2018-10-12 東北大学,株式会社アドバンテスト,科学技術振興機構(JST),内閣府政策統括官(科学技術・イノベーション担当)
ポイント
- 皮膚のすぐ下にある微小血管の広がり方を画像化し、非侵襲で酸素飽和度の分布を可視化。
- 皮膚のシミやしわなどの老化の程度が分かることで、美容領域への応用が可能。
- 2波長光源と超音波送受信を制御し、準リアルタイムのイメージングを実現。
内閣府 総合科学技術・イノベーション会議が主導する革新的研究開発推進プログラム(ImPACT)の1つである「イノベーティブな可視化技術による新成長産業の創出」(プログラム・マネージャー:八木 隆行)の一環として、東北大学教授:西條 芳文および株式会社アドバンテスト:増田 則之氏らの研究開発グループは、2波長の光超音波画像と超音波画像を同時に撮影できる、皮膚の「in vivoイメージング技術注1)」の開発に成功しました。
光超音波イメージング法注2)は、生体に光を照射し、光のエネルギーを選択的に吸収した血液などから発生した超音波を測定することで、生体内部を画像化する手法です。従来の技術では困難な、皮膚内の微小血管の測定に適した新たな非侵襲イメージング手法として注目されています。
しかし、光超音波のみを使用するイメージング法では、皮膚内にある直径数十μm以下の微小血管を画像化しても、得られた血管像が皮膚内各層のどの領域にあるのか確認することができませんでした。また、複数波長の光源を用いることで血管の酸素飽和度注3)も計測可能ですが、生体の動きで測定結果に影響するため、その利用は動物実験などの研究用途にとどまっていました。
今回、開発に成功した皮膚のin vivoイメージング技術は、超音波を集束して検出する超音波センサーを用いることで光超音波と超音波を同一センサーで計測し、2つの波長を交互に照射することで発生する超音波を検出して生体浅部の微小血管網と血中酸素飽和度のイメージングが可能となりました(図1)。約4分間で深度2mm、6mm角範囲の画像データを取得できます。また、取得したデータを用いて、酸素飽和度のマッピング、光超音波画像と超音波画像を重ね合わせることも可能です。
生検した皮膚の研究から、皮膚のシミやシワなどの皮膚老化が微小血管に関係していることが知られています。開発した光超音波イメージングにより、非侵襲で皮膚の光老化といった身体機能低下のモニタリングなどに応用することが期待されます。
本成果は、以下のプログラム・研究開発課題によって得られました。
内閣府 革新的研究開発推進プログラム(ImPACT)
プログラム・マネージャー:八木 隆行
研究開発プログラム:イノベーティブな可視化技術による新成長産業の創出
研究開発課題:超高解像度光音波イメージング技術の開発およびマイクロ可視化システムのプロトタイプ開発
研究開発責任者:西條 芳文(東北大学 大学院医工学研究科 教授)
研究期間:平成26年10月~31年3月
研究開発課題:マイクロ可視化システムのプロトタイプ開発
研究開発責任者
増田 則之((株)アドバンテスト 新企画商品開発室統括リーダー)
研究期間:平成28年9月~31年3月
本研究開発課題では、皮膚の高解像度イメージングを目的としたマイクロ可視化システムの開発に取り組んでいます。
<八木 隆行 プログラム・マネージャーのコメント>
本プログラムでは、レーザー照射により発生する超音波を検出する光超音波法を高度化し、非侵襲で生体の血管網と血液状態(酸素飽和度)をリアルタイムに3Dイメージングする技術を開発し、早期診断や美容・健康に関わる身体機能モニタリングの実現を目指しています。さらに、工業材料中の劣化や亀裂などを可視化し、非破壊計測への展開を進めています。
これまで、数十μm以下の皮膚の微小血管や血液状態を計測する光超音波イメージングは、動物実験などの研究用途に留まっていました。また、得られた血管データが、皮膚内部のどの位置にあるのか確認することができませんでした。今回、東北大学と(株)アドバンテストは、超音波センサーを小型化し、2波長の光超音波画像と超音波画像を同時に計測できる光超音波3Dイメージング技術の開発に成功しました。これにより、顔皮膚の血管やメラニンを非侵襲でイメージングすることが可能となり、美容領域への応用の道を拓くことができました。
<研究の背景と経緯>
本プログラムでは、光超音波技術を利用した新たな生体の画像化技術の開発に取り組んでいます。その中で皮膚浅部の血管網を高解像度で画像化することを目的とし、顕微鏡レベルの解像度を30μm以下にするマイクロ可視化システムの研究開発を行っています。
