セルロースナノファイバーを用いた新しいエクソソーム捕捉ツール 「EVシート」を開発 ~生体内におけるエクソソームの空間解析とがん医療応用に期待~

ad

2023-11-09 名古屋大学

セルロースナノファイバーを用いた新しいエクソソーム捕捉ツール 「EVシート」を開発 ~生体内におけるエクソソームの空間解析とがん医療応用に期待~

名古屋大学 医学部附属病院産婦人科(同大学 高等研究院兼務)の横井暁 病院講師、同大学 大学院医学系研究科産婦人科学の梶山広明 教授、および東京工業大学生命理工学院生命理工学系の安井隆雄 教授、大阪大学 産業科学研究所の古賀大尚准教授、国立がん研究センター研究所 病態情報学ユニットの山本雄介 ユニット長らの研究グループは、木材由来のセルロースナノファイバーを用いて、新しいエクソソーム捕捉ツールである「EV シート(EV :Extracellular vesicle: 細胞外小胞※3)」を開発しました。卵巣がんを対象として、従来採取不可能であった微量体液からのエクソソーム回収と保存を実現し、さらに解析を行うことで、新しいエクソソームの特性を明らかにしました。これらの結果から、EV シートがエクソソームを対象とした新しい医療マテリアルになるものとして期待されます。
エクソソームを含む EV は、ヒトのあらゆる体液中に存在し、細胞間コミュニケーションに不可欠なツールとして注目されています。また、疾患に応じて EV が内包する生理活性分子に変化が生じるため、有望な疾患バイオマーカー※4 として期待されています。EV の回収技術に関しては、世界的に様々な手法の開発が進められていますが、ごく微量の試料からの EV 回収は極めて困難とされていました。本研究グループは、木材由来の新素材であるセルロースナノファイバーを用いて、EV 捕捉に適したナノ細孔構造を持つ EV シートを開発し、吸水性や乾燥によって閉孔する特性を生かすことで、極めて微量な体液から EV を回収・保存する手法を確立しました。EV シートはわずか10 マイクロリットル(1 ミリリットルの 1000 分の 1)程度の体液から EV を回収することができ、さらにその回収した EV を用いて、内包する生理活性分子の解析が可能です。また、湿った臓器に直接 EV シートを数秒貼り付けることで、臓器本体には影響を与えることなく、臓器表面の微量な体液から EV を回収することも可能です。治療に難渋する悪性腫瘍である卵巣がんを対象に、EV シートの精度を確認し、これまで明らかにされなかった EV の新しい特性を明らかにしました。さらに、手術中や、手術前後に、EV シートを用いて簡便かつ高効率に回収した EV は、がんの診断や治療薬選択に寄与する新しいバイオマーカーとなる可能性が明らかになりました。EV シートを用いることで、これまで解析できなかった生体内における EV の空間・機能解析が可能となり、その先の医療応用が期待されます。

本研究は主に、国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)の創発的研究支援事業:研究課題名「がん細胞外小胞の臨床応用へ向けた基盤技術開発研究(JPMJFR204J)」「生物素材を用いた持続性エレクトロニクスの創成(JPMJFR2003)」、JST 戦略的創造研究推進事業さきがけ:研究課題名「細胞外小胞の網羅的捕捉と機械的解析による miRNA 分泌経路の解明(JPMJPR19H9)」、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)の次世代がん医療加速化研究事業:研究課題名「微量体液中エクソソーム解析による革新的がん腹膜播種バイオマーカー開発」、および国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)、官民による若手研究者発掘支援事業:研究課題名「ナノファイバーが拓く無侵襲な体液解析による日常的かつ包括的な健康状態モニタリング」の支援を受け行ったもので、本研究成果は、学術雑誌「Nature Communications 」の電子版(2023 年 11 月 8 日付)に掲載されました。

【ポイント】

・全く新しい手法でエクソソーム※1 を捕捉かつ保存する革新的ツール「EV シート」を開発
・木材由来の新素材セルロースナノファイバー※2 によるがん医療応用の可能性を示唆
・臓器に直接貼り付けてエクソソームを回収することで、生体内における空間解析を実現
・エクソソームの新しい特性が明らかになり治療戦略開発に期待

