学
大宮寛久 化学研究所教授、長尾一哲 同助教、太田健治 薬学研究科博士後期課程学生、佐々木悠祐 武田薬品工業株式会社博士、秦大 同博士、瀬川泰知 分子科学研究所准教授らの共同研究グループは、これまで実現困難であった核酸リン原子の第三級アルキル化反応の開発に成功し、新しい化学修飾核酸を合成しました。
DNAやRNAといった核酸やその誘導体を基本骨格とした核酸医薬品は、従来の低分子医薬品や抗体医薬品とは異なる作用機序で働くため、新たな治療法として注目されています。DNAやRNAは、核酸塩基・糖の環骨格・ホスホジエステル基から構成させるヌクレオチドが鎖状に連なった高分子化合物であるため、その構成成分を化学修飾することは、新しい核酸医薬品の創出に繋がります。特に、天然の核酸内のホスホジエステル基は生体内の酵素により容易に分解されてしまうため、代謝安定性の向上を目的としたホスホジエステル基の化学修飾が精力的に行われています。中でも、ホスホジエステル基の非架橋酸素原子をアルキル基に置換したアルキルホスホン酸ジエステル修飾は、架橋部位の電荷が中性となるため、代謝安定性に加えて負電荷を有するホスホジエステル基にはない物性の付与が期待されます。しかし、従来法ではかさの低いアルキル基はリン原子に導入できる一方で、かさ高い第三級アルキル基の導入は困難でした。
本研究では、光エネルギーを使用した温和な条件で発生させたカルボカチオン種を活用することで、核酸リン原子の第三級アルキル化反応の開発に成功しました。本成果はかさ高い第三級アルキル基が導入された化学修飾核酸の合成を通じて、新たな核酸医薬品の創出に繋がることが期待されます。
本研究成果は、2023年10月31日に、国際学術誌「Nature Communications」にオンライン掲載されました。
本研究の概要図:核酸リン原子の第三級アルキル化反応
研究者のコメント
「温和な条件下で発生させたカルボカチオンを活用することで、従来法では実現困難なかさ高い第三級アルキルホスホン酸ジエステルの合成に成功にしました。副生成物の解析から問題点を把握し、脱離能の高い脱離基を設計したことがポイントでした。本手法により構築した化学構造が、新たな電荷中性の化学修飾核酸として実際の核酸医薬品に活用されることを期待しています。」(太田健治)
詳しい研究内容について
光エネルギーで新しい化学修飾核酸を合成―核酸リン原子の第三級アルキル化に成功―
研究者情報
研究者名:大宮 寛久
研究者名:長尾 一哲