光超音波イメージングは、光に吸収特性のある物質(血液やメラニンなど)を選択的に画像化することができますが、1波長の光源ではメラニンと血管、動脈と静脈などの判別ができず、得られる情報が限定的でした。また、皮膚の構造が画像化できないため、皮膚の表面や皮膚の厚みは分からず、光超音波画像だけでは血管やメラニンの位置を特定することができませんでした。
これらの課題を解決する方法として、多波長での光超音波イメージングと超音波画像を重ねることが挙げられますが、in vivoイメージングに応用するには高速で測定可能なシステムが必要となります。
<研究の内容>
東北大学と株式会社アドバンテストは、上記の課題を解決するため、2波長の光超音波画像と超音波画像が同時に取得可能な、マイクロ可視化システムの開発に取り組んでいます。
高解像度の光超音波イメージング方式としては、集束型の超音波センサーで走査する方式を採用しました。集束型超音波センサーにすることで、血管などから発生する超音波を超音波センサー面に集束させて光超音波画像を取得でき(図2(左))、同センサーから超音波を集光して送信し反射した超音波を受信することで超音波画像を取得することが可能となります(図2(右))。また、レーザー光を照射する光学系と超音波センサーを一体化することで小型化し、複雑な形状の顔皮膚に超音波センサーを近づけることが可能となりました。
本走査方式では、波長ごとに走査すると生体の動きや変化が測定結果に影響するため、1つの測定場所で2波長の光超音波イメージングおよび超音波イメージングを行ってからセンサーで走査する必要があります。この時間のロスを少なくするには、システムで2波長の光源、超音波の送受信、センサーによる走査を同期させなくてはなりません。本システム(図3)では、専用の波長光源、超音波センサー、XYステージを開発し、専用ボードで制御することで計測時間を短縮、深度2mm、6mm角を15μmステップで走査し約4分で測定できるようになりました。
2波長光源は、532nmと556nmのパルス光を交互に照射可能であり、得られた光超音波信号の差分から酸素飽和度を求めることができます。また、超音波画像を光超音波画像と重ねることで、皮膚表面からの血管の深さ情報や、毛穴、皮脂腺などとの相関を調べることも可能となります。
生体(目または皮膚)に対するレーザーの安全基準として、最大許容露光量(Maximum Permissible Exposure、以下MPE)注4)が規定されています。本システムは皮膚のMPEを満足しており、顔の皮膚などのin vivoイメージングが可能です。このように、従来得ることのできなかった皮膚血管網の酸素飽和度情報を光超音波画像と合わせて画像化することで、皮膚に関する新たな研究開発ツールや診断装置としての可能性が期待されます。
今後、酸素飽和度計測の有効性について研究を進め、システムの実用化を目指します。
<参考図>
図1 前腕皮膚の測定例
血管の色が青いほど酸素飽和度が低く、赤いほど高い。
図2 集束型超音波センサーを用いた光超音波イメージング(左)と超音波イメージング(右)の原理図
図3 開発したシステムのブロック図
<用語解説>
- 注1)in vivoイメージング
- 生体を測定し画像化することです。
- 注2)光超音波イメージング法
- 吸収体にレーザー光を照射し、光を吸収した吸収体が熱膨張して発生する超音波(光音響効果)を検出、イメージングする手法です(下図)。
- 注3)酸素飽和度
- 血中の総ヘモグロビンのうち、酸素と結合したヘモグロビンが占めている割合(%)を指します。光超音波イメージングでは、2つの波長で得た音圧から、酸化ヘモグロビン濃度と還元ヘモグロビン濃度を計算し、酸素飽和度を算出します。
- 注4)最大許容露光量(MPE)
- 過去のレーザー放射による障害発生率50%のレベルの1/10の光強度として規定されています。
<お問い合わせ先>
<研究に関すること>
西條 芳文(サイジョウ ヨシフミ)
東北大学 大学院医工学研究科 教授
<ImPACT事業に関すること>
内閣府 革新的研究開発推進プログラム担当室
<ImPACTプログラム内容およびPMに関すること>
科学技術振興機構 革新的研究開発推進室
<報道担当>
東北大学 大学院医工学研究科 総務係
株式会社アドバンテスト 広報課
科学技術振興機構 広報課