◆詳細(プレスリリース本文)はこちら

【用語説明】

※1 エクソソーム:細胞が分泌する直径 100 ナノメートル(nm)前後の小さな胞体。細胞の情報を搭載して、細胞外へ放出され、生命に重要な機能を有する。
※2 セルロースナノファイバー:木材などの植物繊維の主成分であるセルロースをナノサイズ(1mm の百万分の 1)にまで細かく解きほぐすことにより得られる木質バイオマス資源。植物由来の次世代素材として普及が期待されている。
※3 細胞外小胞(Extracellular vesicles 、EV):細胞が分泌する直径40~1000nmの小胞体。エクソソームは EV の一つで、主に直径 200nm 以下の小さな EV を指す。
※4 バイオマーカー:数 10~100 nm の大きさから構成される一次元の棒状ナノ構造体。

【論文情報】

雑誌名:Nature Communications
論文タイトル:Spatial exosome analysis using cellulose nanofiber sheets reveals the location heterogeneity of extracellular vesicles
著者名・所属名:
Akira Yokoi 1,2,3*, Kosuke Yoshida 1,2, Hirotaka Koga 3,4, Masami Kitagawa 5, Yukari Nagao 1, Mikiko Iida 6, Shota Kawaguchi 6, Min Zhang 6, Jun Nakayama 7,8, Yusuke Yamamoto 7, Yoshinobu Baba 6,9,10, Hiroaki Kajiyama 1 and Takao Yasui 6,9,11, 12*
1. Department of Obstetrics and Gynecology, Nagoya University Graduate School of Medicine, 65 Tsurumai-cho, Showa-ku, Nagoya, 466-8550, Japan
2. Nagoya University Institute for Advanced Research, Furo-cho, Chikusa-ku, Nagoya 464-8603, Japan
3. Japan Science and Technology Agency (JST), FOREST, 4-1-8 Honcho, Kawaguchi, Saitama, Japan
4. SANKEN (The Institute of Scientific and Industrial Research), Osaka University, 8-1 Mihogaoka, Ibaraki, Osaka 567-0047, Japan
5. Bell Research Center, Department of Obstetrics and Gynecology Collaborative Research, Nagoya University Graduate School of Medicine, 65 Tsurumai-cho, Showa-ku, Nagoya, 466-8550, Japan
6. Department of Biomolecular Engineering, Graduate School of Engineering, Nagoya University, Furo-cho, Chikusa-ku, Nagoya 464-8603, Japan
7. Laboratory of Integrative Oncology, National Cancer Center Research Institute, 5-1-1 Tsukiji, Chuo-ku, Tokyo, 104-0045, Japan
8. Department of Oncogenesis and Growth Regulation, Research Institute, Osaka International Cancer Institute, 3-1-69 Otemae, Chuo-ku, Osaka, 541-8567, +81-6-6945-1181, Japan.
9. Institute of Nano-Life-Systems, Institutes of Innovation for Future Society, Nagoya University, Nagoya, Japan
10. Institute of Quantum Life Science, National Institutes for Quantum and Radiological, Science and Technology, Chiba, Japan
11. Japan Science and Technology Agency (JST), PRESTO, Saitama, Japan
12. Department of Life Science and Technology, Tokyo Institute of Technology, 4259 Nagatsuta, Midori-ku, Yokohama, 226-8501, Japan
* Co-first author, † Co- correspondence
DOI: 10.1038/s41467-023-42593-9

English ver.
https://www.med.nagoya-u.ac.jp/medical_E/research/pdf/Nat_231108en.pdf

【研究代表者】

大学院医学系研究科 梶山 広明 教授
医学部附属病院/高等研究院/研究大学促進事業若手新分野創成研究ユニット 横井 暁 病院講師

医療・健康
ad
ad
Follow
ad
タイトルとURLをコピーしました